π の無理性と超越性

Friday, 28th April, 2000.
Wednesday, 3rd May, 2000.
Wednesday, 16th October, 2002.
Wednesday, 23rd April, 2003.


[0] 無理性(5/3/2000 に加筆)

Lindemann が超越性を証明してしまったので, 興味が低くなってしまったが, これは 1766 年に Johann Heinrich Lambert (ランベルト, 26th August 1728--25th September 1777) によってはじめて得られたものである。以下の証明は 1873 年の Charles Hermite (24th December 1822--14th January 1901) によるものである。 π が無理数であるという代わりに π2 が無理数であることを示せば充分である。

そのために先ず π2 が有理数であると仮定して π2 = a/b と有理分数で書けたとしよう。今, f(x) = xn(1 - x)n / n! と置くと, f(m)(0) = f(m)(1) = 0 or (-1)mm! / n! (後ろの方は n ≦ m ≦ 2n) が分かるので, f(m)(0) = f(m)(1) は何れにせよ整数である。この f(x) を用いて, F(x) = bnΣi=0n(-1)iπ2(n-i)f(2i)(x) と置くと, 仮定によって, F(0) と F(1) は又整数になる。

さて今 [F´(x)sin(πx) - πF(x)cos(πx)]´ = [F´´(x) + π2F(x)]sin(πx) = bnπ2(n+1)f(x)sin(πx) = anπ2f(x)sin(πx) であるから, 積分すると
01 anπf(x)sin(πx) dx = [F´(x)sin(πx) - πF(x)cos(πx)]01 /π = F(1) + F(0)
となってこれは整数である。ところが 0 < x < 1 の範囲では 明らかに 0 < f(x) < 1/ n! なので, n が充分大きければ 0 < ∫01 anπf(x)sin(πx) dx < anπ / n! < 1 である。0 と 1 の間には整数は存在しないので, これは矛盾である。


I. Nivan による証明は次のようである。 上記の Hermite の証明の改良版といった感じがする。(以下 10/16/2002 に加筆)

任意の自然数 p, n に対し f(x) = pnxn(π - x)n/n! と置き, ∫0π sin x f(x) dx を考えよう。 積分区間 0 < x < π では 0 < x(π - x) < π2 であるから 0< sin x pnxn(π - x)n < pnπ2n. これを辺々n! で割ってから x で [0, π] 上積分すると0 < ∫0π sin x f(x) dx < (pπ2)nπ/n!. しかし, 良く知られているように a > 0 であれば limn→∞ an/n! = 0 であるから, n >> p とすれば

0 < ∫0π sin x f(x) dx < 1

でなければならない。

さて, 部分積分を何度か繰り返すと (f(2n + 2)(x) = 0 だから)
0π sin x f(x) dx = [-cos x f(x)]0π + ∫0π cos x f'(x) dx = f(π) + f(0) + ∫0π cos x f'(x) dx = f(π) + f(0) + [sin x f'(x)]0π - ∫0π sin x f''(x) dx = …
= Σk=0n(-1)k(f(2k)(π) + f(2k)(0)). (これは一般の 2n 次式に関して成立する)

f(π - x) = f(x) であるから f(k)(x) = (-1)kf(k)(π - x). だから特に f(2k)(π) = f(2k)(0). つまり
0π sin x f(x) dx = 2Σk=0n(-1)kf(2k)(0).

f(x) の定義式から f(x) = (1/n!)Σk=0n(-1)knCkpnπn-kxn+k. 従って k = 0, 1, ..., n - 1, に対し f(k)(0) = 0, k = 0, 1, ..., n - 1, でありしかも

f(n + k)(0) = (-1)knCk((n + k)!/n!)pnπn-k.

さてここで π が有理数であって, 自然数 p, q によって既約分数 π = q/p の形に書けたとする。 f(x) を定義する際に最初から p として, この π の分母を採用しておいたとして良い。 こうすると, f(n + k)(0) を表した式中に現れる pnπn-k = pn(q/p)n-k = pkqn-k は整数だから f(n + k)(0) は全て整数である。 従って ∫0π sin x f(x) dx = 2Σk=0n(-1)kf(2k)(0) は整数であるが 0 < ∫0π sin x f(x) dx < 1 だったのでそれは矛盾である。


2003 年の大阪大学の後期入試で, π の無理性を証明させる問題が出た。 (Wednesday, 23rd April, 2003.)


