地獄のオルフェ

Sunday, 16th November, 2003
藤沢市民会館大ホール
14:00--


Jacques Offenbach (オッフェンバッハ, 1819 -- 1880)

Orphée aux enfers (地獄のオルフェ, 天国と地獄) --- 藤沢特別 version

台本: クレミュー, アレヴィ
日本語上演台本: 岩田達宗 (たつじ)
訳詞: 宮本益光

ユリディス: 針生美智子
オルフェ: 大野徹也
プルトン (アリステ): 篠崎義昭
字幕 (世論): 栗林朋子
ヴィーナス: 清水知子
キューピッド: 瀬戸理恵子
マルス: 有川文雄
ジュピター: 久保和範
ダイアナ: 李 恩敬
メルキュール: 井上幸一
ジュノン: 桐生郁子
ハンス・スティックス: 彌勒忠史
モルフェウス: 門井淑治 (湘南市民コール)

Guests: 市原多朗, 白石敬子, 小島博

増田宏昭
藤沢市民交響楽団
藤沢市合唱連盟
藤沢吹奏楽フェスティバル・バンド
鵠沼女子高校マーチング・バンド
リフレッシュ湘南

総監督: 畑中良輔
演出: 岩田達宗


チラシによる粗筋:

時はギリシャ神話の時代。 音楽教師オルフェはある娘に, その妻ユリディスは羊飼いアリステにそれぞれ浮気心を抱いているが, 共に発覚して派手な夫婦喧嘩。 オルフェの仕掛けた毒蛇に噛まれたユリディスは倒れ, アリステ (実は地獄の王プルトン) に連れ去られてしまう。 オルフェは妻を失って悲しむどころか, 浮気相手と一緒になれると喜ぶ始末。 しかし世論の非難は厳しく, 黄泉の国から妻を連れ戻すため, しぶしぶ天国に向かう。 事情を知った神々の長ジュピターはプルトンを呼び出し, 皆の前でユリディスを夫オルフェに還すよう命ずるが, 逆に神々の不行跡を暴かれ, 天国は一時騒然となる。 一同は事実解明の為, 地獄へと向かうこととなる。
 所変わってプルトンの館。 一足早くジュピターは蝿に変身してユリディスの部屋に忍び込むと, あろうことか互いに一目惚れ。 駆け落ちしようとする二人に監視の目は厳しく, オルフェが登場するに及んでジュピターは 「地上に着くまで妻の方を振り向かない事」 を条件に夫に戻すと宣言する。 帰途, ジュピターの起こした雷鳴にオルフェは驚いて後ろの妻を振り返るが, そこには妻の姿はなくなっている。 世論は困惑し, オルフェは内心大喜び。 プルトンは帰ってきたユリディスを地獄に留めると主張, ジュピターは酒神バッカスの巫女にすると明言し, 華やかな宴会が又始まる。

以下の記録で用いている粗筋は, オッフェンバック 「地獄のオルフェ」 及び 天国と地獄よもやま話 に拠っている。


クラ音でパック氏に勧められていたもの。 パックというのは

Either I mistake your shape and making quite
Or else you are that shrewd and knavish sprite
Called Robin Goodfellow. Are not you he
That frights the maidens of the villagery,
Skim milk, and sometimes labour in the quern,
And bootless make the breathless housewife churn,
And sometime make the drink to bear no barm,
Mislead night-wanderers, laughing at their harm?
Those that Hobgoblin call you and sweet Puck,
You do their work, and they shall have good luck.
Are not you he?

W. Shakespeare
A Midsummer-Night's Dream
2.1.32 -- 42
The New Shakespeare, Cambridge Univ. press, 1924.

というあの妖精パックである。

どこが藤沢市民特別 version かというと:

等様々な ideas をふんだんに盛り込んだということである。


朝の内は南東から南西にかけて大きな黒雲が空を占有していて天気が不安だったが, 10:30 頃からとても天気が良くなって安心。 しかし天気予報によれば夜は寒いらしいので油断は禁物。 外に出てみると南風が非常に強い。 コンタクトレンズをしている身には, 強い風は目に辛いので, サングラスをしているのだが, 藤沢駅についてかけようとしたときに, 右のつるを止めているねじがなくなっていることに気付いた (T-T)。 直してもらわなくてはいけない。幾らかかるのであろうか。

演出に関しての参考資料として岩田達宗氏への interview を見つけた。 参考にして欲しい。

Hall 前には 15:20 頃到着。 当日券売り場には 「C 席は売り切れ」 と書いてあった。
 開場時間 15:30 になって入ってみると, 中は文化祭的雰囲気。 もぎりとチラシを渡す係りの人は修道女 (?) 的いでたち。 階段の手すりには天国を思わせる白い紙で作った雲と, 綿をつけてそれらしい雰囲気を出している。 又, 一階 (地下に感じる) は証明を暗くして, おどろおどろしい雰囲気を出して 「地獄」 と銘打っている。 飲み物も 「地獄のメニュー」 「天国のメニュー」 と分けていて全く文化祭的だ。 プログラムは \500 とのことだったが, サングラスの件があるので節約せねばならぬ。 席があるわけではないが一階席に入ってみると, 前の方は照明でまぶしかったりする。 二階席はかなり高い位置にあり, しかも傾斜が急なのでものを落としそうで恐い。 オケピは全く見えない。 高さは三階席の位置である。 端の方であっても一階席にしておけばよかったかなと思う (後の祭り)。 双眼鏡を持ってきたが落としそうなので最初は出さないでいた。 C 席完売の筈だったが, 私の右隣の席は最後まで空いたままだった。 今回は藤沢市民会館開館 35 周年, 市民オペラ創立 30 周年, 芸術文化振興財団設立十周年記念だそうである。 良く見るとチラシにもそう書いてあった。

