2003 年の column

ここの幾つか 「手頃で易しいもの」 が抜き出されて 「数学雑感」 の題名の下, 数学部会通信 2005 第 52 号」 に掲載された。

Monday, 17th November, 2003 に 40 番目のメルセンヌ素数 (Mersenne prime): 220996011 - 1 が発見された。 6320430桁。 ミシガン州立大大学院で化学工学を専攻するマイケル・シェーファ Michael Shafer が発見。

Saturday, 13th December, 2003.


2√2 ≒ 2.6651441426902251886502972498731 という数は Hilbert の超越数と呼ばれているそうである。

Sunday, 7th December, 2003.


ある試行の結果, 事象 A が起こる確率を p (0 < p < 1) とする。 その試行を n 回独立に行うとき, A の起こる回数を Sn とすると, Sn/n → p as n→∞. もう少し正確に言うと, |Sn/n - p| > ε となる確率が n → ∞ の時 0 に収束する。 [Jacob Bernoulli の定理]
 この定理は, Jacob Bernoulli は二項分布を詳しく計算することによって証明した (福島正俊, 確率論, 裳華房)。
 Bernoulli の定理は, 現代確率論に於ては, 次の大数の弱法則と呼ばれる定理の特別な場合になっている:

確立変数列 {Xi}i=1n は独立同分布で各 Xi は平均が m であるとする。 この時
∀ε > 0 (limn→∞ P(|(Σi=1n Xi /n - m| > ε) = 0).

実際, 第 i 回目の試行で事象 A が起こるとき Xi = 1, 起こらないとき Xi = 0 とすると P(Xi = 1) = p, P(Xi = 0) = 1 - p. E(Xi) = p, Sn = Σi=1n Xi であるから。

杉田洋
大数の法則
数学セミナー (11), 2003

「セント・ペテルスブルクの問題」 というのがある。 これは 「硬貨を投げ続けて i 回目に初めて表が出たら賞金 2i 円を受け取る」 という賭の期待値に関する問題である。 「i 回目に初めて表が出る」 という確率は 1/2i であるから, その期待値は Σi=1 2i/2i = ∞ になってしまう。 ということは, この賭には参加料が幾らであっても絶対参加した方が得ということになる。
 が, 実は次のような弱法則が成り立つのであるという。
第 i 回目の賭の賞金を Xi とすると, ∀ε > 0 (limn→∞ P(|(Σi=1n Xi /(n log2n) - 1| > ε) = 0).
 これに拠れば, n 回だけこの賭に挑戦すると, 平均的な賞金総額は n log2n 円ということになる。

Ibid.

A. A. Markov (マルコフ, 1856 -- 1922) は 1906 年の論文で 「エフゲニー・オネーギン」 や 「孫パグロフの幼年時代」 等の文学作品の中での母音と子音の現れ方を例にして, 次のような模型を提案した。
 有限集合 S = {a1, a2, ..., aN} を採り, その n + 1 この直積 Ω とその冪集合 2Ω を考え, その上に次の条件を満たす確率 P を決める:
∀b(k) ∈ S (P[x(k) = b(k), k = 0, 1, ..., n] = p(b(0))・p(b(1), b(2))…p(b(n-1), b(n)), where
p(ai)) ≧ 0 for i = 1, 2, ..., N;
P(a(i), a(j)) ≧ 0 for i, j = 1, 2, ..., N;
Σk=1Np(a(k)) = Σk=1Np(a(i), a(k)) for i = 1, 2, ..., N.
 この確率 (又は確立変数列 {x(0), x(1), ..., x(n)} ∈ Ω ) を初期分布 {p(a(i))} で, 一歩の推移確率が行列 (p(a(i), a(k))i, k = 1, 2, ..., N で与えられる状態空間 S 上のマルコフ系列という。

池田信行
確立変数列から確率過程へ
数学セミナー (11), 2003.
(グネジェンコ, ヒンチン, 確率論入門, みすずの付録参照)

中心極限定理と呼ばれる種類の定理があるが, この名付け親は G. Polya (ポーヤ, 1887 -- 1985) で, 1920 年のことであるという。

池田信行
確立変数列から確率過程へ
数学セミナー (11), 2003.

