代数学の基本定理

Sunday, 23rd December, 2001.

(古典) 代数学の基本定理

複素数体 C は代数的閉体である。

とこう述べても良く分からないであろう。 別の述べ方をすると, 「複素係数の多項式 f(x) ∈ C[x] は C 上に零点 (zeros) を持つ」 ということになる。 気取ってないで普通の言い方をすれば 「複素係数の代数方程式は複素数解を持つ」 ということである。 代数方程式とは, 要するに 「多項式 = 0」 の形で書ける方程式のことである。

元来これは 「代数学の基本定理 the Fundamental Theorem of Algebra」 と呼ばれていたが, 現在の代数学は, 群, 環, 代数多様体等が研究の theme だったりするので, van der Waerden 等は 「より正確には複素数理論に於ける基本定理 (or more precisely, the fundamental theorem of the theory of complex numbers)」 と呼んでいる。 足立恒雄 (のりお) は 「方程式論の基本定理」 と呼びたいと述べている。 岩波数学辞典 (3 ed) では 「Gauß の定理」 と呼んでいる。

さて, この定理を主張したのは L. Euler (1707 -- 1783) や d'Alembert (1717 -- 1783) であったらしいが, 証明は出来なかった。 Cauchy (1789 -- 1857) は Liouville (1809 -- 1882) の定理を使って完璧に解析的に証明した。 又 (代数的) 位相幾何学を一寸勉強すると円周上のホモロジー群 H1(S; Z) を用いて (古典) 代数学の基本定理を証明することが分かる。 Gauß は証明を幾つかしている (幾つだかは私は知らない)。 第一証明 (1799) は実は比較的最近まで証明されていなかった代数曲線の定理を用いているという話を聞いた。 従ってこれは Gauß によって証明されたとは言い難い。 第二証明 (1816) は厳密な証明だが, 1814 にアルガン (1768 -- 1822) という (普通の人は聞いたことがないかもしれないが, 実は) 複素数の図形的表示 (いわゆる Gauß 平面) の先駆的な業績を残した人が類似の完全な証明を与えているということなので, Gauß の定理と呼ぶのは適当でないらしい。

この Gauß の第二証明というのが van der Waerden によれば次の証明であるが, 足立によればこれは Laplace によるものであるといい, 更に Gauß がこの証明に批判を向けたとあるので, 番号が違っているのか, Gauß が何らかの付け加えをしたのか良く分からない。 取り敢えずほぼ代数的なこの証明を掲げよう。

[証明]

f(x) = Σk=0n akxk, akC としよう。 つまり複素係数の多項式である。 複素数 a の複素共役数を a ̄ と書くことにして f ̄(x) = Σk=0n ak ̄xk, 即ち各係数だけ共役数にしたものと置くと

g(x) = f(x)f ̄(x) = Σk=0nj = 0k ajak-j ̄)xk,

で, ajak-j ̄ + aj ̄ak-j = ajak-j ̄ + (ajak-j ̄) ̄ が出て来るので, これは実数係数であることが分かる。 さて, α∈ C が g(x) の零点, つまり g(α) = 0 だったとしよう。 もしも f(α) = 0 ならば, これは f(x) の零点であるが, f ̄(α) = 0 だったとすると (f ̄(α)) ̄ = f(α ̄) = 0 だから, α ̄ が f(x) の零点である。 従って g(x) 即ち (複素係数ではなくて) 実係数の多項式が複素数の零点を持つことを証明すればよい。 従って f(x) は最初から実係数多項式であるとして良い。

deg f(x) (f(x) の次数) が奇数だったとしよう。 このとき適当に大きな自然数 N があって f(N) > 0, f(-N) < 0 となることは明らかであろう。 従って中間値の定理によって (函数 y = f(x) が連続だからどこかで x 軸を切らなければならないので) -N < c < N となる c で f(c) = 0 となることが分かる。

残った場合は deg f(x) が偶数だった場合である。 この場合 m を奇数として deg f(x) = 2km であるとして良い。 この 2 の指数 k に関する数学的帰納法によってこれを証明する。

k = 0 とするとこれは deg f(x) が奇数だということであるから, この場合は正しい。 従って k - 1 までは正しいことが証明されたとして k の時を証明する。

