Maxim Vengerov Violin Recital

Sunday, 31st October, 2004.
横浜みなとみらいホール
14:00--16:45


Voyage de Violin.

Johannes Brahms (1833/5/7--1897/4/3):
 Scherzo in c-moll (from F.E.A. sonata, 1853)
 vn sonata Nr. 1 "Regenlied" (雨の歌)

《超絶技巧の entertainment program》
Henryk Wieniawski (1835/7/10--1880/3/31): Brilliant Variations for created theme op. 15,
 Polonaise Brilliante No. 1 op. 4. (arranged by Kreisler)
Fritz Kreisler (1875/2/2--1962/1/29):
 Liebesleid (愛の悲しみ),
 Liebesfreud (愛の喜び).
Sergey Vail'yevich Rakhmaninov (1873/4/1--1943/3/28): the 18th variation of "Variationen über ein thema von Paganini" op. 35. (arranged by Kreisler)
Wieniawski: Scherzo Tarantella op. 16.
Rakhmaninov: Vocalise op. 34-14.
Nicoló Paganini (1782/10/27--1840/5/27): La Campanella,
 Cantabile in D-dur.
Charles Camille Saint-Saëns (1835/10/9--1921/12/16): Caprice-Waltz op. 76. (arranged by Ysaÿe)

Maxim Vengerov, vn.
Lilya Ziberstein, pfte.


いつものように定期的にやって来た (とはいえ最近多い気がする) 神奈川芸術協会からの DM に入っていたチラシで知った。 「至芸の (きわみ)」 なる謳い文句に惹かれる。 "Super violinist" とか, チラシで小林伸太郎が 「彼の 《天才》 的な音楽の喜びに浸ることが出来るなら, 私は何処へでも出掛けたいと思う。」 等という煽り文句や, program の内容も良い。 唯, チラシに書いてある 《超絶 entertainment program》 はその全てをやるわけではなく, 選曲してやるといい, 「聴いてみたい曲」 の投票をジャパン・アーツの HP 上で 31st Aug 迄やるという --- が, 投票で選曲するのではないという。 この辺が一寸引っかかるがまぁどの曲でもいいやと購入。  1F C23-18. 後ろだが中央である。 良く考えたらこの月は毎週のように出掛けることになってしまう。 まぁそういう月が年に一度くらいあってもいいだろう。

Thursday, 10th June, 2004.


昨日来の雨は午前中に止んで曇。 と思ったら桜木町に着いたところ小雨であった。 ホールのところで貰ったチラシに惹かれて Inbal の振る 「幻想交響曲」 の ticket を買う。 チラシはビニール袋に入っているのではなく, 輪ゴムで止めてあった (珍しい)。

気が付くと, 先ず一曲目に Brahms の Scherzo (F.A.E. ソナタ第三楽章) が加わり, ピアニストは Evgenia Startseva が 「都合により出演できなくなった」 ので Lilya Ziberstein に変更になったと書いてあった。 HP でも見れば書いてあったのだろうか?

第二部は 「超絶 entertainment program」 ということで次の曲が announce されていた。
Nicoló Paganini (1782/10/27--1840/5/27): Cantabile in D-dur.
 La Campanella,
 Variations of Rossini's opera “Moses and Aron”.
Henryk Wieniawski (1835/7/10--1880/3/31): Brilliant Variations for created theme op. 15,
 Scherzo Tarantella op. 16.
Pablo Martín Melitón de Sarasate y Navascuéz (1844/3/10--1908/9/20):
 Malagueña op. 21-1,
 Prelude and Tarantella op. 43.
Joseph Joahim (1831/6/28--1907/8/15): Romance.
Charles Camille Saint-Saëns (1835/10/9--1921/12/16):
 Le Cygne (白鳥),
 Caprice-Waltz op. 76.
Fritz Kreisler (1875/2/2--1962/1/29):
 Liebesleid (愛の悲しみ),
 Liebesfreud (愛の喜び),
 ウイーン小行進曲