数学の体系としての確率論は, 幾何学や代数学と同じように, 公理系から厳密に構成される必要があり, その事は可能である。 (中略) 確率空間をある条件を満たす集合系として定義する。 この集合が何を意味しているかということは, 確率論を純粋に取り扱う際に重要なことではない (Hilbert の 「幾何学の基礎」 参照)。 良く知られているように, 全ての公理的な (抽象的な) 理論は, 数限りない具体的な解釈が許されるものである。 このようなわけで, 数学的確率論もそれぞれ自身から生ずる解釈と並んで多くの解釈が許される。 従って, その語の本来の意味では偶然事象や確率の概念と関係ないような科学の様々な分野にも数学的確率論が応用されるのである。

コルモゴロフ, A. N., 根本伸司訳
確率論の基礎概念
東京図書, 1975.

Monday, 3rd November, 2003.


Bertrand (ベルトラン) のparadox
 これは, 円があってそれを横切る直線を考える。 この直線が円によって切断される長さが, 円の内接三角形の一辺の長さより長い確率は幾つかという問題。 これが paradox といわれるのは, 色々な尤もそうな確率が得られるからである。
 私は数学セミナーで初めて見た。 検索したら (3), 1980 しか引っかからなかったのだが, これなのかどうか不明。 内容については日本語だと
http://www.nikonet.or.jp/spring/katudou/katudou.htm
http://www.comm.musashi-tech.ac.jp/~arimoto/arimoto/random/random.htm
の一番下等。 英語だと
http://www.cut-the-knot.org/bertrand.shtml
http://www.math.uah.edu/statold/buffon/buffon3.html
http://web.mit.edu/tee/www/bertrand/
http://robotics.eecs.berkeley.edu/~wlr/126/bertrand.htm
http://mathworld.wolfram.com/BertrandsProblem.html
等。
 しかし筑波大学附属駒場高等学校の牧下英世氏によれば積分幾何学の基礎概念である一様な直線というものを定義すると 1/2 になるという。(じっきょう数学資料 No. 47)
 Bertrand が言うには, 様々な確率が得られるが, どれが正しいかを決定するのは数学の問題ではない。 各々の確率が算出されるときには, その各々の確率の根拠になっている仮定というものがある。 つまりそれが正しければそれによって求められる確率も正しい。 しかしどの仮定が正しいか, という問題は数学ではなく, 数学はその仮定に従って計算する過程にある, というのである。
 私は, 高等学校の数学で扱っている確率の問題やその他の分野の所謂応用問題 (文章題) の胡散臭さというのは, どうもこの辺にあるような気がするのである。

Saturday, 4th October, 2003.


Yahoo ! の数学掲示板で arith_in_cript という人が書いていた式:

1 + 2 + (3 + 4 - 5)/(6 - (7/8) + 9) = 3.1415929...

Saturday, 27th September, 2003.


Σr=0n (nCr)2 = 2nCn であるというのは有名な話で (1 + x)n(x + 1)n = (1 + x)2n の xn の係数を比較することによって証明される。
 では Σr=0n (nCr)3 はというと, 実はあまりよく分かっていない。 この数を Franel numbers という。 この数に限らず, 二項係数絡みの和では分かっていないことが多いようである。

Saturday, 6th September, 2003.


Cauchy の第一定理ですが, これは感知さへ出来ればあとは (どんなに控えめに云っても少なくともその本質的な部分は), 問題なくできてしまうようなものです。 そう云うと今日の我が国の数学者達は直ぐ, では詰まらないのか, と思ってしまうようですが, 凡そその反対であって, 数の科学がかかる定理を持ち得たという事実, これは自然数だけしかなかったときから決まって居た事実 (それが発見されるか否かは別として) でして, 云はば数の内在的性質とでも云うべきものですが, この事実は例えを絶して驚異的です。と云いますのは形式的論理の到底予想出来ないようなものであります上に, その形がまことに簡単でしかも flexible であって, 何にも使えそうに思われることです (実際そうなのですが)。

岡潔
関数論の講義ノート, 1953

「無限小」 という概念を導入したのはヨハネス・ケプラーであるという。

上垣渉
カヴァリエリの原理とその系譜
数学セミナー (9), 2003.