必要ならば体を拡大して --- という意味が分からなければ (丁度 x2 + 1 = 0 が R で解けないので i = √(-1) という数を作ったように) f(αj) = 0 となるような理想的な数 α1, ..., αn を付け加えて ---

f(x) = an(x - α1)(x - α2) … (x - αn)

とする。 証明の核心は, この各 αj が実は複素数であることの証明である。

さて t を任意の実数として

Ft(x) = Πp<q (x - αp - αq - t αpαq)

としよう (0 < p < q < n + 1 であるような p, q 全てに亙って掛算するという意味である)。 この式は方程式 f(x) = 0 の解 αj に関する対称式の積だから, やはりαj に関する対称式であり, (方程式の解と係数の関係から) 式 Ft(x) は f(x) の係数の式になるので, 係数が全て実数である。 この式 Ft(x) の次数は, 0 < p < q < n + 1 なる p, q に亙る積だから n(n - 1)/2 であるが, これは 2k-1 で丁度割り切れる。 というのは n = deg f = 2km だから n(n - 1)/2 = 2km(2km - 1)/2 = 2k-1m(2km - 1) で 2km - 1 は奇数だから。 というわけなのでこの Ft(x) については帰納法の仮定が適用されて, 少なくとも一つは複素数の解を持つ。 ところがこれは (x - αp - αq - t αpαq) の積という形で書かれているので, 明らかにその内の一つは αp + αq + t αpαqC である。 しかしこれは t の値によって違う数である。 つまり, 異なる t, s について Ft(x) = 0 から αp + αq + t αpαqC を得て, Fs(x) = 0 から αp + αq + s αpαqC を得る, というのを無限に沢山得ることが出来る (p, q の方は n(n - 1)/2 だけしかないが, t は無限に沢山の値が考えられるからである)。 ということはこれらの差を取って (t - s) で割れば αpαqC を得て, 従って αp + αqC を得るということになる。

さて二次方程式の解と係数の関係から αp, αqC を解に持つ二次方程式の一つは x2 - (αp + αq)x + αpαq = 0 となるが, これが複素数上に解を持つかというと, それは簡単で, 平方完成して (x - (αp + αq))2 + αpαq - (αp + αq)2 = 0 だから結局 a, b ∈ R とするとき x2 = a + bi が複素数で解けることをいえば良いことになる。

x = c + di, c, d∈ R とするときこれは

(c + di)2 = c2 - d2 + 2cdi

であるから, 結局

c2 - d2 = a,
2cd = b

という連立方程式を解けばよいことになる。

(c2 + d2)2 = c4 + d4 + 2c2d2 =  c4 + d4 - 2c2d2 + 4c2d2 = (c2 - d2)2 + (2cd)2 = a2 + b2

であるから c2 + d2 ≧ 0 を考え合わせて c2 + d2 = √(a2 + b2) となる, これは明らかに実数で, c2 - d2 = a だったから

c2 = (a + √(a2 + b2))/2 ≧ 0 (∵√(a2 + b2) ≧ √(a2 ) = |a| ≧ a),
d2 = (-a + √(a2 + b2))/2 ≧ 0 (同様).

従って c = ±√((a + √(a2 + b2))/2), d = ±√((-a + √(a2 + b2))/2) で複号は b の符号から同順か逆順か決まる。

というわけで証明された。■

尚, van der Waerden の §11 を見ると, この証明はほぼそのまま countable formally real field にまで拡張できる。 同所には (古典) 代数学の基本定理の別の簡単な証明は C. Jordan Cours d'Analyse I, 3 ed, p. 202, 直観的な証明は H. Weyl, Math. Z, 20, 142 (1914) を見ろとある。


参考文献:

van der Waerden Algebra I, 7th ed, translated by Fred Blum and John R. Schulenberger, Springer-Verlag.

足立恒雄 (のりお):方程式論の基本定理 --- いわゆる 「代数学の基本定理」 について, 数学セミナー (1), 2002, 日本評論社

高木貞治: 解析概論 改訂第三版, 岩波書店

中岡稔: 位相幾何学 --- ホモロジー論 ---, 共立講座 現代の数学 15, 共立出版


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