14:05 tuning.
Prologue: 字幕登場。 字幕が 「機械対人間の葛藤」 を演じるのはここだけだった。 「絶対」 を誤って 「絶鯛」 と表示してしまう機械---あとで訂正して 「ゴメン!」 と謝る。 舞台は至って簡素。

第一幕第一場 オルフェの家
かなり現代的に arrange されている。 ユリディスは携帯を持っているし (この携帯は小道具としてかなり活躍する), オルフェは自転車に乗って登場。 リストラをやっと免れた大学の音楽教授という設定。 人間ではなく美少女漫画や美少女人形に耽溺しているという設定。母の形見だという vn (いかにも安物) を持っていて, 妻がクラシックなんて退屈で詰まらないと歌うと, Christoph Willibald Gluck (1714--1787) の Orpheo ed Euridice から Che Farò senza Euridice の melody を演奏する (これを歌うのは何故かハンス・スティックスだけである)。 因みに, 地獄のオルフェは二幕版が 1858 年パリ, 四幕版が 1878 年パリ初演, Gluck の方が 1762年 Wien初演で1774 年フランス語歌詞パリ初演。
 暗転して, アリステの麦畑
 ここで原作では 「遺書」 になっているものが, 携帯メールに進化している。字幕に (だけ) 送信完了の文字が出て一寸面白い。 原作では蛇の毒で死ぬことになるらしいが, ユリディスが何によって死んでいくのかがこの演出ではあまりよく分からない。

第一幕第二場 病院
ここへの序曲は一寸練習不足か? 揃っていない気がする。
 退廃的雰囲気。 ローラースケートを履いて走り回っているキューピッドが大変可愛い。 メルキュールは一人キックボードに乗っている。 ジュピターが何か説明しようとするとジュノンが 「詰まらん, お前の話は詰まらん」 と CM の台詞を言う。 ジュピターに抗議する場面では, 年金問題, 消費税問題, (多摩川にあらわれたあごひげアザラシ) たまちゃん問題等が訴えられる。(この辺は大分改変されているようである)

ここは病院という設定なので (元のオペレッタでもそうらしいが) 食べ物がまずいとこぼしている天国の住人にプルートが地獄土産と称して鳩サブレと江ノ電最中を持ってきて, 天国の住人が狂喜乱舞するという scene があるが, ここで用いられる鳩サブレと江ノ電最中は本物だそうである (パック氏情報)。

《25分休憩》15:39 --
この間に双眼鏡を出しておく。

第二幕 16:06 -- tuning.
第一場 プルートの寝室
ユリディスは退屈しきっている。 そこにハンス・スティックス登場。 カストラート (しかもおかま) という設定。 胸を露出しているように見える作り物の服を着ている。 もののけ姫や, Che Farò senza Euridice, あの歌声は (セビリアの理髪師から) その他を歌う。

第二場 地獄の大広間 (宴会場)
時代錯誤 (anachronism) ではあるが, クレオパトラ, ナポレオン, (キリスト教の) 教皇, 日本の僧侶などが見つけられる。 その他にもいるかもしれない。
 ここで地獄のガラコンサートと称して, guests が音楽を披露する。 プルートが司会。 さすがに誰が何を歌うのかまでは覚えていないらしくメモを片手に紹介。 以下の歌にはさすがに字幕がつかなかった。
 先ず白石敬子がプッチーニの 「蝶々夫人」 から 「ある晴れた日に」。 つぎに小島博 (彼は鵠沼女子高等学校の教頭だそうである) がグノーのファウストから 「門出を前に」。 つぎに市原多朗が 「サンタルチア」。 このサンタルチアはとても上手い。 続いて (天国の面々退場) 藤沢吹奏楽フェスティバル・バンドのセレブレーションメドレー (-- 17:05), 最後は鵠沼女子高等学校マーチング・バンドのマーチングメドレー (-- 17:25)。 これらのバンド演奏中は地獄の住人たちが踊っていたりするので良く見ていると面白い。 が, 一寸本筋からはずれる時間が長くて間延びした感じを与える。
 本筋に戻って, 世論 (字幕) が言葉が乱れているのでフランス語でやろう! と叫んで (ギリシャの神々なんだからギリシャ語でやろうという反対も押し切って) 原語になる。有名な振り返ってしまうシーンで, ユリディスは滑り台で下に降りてくる。

17:25 からカーテンコール
17:33 終了。

小学生, 中学生当たりにこういうのを見せたら opera 好きが養成できるかもしれない (一部一寸表現上まずいのがあるが, 中学生なら大丈夫だろう)。(うちの学校は芸術鑑賞教室がないので出来ない)

外に出てみると, この時間でも暖かい, というか暑いくらい。急いで帰ってサングラスを直してもらう。勿論買った店だったが, そんなことを気にもせず, 無料で直してもらえた。そういうものなのかもしれない。そうと分かっていたら program 位買っておくんだった (失敗)。

14:00 Sunday 23 にはゲスト歌手を除いては同じ cast で, 18:00 Saturday, 22, 14:00 Monday 24 には別 cast で上演された。

ところで, 天国の住人たちが地獄行きを歓迎しているのがあったので思い出したが, 確か太宰が 「極楽に召された老夫婦が, あんまり毎日毎日同じことの繰り返しなので退屈し, ついには毎日地獄はどういうところだろうと空想に耽って, 想像の限りを尽くして語り合う」 というような話があったが, もしかしたらこの operetta に hint を得たのかもしれない (全然確証なし, 単なる思いつき)


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