カヴァリエリの原理は 「不可分量の幾何学」 Geometria Indivisibilibus Continuorum Nova quadam ratione promota, 1635 の第 VII 巻定理 I 命題 I として

同じ平行線の間に作られた任意の平面図形は, もし, その平行線から等距離のところで引かれた平面図形内の任意の直線部分が等しいならば, 互いに等しい。 そして, 同じ平行平面の間に作られた任意の立体図形は, もし, その平行平面から等距離のところで描かれた立体図形内の任意の平面部分が等しいならば, 互いに等しい。

として出て来る。

上垣渉
カヴァリエリの原理とその系譜
数学セミナー (9), 2003.

Saturday, 30th August, 2003.


関孝和について書かれた page に拠ると, 1683 年 (Leibniz より 10 年あと) には行列式を考えており, Bernoulli 数を Jacob Bernoulli よりも前に発見していたそうだ。 複素数の概念はなかったが, 正負の根を持つ方程式を扱い, 1661 年に中国の Yank Hui のものを研究して日本で初めて魔方陣を 1683 年に研究した。 1685 年には Horner に先んずること一世紀, 30 + 14x - 5x2 - x3 = 0 を解いた。 そして Newton(-Raphson) 法を発見した。
 Bernolli 数なんてどうやって発見したのだろうか ?

Sunday, 26th July, 2003.


△ABC と, その周上又は内部の点 P に対し L(P) = PA + PB + PC と置く。 AB ≧ AC ≧ BC とするとき L(P) は P = A で最大値を採る。 [Visschess, 1902]

証明: (Svetoshev Savchev, Titu Andereescu Mathematical Miniatures, The Math-Ass. of America, Anneli Lax new Math Library vol. 43, 2003 による)
一般に平面上の任意の異なる二点 X, Y に対して, 線分 XY の中点を M とすると, 平面上の任意の点 P に対し PM ≦ (PX + PY)/2 が成り立つ。 但し等号は P = X 又は P = Y の時に限る。 これは△PXY とそれを M を中心に 180 度回転させたものとで作られる平行四辺形を考えてみれば分かる。 この式から

AM ≦ (AX + AY)/2, BM ≦ (BX + AY)/2, CM ≦ (CX + CY)/2

なので辺々加え, s(P) = AP + BP + CP と置くと s(M) ≦ (s(X) + s(Y)) を得る。 が, 線分 XY 上に, 三点 A, B, C が同時にあることはないのだから等号は成立しない。 即ち

s(M) < (s(X) + s(Y))

函数 s(P) は連続函数で△ABC は有界閉領域だから最大値を持つが, s(M) < s(X), s(M) < s(Y) であるから s(M) は最大値ではない。 境界も含めた△ABC に入るどのような線分 XY に関してもこのことが成立するので s(P) は△ABC の内部で最大値を採り得ない。 (この証明から三角形でなくても凸多角形でも内部では最大値を採らないことが分かる)
 さて, 一般に△ABC で AB ≧ AC ⇔ ∠B ≦ ∠C である。 P が AB 上にあるとすれば PC ≦ AC となるから L(P) = (PA + PB) + PC ≦ AB + AC, P が AC 又は BC 上にあるときも同様である。 一方 L(A) = AB + AC であるから L(P) は P = A の時に最大値を採る。

Sunday, 20th July, 2003.


整数に幾らでも近い無理数が存在する, というのは自明であって, 例えば m, n を整数 (n >> 1), 0 < b < 1 なる (有理) 数と, 無理数 c を用いて m ± bnc という数を作れば良い。 しかし Pisot number として知られるようなあまり自明とは思えないような数で, かなり整数に近い無理数が存在する。 (他にもこんな数が。)

{an} を Lucas 数列としよう。 即ち a1 = 1, a2 = 3, an = an-1 + an-2. 下記のように Fibonacci 数列を {Fn} とすると, an = Fn+1 + Fn-1 であるが, p を素数とするとき ap ≡ 1 (mod p) が成立する [Lucas 数列の基本定理]。