プログラムには次の 16 曲が載っており, 相変わらず 「後半は以下の曲目の中から選曲して演奏されます」 と書いてある。 幾ら何でも当日は決まっているかと思ったが, そうではなかった。
ラフマニノフ (クライスラー編曲): 第十八変奏。
J. ウィリアムズ: 映画 「シンドラーのリスト」。
パガニーニ: カンタービレ。
チャイコフスキー: アンダンテ・カンタービレ。
パガニーニ: ロッシーニのオペラ 《モーゼとアロン》 より 「汝の乾しをちりばめた玉座に」 による変奏曲。
ドヴォルザーク: 三つのロマンティックな小品。
サン=サーンス: ワルツ・カプリース。
パガニーニ (クライスラー編曲): ラ・カンパネッラ。
サラサーテ: 序奏とタランテラ op. 43.
サラサーテ: サパテアード。
ドビュッシー: 亜麻色の髪の乙女。
クライスラー: 愛の悲しみ。
クライスラー: 愛の喜び。
チャイコフスキー: ワルツ・スケルツォ op. 34.
ヴィエニャフスキ: 創作主題による華麗なる変奏曲 op. 15.
ヴィエニャフスキ: スケルツォ・タランテラ op. 16.

意外に子供が多い。 背中に vn を背負っていたりする。 大人でもそういう人がちらほら見かけられる。 ほぼ満席のようだが, ちらほら空席が見かけられる。

第一部: 14:07--14:44

Scherzo in c-moll.

元々シューマンが発案した sonata で 2nd Mvt と 4th Mvt をシューマンが, 1st Mvt は弟子の A. ディートリヒ, 3rd Mvt をブラームスが書いた。 FA.E. は frei aber einsam (自由であるが孤独) の頭文字で, F A E の音型が全曲に使われている。 全曲演奏されることはあまりなく, この部分だけが単独で演奏される。 Allegro 複合三部形式。 ロマンティックな中間部が素敵。

Vn sonata in G-dur. 14:09--

3rd Mvt 冒頭の主題が 1873 年作曲の Regenlied (雨の歌) op. 59-3. (歌詞はハンブルク出身の詩人クラウス・グロートによるもので, 内容は 「雨よ振れ。 雨になると子供の頃に見た夢を思い出す」 というようなものだそうだ) と同一だからそう呼ばれているそうである。

1st Mvt 終わり頃に (多分) ケータイを鳴らした者がいる。
2nd Mvt (14:25--) ゆったりとした曲。
3rd Mvt (14:39--14:42) pfte が柔らかい。 自然な流れ。 唯一寸盛り上がりに欠けるかな。

《休憩 20 分》

第二部 15:06--16:21

マイクを出して, 曲の紹介をしながら進行。 Kreisler の Liebesleid, Liebesfreud は続けて演奏された。
Wieniawski の最初の二曲では途中の pfte だけの間奏も cut せずに原曲通りの演奏であった。
Kreisler 編曲の Rakhamaninov の第十八変奏は曲目解説を書いた渡辺和彦によると 「従来まで殆ど知られていなかった編曲版である。 勿論クライスラー自身による録音も存在しない」 ということである。 この第十八演奏は Paganini 原曲の主題の反転によるもので, 不協和音の多い全曲の中で突然協和音でいっぱいのこの甘い melody が流れるのが少し異様でもある。 編曲版を聞いた限りでは, この曲は主題が pfte 用に作られているので, 逆に pfte が伴奏で vn が主題を奏でると効果が薄れる感じがする。 主題はやはり pfte が演奏するのがいいと思う。
Wieniawski: Scherzo Tarantella op. 16 のあとで弓が何本か切れたので手でちぎっていた。
Rakhmaninov: Vocalise op. 34-14. のあとで次のような joke が披露された:
Rakhmaninov と Kreisler は大変仲が良くて, あるときカーネギーホールでリサイタルを行うことになった。 Kreisler は暗譜を大変嫌がったが Rakhmaninov がどうしてもというので暗譜でやることになった。 ところが演奏中に Kreisler は頭が真っ白になってしまった。 そこで Kreisler は演奏中の Rakhmaninov に近寄ってこう訊いた 「今何処だ? Where are we?」 Rakhmaninov はこう答えた 「今? カーネギーホールさ」。
最後の Saint-Saëns: Caprice-Waltz op. 76 は 「六つの練習曲 op. 52」 の中の第六曲 「ワルツ形式の練習曲」 の編曲版だということである。

演奏が終わって二回目の登場の時に会場から花束が渡された。

アンコール:
(1) Brahms: Ungarishe Tanz (ハンガリー舞曲) Nr. 5. 16:24--16:26.