Fibonacci 数列 {Fn} の逆数形の和に関しては非常に複雑な挙動をする:
n=1 1/(FnFn+2) = 1.
n=1 (-1)n-1/(FnFn+1) = (√5 - 1)/2.
n=1 1/(F2n+1 + 1) = (√5)/2.
n=1 1/(F2n) = (5 - √5)/2 [Lucas, 1878]. (分母の F の番号は 2n である)
n=1 1/F2n = (√5)(L(1/α2) - L(1/α4)), 但し, α = (1 + √5)/2, L(q) = n=1 qn/(1 - qn) はランベルト級数 [カタラン, 1878]
n=1 1/F2n-1 = (√5)θ22(1/α2)/2, 但し θ2(q) = 2q1/4n=1 qn(n-1) は Jacobi の θ 函数 [Landau, 1899]
 n=1 1/Fn = 3.359885662... は無理数である [アンドレジャニン, 1989; ブンシュー & ヴァーナネン, 1994; ドゥヴェルネ, 1997] が超越数であるか代数的数であるかは不明である。 ドゥヴェルネの証明については数学セミナー (7), 2003 の塩川宇賢氏の記事に出ている。 又, n=1 1/Fn の無理性の証明法により, n=1 1/F2n の無理性も言える。
 n=1 1/F2n-1, n=1 1/Fn2, n=1 1/Fn4, n=1 1/Fn6, ... は超越数である [ドゥヴェルネ, 西岡啓二, 西岡久 美子& 塩川, 1996] が, n=1 1/F2n が代数的か超越的かは不明。 更に n=1 1/Fn3, n=1 1/Fn5, n=1 1/Fn7, ... は無理数かどうかも不明。
 任意の整数 a ≧ 1, b ≧ 0 に対して n=1 1/Fan+b は無理数である [マタラアホ-プレボ, 2002 (a, b が互いに素の場合), 立谷洋平, 2003 (一般)]
 n=1 (-1)n/(F2n) は超越数 (subscript は 2n) [ブンシュー-ペテ, 1987]
 整数 a ≧ 1, b ≧ 0, d ≧ 2 に対し (d = 2 & b = 0 の場合を除き) n=1 1/Fadk+b は超越数, 除外される数は n=1 1/F2ka = 1/Fa + (α2 + 1)/(α(α2a - 1)) (α は上記と同じ (1 + √5)/2) [ベッカー-テッパー, 1994]
 整数 a ≧ 1 を固定し, 集合 {n=1 1/Fadk+b}, 整数 b ≧ 0, d ≧ 2 で d = 2 & b = 0 を除く, は代数的独立 [西岡久美子-田中孝明-利光剛, 1999]
 n=1 1/FFn は超越数 [田中孝明, 1999]
 d ≧ 2 は整数, an, bn は整数列で an は末尾が零列ではない, しかも limn→∞ (log(max(1, |an|)))/dk = limn→∞ (log(max(1, |bn|)))/dk = 0 とすると d = 2, an が定数列且つ bn が或る番号以上零列でない場合 n=1 an/(Fdn + bn) は超越数である。 尚除外した数は二次体 Q(√5) に入る [ドゥヴェルネ-西岡久美子, 2003]

Saturday, 12th July, 2003.


黄金比を屡々 φ と書くのは, パルテノン神殿再建をしたことでも有名な彫刻家フィディアスに因み 「フィディアスの比」 とも呼ばれるからだという。 又同じ比を τ と書くことがあるのは 「分割」 を意味するギリシャ語 (τομή ?) の頭文字だそうである。 (π pi と φ phi は音が似ているとか, Fibonacci の頭文字だとかいう説もある。 Earliest Uses of Symbols for Constants を参照。 Saturday, 27th September, 2003 に加筆)

フィボナッチ数列を {Fn}, F1 = F2 = 1, Fn+2 = Fn+1 + Fn とすると次の関係式が成り立つ:
Fn+1Fn-1 - Fn2 = (-1)n [カッシーニ-シムソンの定理]
Fn2 + Fn+12 = F2n+1
Fn+m = FmFn+1 + Fm-1Fn
Σk=1n Fk2 = FnFn+1
Σk=12n-1 FkFk+1 = F2n2
Σk=0n nCk Fk = F2n
Fn+k2 - (-1)k Fn2 = FkF2n+k [Sharpe]

Saturday, 28th June, 2003.


フィボナッチとして知られるピサのレオナルドは, キリスト教徒でアラビア数字を最初に使った代数学者とも言われている。

Wednesday, 25th June, 2003.


複素数体 C に n を自然数 (正の整数) として x1/n による 形式的冪級数環 C[[x1/n]] の商体 C((x1/n)) を考える。 この時 x1/1 = x, (x1/rn)r = x1/n という関係が成り立つことにし, いつものように xm/n = (x1/n)m と書くことにしよう。 この時 C{x} = ∪n=1 C((x1/n)) の要素を分数冪級数 fractional power series, 又は Puiseux 級数という。 C{x} は構成法から直ちに体であることが分かるが, 実は代数的閉体でもある。 この証明は Newton 多角形というものを用いて行われる。

Wednesday, 4th June, 2003.


[Euler の定理]
F(x) = F(x1, ..., xm) が, 変数 x1, ..., xm に関する n 次齊次式 (homogeneous polynomial) であるとき

更に一般に

最初の式の証明は, F(x) が n 次齊次式であるから F(tx) = tnF(x) となるので, この両辺を t で微分すると であるから, これに t = 1 を代入すると得られる。 更に r 階まで t で微分してから t = 1 を代入すれば次の式が得られる。

この式自体は代数幾何の分野では良く知られた公式らしいが, 証明方法に一寸感動したので載せておく。

Friday, 30th May, 2003.


Mordell-Weil の定理によると, Q 上定義された楕円曲線 E の Q 有理点の全体 E(Q) は有限生成 abel 群である。 即ち E(Q) = E(Q)tor×Z r となる。 Mazur の定理によって torsion 群 E(Q)tor は次の 15 通りのうちの何れかになることが知られている:
Z/nZ, 1 ≦ n ≦ 10 又は n = 12,
Z/2Z×Z/2mZ, 1 ≦ m ≦ 4.
 ところで, Z r の方の r のことを, この楕円曲線 E の階数 rank というのだが, rank r には上限がない, つまりどのような整数 n を考えても, それよりも rank の大きい楕円曲線 E が存在すると一般に信じられている
 では現在どの位の rank の楕円曲線が知られているかというと, 意外に小さい rank 迄しか知られていない。 現在のところ最大の rank は Martin-McMillen (2000) による rank ≧ 24 というものである。 完全に rank が分かっているものは Dujella (2001) による rank = 15 というものである。 しかし rank はこのように二桁にしか達していないが, 楕円曲線の係数の方は何と 58 桁にも及ぶ大きい数である。 ここの記事は Andrej Dujellaこの page に拠っている。

Saturday, 24th May, 2003.


Miles Reid (マイルス・リード) 氏は, その著書 Undergraduate Commutative Algebra (邦訳 「可換環論入門」 伊藤由香理訳, 岩波書店) で, 代数学が抽象化しすぎたことについて, 次のように述べている:

代数学が他の数学から乖離したこと, 一般の学部生に教える際に抽象的な approach だけでは不十分なことである。 前者は単に考え方の問題である。 私は代数学の seminar が, その内部だけの言語, 姿勢, 結果の判定基準, 再生産の機構によって, ゲットーのような閉鎖社会を形成し, 他の分野の動向に興味を抱かないようにしていることが残念であり, 不健全であると思う。

第 9 章 さようなら !
9.8 歴史をちょっと

私はこれは 「代数学」 を数学に直し, 「他の数学」 を 「他の学問」 に読み替えた方が良いと思う。

分配法則には二通りあって a(b + c) = ab + ac, (a + b)c = ac + bc なのだが, どちらかが右分配法則 (right-distributive law) でどちらかが左分配法則 (left-distributive law) と呼ばれる。 いつもどっちがどっちだか忘れる。 しかも Internet で検索してみたら, 同じ式がある site では右分配法則と呼ばれ, 別の site では左分配法則と呼ばれているのを発見した。 混乱するのは私だけではないと知って安心もしたが, 本当に正しいのはどっちがどっちなのだろう ?