花束二個目。 花を一つ引き抜いて pianist に渡した。

(2) Antonio Bazzini (1818/3/11--1897/2/10): Ballet des sylphes (妖精の踊り) 16:28--16:34
大変技巧的な曲だが, 同時に大変楽しい曲でもあった。

ここで日本で起った災害や, イラクでの人質事件に言及して, 祈るように次の曲を弾いた。

(3) Jules Émile Frédéric Massemet )1842/5/12--1912/8/13): Méditation de Thaïs. (タイスの瞑想曲)

最後に日本語で 「人生は凄い。 ありがとう。 さよなら」。

Vengerov の vn は技巧的にたけているばかりではなく, 芸術性も高い。 「彼の 《天才》 的な音楽の喜びに浸ることが出来るなら, 私は何処へでも出掛けたいと思う。」  という小林伸太郎の言はあながち嘘ではあるまい。 今度は vn 協奏曲なども聴いてみたいものである。

外に出ると, もう雨は止んでいた。


因みに, 本日の第二部で演奏されたものは殆ど 11/25 発売という 「愛の悲しみ 愛の喜び」 EMI classics TOCE-55679 に収められているものと同一である。 Pfte はイアン・ブラウン。

ヴィエニャフスキ: 自作の主題による華麗なる変奏曲 op. 15.
パガニーニ: カンタービレ。
クライスラー: 愛の悲しみ。
クライスラー: 愛の喜び。
ヴィエニャフスキ: ポロネーズ ニ長調
ラフマニノフ: ヴォカリーズ
ラフマニノフ (クライスラー編曲): パガニーニの主題によるラプソディーより十八変奏曲。
サラサーテ: 序奏とタランテラ op. 16.
ヴィエニャフスキ: ポロネーズ イ長調
ヴィエニャフスキ: スケルツォ・タランテラ op. 16.
ジョン・ウィリアムズ: 「シンドラーのリスト」 のテーマ。
サン=サーンス: ワルツ形式の練習曲。


朝日新聞の記事

ロシア生まれの violinist マキシム・ベンゲーロフが今秋の来日公演で, 「若きビルトゥオーゾ (巨匠)」 の名に違わぬ技法を披露した。 「高い技術は音楽の熱い魂を伝えるために不可欠なもの」 という言葉に, 早くも円熟期を迎えつつある演奏家の自信が伺えた。 (上坂樹)

Recital では, ビエニャフスキやパガニーニ, サラサーテ, クライスラーなどの難曲を軽々と弾きこなし, まさに Vengerov の独壇場だった。
 「自分の技術の限界を超えようと努めるのは演奏家の宿命。 僕も小さい頃から逃れられなかった。 F1 の王者シューマッハーも同じだと思う」 と笑う。
 だが, ビルトゥオーゾを, 技術だけが独り歩きした 「腕達者」 と受け止める見方には反発する。
 「高度な技巧は音楽的・精神的に進化するために必要不可欠なもの。 そこから生まれる豊かな感情的 energy が大切なんです。 ビエニャフスキを始め, 優れたバイオリン奏者でもあった作曲家達は, このために宝石のような作品群を書いてきた」
 この思いを具現するのが, 日本出身のイタリアの富豪ヨーコ・ナガエ・チェスキーナ夫人から提供されたストラディバリウスの名器 「クロイツェル」 (1727 年製作) だ。
 Beethoven から violin sonata を献呈された事でも有名なバイオリン奏者クロイツェルが弾いていた伝説的な楽器で, Vengerov も 「僕の恋人」 という惚れ込みよう。
 「美しく豊かな響きと鮮やかな色彩感は素晴らしいプリマドンナが歌っているような感じ。 僕があまりに夢中なので, 付き合ってきた女性に良く嫉妬されました」
 だが, このプリマドンナは相当な気まぐれで, 御すのに苦労するらしい。 「演奏する度に反応が違い, 時に反逆する場合もある。 こちらが努力して繊細に気を遣うしかない」
 演奏会では, 曲の合間に聴衆と対話する姿も見られた。 時に日本語も交え, 実に家庭的な雰囲気だ。
 「Stage では, 演奏家が聴衆に君臨し, 客は音楽家を崇める形になりやすい。 同じ目線で communicate したいんです。 音楽は元々両者が互いに楽しむためにあるものだから」
 超多忙な生活から一転し, 来年は休息の年にするという。 バロック・バイオリン, ジャズ, タンゴ......。 勉強したい項目を掲げる時の, キラキラした目が印象的だった。

超絶技巧で熱い魂を
ベンゲーロフ, 名器を得て円熟
Evening, Monday, 13th December, 2004.


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