一次変換というのは良く知られているが, じゃぁ二次変換っていうのはあるのだろうか ? というのを以前聞かれた。 実はあるのである。 P2(C) から P2(C) への双有理写像 birational mapping (ここでは齊次座標で表してある)
φ (x0 : x1 : x2) = (x1x2 : x2x0 : x0x1)
を二次変換 quadratic transformation 又は Cremona 変換という。
 この写像の説明は, 上野健爾著 「代数幾何入門」 岩波書店, 1995 が分かり易い。 この本は, 初等的な具体例に詳しくて, 代数幾何の入門としては良い本であると思う。

Wednesday, 21st May, 2003.


西川亨が伝えるところ (数学セミナー (6), 2003) によると, abelian group という名前を最初に用いたのは Jordan であるが, それは symplectic group Sp(n, Fp) という非可換群であった。 現在のように可換群の意味で abelian group という言葉を用いたのは Kronecker であって, Abel 方程式に付随する可換群のことをさしたのであった。 Kronecker がいなければ, symplectic group は今でも abelian group と呼ばれ, もしかしたら Sp という記号の代わりに Ab(n, Fp) というような記号が用いられていたかもしれない。

Wednesday, 14th May, 2003.


二項係数を と書くように, 多項係数 multinomial coefficient を と書く流儀があるようだ。

Saturday, 26th April, 2003.


二次曲線 (円錐曲線) の pencil (pencil of conics) というのを conic bundle (円錐曲線束) と言うのだそうだ。 又, 小学生がやるような 「余りのある割算」 (というか 「余りを出す割算」) は英語で division with reminder というそうである。

Sunday, 13th April, 2003.


{n! + k | k = 2, 3, ..., n} という集合を考える。 今, n > 5 とするとこの n - 1 個の数の中に素数の累乗はない。 n が 2 以上の自然数とするとき, この形の数で素数の累乗になるのは 2! + 2 = 4 = 22, 3! + 2 = 8 = 23, 3! + 3 = 9 = 32, 4! + 3 = 27 = 33, 5! + 5 = 125 = 53 だけである。

矢ヶ部 (やかべ) (いわお)
階乗は招く
数学セミナー (2), 2003, pp. 68--71.

Sunday, 6th April, 2003.


a, b を b > a2 を満たす自然数とすると連分数展開

が出来る。 [杉田心平 (17歳), 数学セミナー (3), 2003]

普通, Riemann 積分は縦割りで, Lebesgue 積分は横割り, という違いが強調される。 (中略) 先ず, 階段函数では, どちらでも同じということもあるが, 実は 「一様収束」 というのはもともと 「横割り」 の考えなのである。 そちらを優先すれば必然 Lebesgue 式になる。 Lebesugue 積分は, 一様収束から離れて自由になったのではなく, 一様収束に容易に持ち込める自由な形式を獲得したのだ。

梅田 (とおる)
徹底入門 測度と積分
有界収束定理をめぐって
(5) 可測集合と測度 注 4.
数学セミナー (3), 2003.

Tuesday, 1st April, 2003.


Laplace の算術的確率 (Laplace 著 「確率の解析的理論」 (1812 年) による)
 全体で n 通りの場合があり, そのいずれも同様に確からしいとする。 ある事柄 A が r  通りの方法で出現するとき, A の確率は, r/n  と定める。 (http://www004.upp.so-net.ne.jp/s_honma/probability/probability.htm)

Monday, 31st March, 2003.


1, 1, 9, 9 で 10 を作る問題: (1 + 1/9)×9 = 10.

[Wei-Hwa Huang の問題 (3, 3, 8, 8 で 24 を作る) の答]
3!×8 - 3×8 = 24.

Tuesday, 25th March, 2003.


数学質問箱」 の掲示板で次のような質問を見つけた。 案外手強かったので, 投稿した証明 (部分的に少しだけ書き方を改めた) と共にここに載せておく。

0 < x < 1 のとき次の不等式を示せ: π < sin(πx)/(x(1 - x)) ≦ 4.

tassui
2003/02/04(Tue) 02:25:37 No.665

証明: 先ず y = sin(πx)/(x(1 - x)) と置く。

1) y は x = 1/2 に関して対称である。
 これは x = 1/2 ± t と置いて代入すると, 何れにしても -1/2 < t < 1/2 で y = cos(πt)/(1/4 - t2) となることで確かめられる。
 従って以下では 0 < x ≦ 1/2 として良い。

2) y は 0 < x < 1/2 で単調増加である。
 先ず y' =(πcos(πx)・x(1 - x) - sin(πx)(1 - 2x))/(x(1 - x))2.
分母 > 0 だから,
u(x) = πcos(πx)・x(1 - x) - sin(πx)(1 - 2x)
と置いて, 0 < x < 1/2 で u(x) > 0 を言えばよい。 先ず u(0) = 0, u(1/2) = 0 が簡単に確かめられる。 次に
u'(x) = sin(πx)・(π2(x2 - x) + 2)
= sin(πx)・(π2(x - 1/2)2 + 2 - π2/4)
で 0 < x < 1/2 で sin(πx) > 0. 引用の都合上 v(x) = π2(x - 1/2)2 + 2 - π2/4 と置く。
v(0) = 2 > 0, v(1/2) = 2 - π2/4 < 2 - 9/4 < 0.
だから v(x) --- 従って u'(x) も --- は 0 < α < 1/2 である x = α によって u'(α) = v(α) = 0 になる。 この点で u(x) は極大又は極小だが, x = 0, 1/2 で u = 0 だから, 0 < β < 1/2 となる一つの β に関し u(β) > 0 ならばこの範囲で u(x) > 0, u(β) < 0 ならば, この範囲で u(x) < 0 である。 x = 1/4 とすると, u(1/4) = (3π - 8)/(16√2) > 1/(16√2) > 0 だから u(x) > 0.
 従って 0 < x < 1/2 で y' > 0 だから, y はこの範囲で単調増加である。

3) lim_(x→0) sin(πx)/(x(1 - x))
= π lim_(x→0) sin(πx)/(πx(1 - x)) = π
4) x = 1/2 の時 y = 4.

5) 以上により
0 < x < 1 ならば π < sin(πx)/(x(1 - x)) ≦ 4.

Wednesday, 5th February, 2003.


同僚に次の定理をきかれた (正確には一寸違うが)。 以前大学で代数学 1 (多分) で出た試験で, 講義で出て来た Eisenstein (?) の criteria を用いたら 「こんな中学生でも出来るような証明に, 大定理を使うなんて, 君達の見識を疑う」 みたいなことを菅野 (かんの) 先生に言われたことを思い出す...。

定理
整数係数の monic な代数方程式が有理数解を持つなら, その解は整数である。

証明:

与えられた方程式を xn + an-1xn-1 + an-2xn-2 + … + a1x + a0 = 0 と置く。 ak の全てが 0 であったとすると, もとの方程式は xn = 0 だから, 自明な解 x = 0 を重複度 n で持つので, 題意を満たす。 従って, ak のどれかは 0 でないとする。

もしも m = min{k | ak ≠ 0} > 0 とすると, もとの方程式は
xm(xn-m + an-1xn-1-m + an-2xn-2-m + … + am-1x + am) = 0 となるので, 最初から x = 0 なる解を除いておけば, a0 ≠ 0 の場合に還元される。 従って以下では a0 ≠ 0 とする。

方程式 xn + an-1xn-1 + an-2xn-2 + … + a1x + a0 = 0 の有理数解を既約分数で x = q/p, p > 0 と置く。 代入すると

(qn + an-1qn-1p + an-2qn-2p2 + … + a1qpn-1)/pn  + a0 = 0

即ち qn + an-1qn-1p + an-2qn-2p2 + … + a1qpn-1 = a0pn.

p > 1 と仮定すると, この右辺は p で割りきれるが, 左辺は p で割りきれないので矛盾である。 従って p = 1. よって有理数解は整数解 x = q である□

注意: monic (最高次の係数が 1) という条件は落とせない (前述の同僚はこれを落としていた)。 何故なら 2x2 - 7x + 3 = 0 即ち (2x - 1)(x - 3) = 0 のような例があるからである。 今の話を更に一般に広げると, 整数係数の monic な代数方程式の解全体を代数的整数といって一つの研究分野になっている。

Sunday, 26 January, 2003.

この事実は次の形にまで拡張できる。
A: UFD (= unique factorization domain), K: A の商体, f ∈ A[x] を monic な多項式とする。 この時 a ∈ K: f(a) = 0 ⇒ a ∈ A.
 このことは即ち UFD は normal ring であるということを意味している。

Wednesday, 14th May, 2003.


先日, ある都合があって, 2/11 を小数で表す必要があった。 普通の人はどうか分からないが, 数学の専門家はこのくらいは暗算で出来る。 即ち 2/11 = (2×9)/(11×9) = 18/99 = 0.18181818......

このように分母が 999…9 (= 10n - 1, 9 が n 個並んでいる) という形をしている分数は, 先ず帯分数にして, 分子の桁数が n より小さければ先頭に 0 を補ってやれば, それが小数点以下繰り返されるという事実がある。 例えば 12/999 = 0.012012012......

普通の分数 (整数/整数 という形をしたもの) は必ず循環小数で表されるから, 分母の数は 2 と 5 を因数に持たなければ必ず何倍かすると 999…9 と出来るはずであり, 2 と 5 を因数に持つ場合も考えると, それが 2p5q という形なら 999…9000…0 (= (10n - 1)10max(p, q), 9 が n 個並び続いて 0 が p と q の小さくない方の数だけ並ぶ) という形に出来るはずだ。 しかし実際に割算して小数にする以外では, 暗算で分母をこの形に持って来れるというわけには殆どの場合いかない。 勿論候補はある程度絞られて来る (例えば 1 の位が 3 だったら相手の 1 の位も 3 でないと掛けたときに 1 の位が 9 にならないということは分かる), がそれ以上はほぼお手上げである。 暗算じゃなければ電卓を叩いた方が速いので, 電卓を叩くか, 電卓が手元になければ筆算するということになる。

ところで, 2/11 を計算した直後に, 分子は忘れてしまったが, 13 分の幾つかという分数を小数で表す必要が生じた。 先ほど言ったように, ...3 という数を掛ければいいのだが, 十の位以上は幾つになるか分からない (もともと 9 が幾つ並ぶか分からない)。 というわけで, 電卓も手元になかったので筆算で (その時必要とされていた) 小数第 2 位まで求めたのだが, どうも悔しい。 帰りの道すがら色々考えた。

確か 7×11×13 = 1001 だった --- これは Cornelius Lanczos: Numbers Without End. 米田桂三訳 「数とは何か」 講談社 Blue Backs #269 に出ていたので私は良く覚えているのである ---  7×13 は 7×3 = 21 だから 91 で, 11 は桁をずらして足すから... よしよし, ちゃんと 1001 になる。 (先程述べたように) 999…9 = 10n - 1 と 1001 = 103 + 1 は親戚みたいなものだから上手くいくかも♪

1/1001 = (1/1000)×1/(1001/1000) = (1/1000)×1/(1 + 1/1000)
= (1/1000)×(1 - 1/1000 + (1/1000)2 - (1/1000)3 + ……)
= (1/1000)×((1 - 1/1000) + (1/1000)(1 - 1/1000) + (1/1000)2(1 - 1/1000) + ……)
= (1/1000)×((1000 - 1)/1000)(1 + 1/1000000 + (1/1000000)2 + ……)

ということは例えば 352/1001 だと, 分子の 352 を 1000 倍してもとの数を引くと 351648 で, これが小数点以下循環するから 0.351648351648......

これならほぼ暗算できる。 少なくとも割算を筆算するよりも計算間違いは少ないはずだ。

例えば:

7/13 = (7×7×11)/(13×7×11) = 49×11/1001 = 539/1001 = 0.538461538461......

3/7 = 3×13×11/(7×13×11) = 39×11/1001 = 429/1001 =  0.428571428571......

更に a/11 (a は 1 から 10 までの整数) ではこれは 9a/99 であると同時に 7×13a/1001 = 91a/1001 だから, 91a の百の位と 「一の位から 1 を引いたもの」 は等しい。 つまり Int(91a/100) ≡ a - 1 (mod 10) である。 例えば 8/11 = 56×13/1001 =  728 で, 百の位 7 と一の位 8 から 1 を引いたものは等しい。

Friday, January, 2003.

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