[1] 超越性

(1) Carl Louis Ferdinand von Lindemann (12th April 1852--6th March 1939) (1882) の方法

π が代数的数であると仮定して矛盾を導く。このとき虚数単位をi としてπi も代数的数だから, 有理数体 Q 上の πi の次数を k, πi  の共役を a1, a2, ..., ak, ex = exp(x) として Πj = 1k(1 + exp(aj)) が成り立つ。この積を展開して

1 + Σi exp(ai) + Σi, j exp(ai + aj) + … + exp(Σi ai) = 0

とする。この式の各項の exp の中の ai, ai + aj, ... の中に 0 となるものが q - 1 個あるとして, 残りを書き換えて新たに {βj} と書き替えることにすると, 上記の式は exp 0 = 1 であるから

(a) q +Σj exp(βj) = 0

と同じである。この {βj} の基本対象式は (式の作り方から) 有理数であり, それ故 {βj} の方がある n 次の整数係数の多項式 b0Xn + b1Xn-1 + … + bn = 0, (b0 ≠ 0, bn ≠ 0) の根になっている。次に

f(X) = (b0np-1 / (p-1)!)Xp-1(b0Xn + b1Xn-1 + … + bn)p

という多項式を作る。ここに p は素数で p > max(q, |b0|, |bn|) となるものである。この多項式 f(X) から更に F(X) = Σi=0n f(i)(X) を作り, (a) を同時に考えると

(b) qF(0) + Σj=1n F(βj) = Σj=1n {F(βj) - exp(βj)F(0)}

を得る。

次の Charles Hermite (24th December 1822--14th January 1901) の lemma を仮定する

Lemma
一般に g(X) = a0Xm + a1Xm-1 + … + am に対して G(x) = Σi=0m g(i)(X) とすると, 任意の複素数 z に対して |G(z) - ez G(0)| ≦ |z|e|z|(|a0zm| + … + |am|) が成立する。

この lemma を (b) の右辺に対して適用することによって |qF(0) + Σj=1n F(βj)| ≦ Σj=1nj|exp(|βj|)ψ(βj) となる。ここにψ(βj) = (|b0np-1| / (p-1)!)|βj| p-1(|b0βj|n + … + |bn|)p である。従ってここで素数 p を充分大きく取って

(c) |qF(0) + Σj=1nF(βj)| < 1

が成立するとして良い。ところが一方で (多項定理を適用して) qF(0) ≡ b0np-1bnp (mod p) となるがこの右辺は p の取り方によって (mod p) で 0 にはならない。更に Σj=1n F(βj) は代数的整数しかも有理数であるから, 実は有理整数であることが分かり, しかも p の倍数であることも分かる。従って (c) の左辺は実は 0 でない有理整数であることが分かり, (c) 自体が実は不可能である。これは矛盾であり, 従って π は代数的数でなく, 従って超越数である。

(2) J. Hančl (1985) の方法

同様に π が代数的数であると仮定して矛盾を導く。今度は次数を M としよう。 自然数 N の素因数の個数を充分大きくして Euler の函数 φ(N) を考えるとき, φ(N)/Nが小さくなるようにできるから 2φ(8N)/N ≦ 1/M となるように N を決めておくことにする。このとき代数体 K = Q (π, cos(π /(4N)), sin(π /(4N))) の次数は N 以下である。

さて, f(x) を閉区間 [0, N] で (N + 1)n + N 階までは連続な導函数を持つ函数として, 次のような N 重積分を考える。

(a) In(f, N) = [(N!)(2n+1) N/(n!)N+1]∫01…∫01 f((N + 1)n + N)j=1NΠk=jN xk) Πk=1N (xknk+k-1(1-xk)n)dx1…dxN.

このとき In(f, N) は

(b) In(f, N) = Σm=0NΣk=0n[Akmf(k)(m) / k!]

の形に表される。この式における Akmは有理整数で,

(c) |Akm|≦Cn, (m = 0, ..., N; k = 0, ..., n)

の成立するような数であり, この C は N だけによって決まる正数である (証明は N に関する帰納法)。特に f(x) = sin(π x / (4N)) とすることが出来て, このとき |f(k)(x)| ≦ (π / (4N))k であるから, (a) により,

(d) |In(f, N)| ≦ [(N!)(2n+1) N/(n!)N+1] (π / (4N))(N+1)n+N ≦ C1n / (n!)N+1,

が得られる。C1も N だけによって決まる正数である。一方, (b) に於いて, f(k)(m) は cos(π /(4N)), sin(π /(4N)) の m 次の整数係数多項式と(π / (4N))kの積になるから, 0 でない有理整数 D を D π, D cos(π /(4N)), D sin(π /(4N)) の総てが体 K に於ける代数的整数になるように定めれば

S = n! (4N)nD2nIn(f, N)

は体 K の代数的整数となる。In(f, N) の Q 上の共役を In(j) とするとき (b), (c) から |In(j)| ≦ C2n が成り立つ。C2 も N だけによって決まる正数である。従って S の Q 上の norm Nk(S) に対して, (d) を考慮に入れて, |Nk(S)| ≦ (n!(4N)nD2n)N C2n(N-1) C1n / (n!)N+1 ≦ C3n / n! (又も C3も N だけによって決まる正数)。従って, ここで n を大きく取って |Nk(S)| < 1 とできるから (代数的整数であったので) Nk(S) = 0, 即ち In(f, N) = 0 でなければならないが, (a) の被積分函数はこの積分領域で符号を変えないからそれは不可能であり矛盾である。

[2] 非有理度

或る数 ξ が無理数であるとき, 有理数 p/q に対して |ξ - p/q| ≧ |q|-λとなる λ の下限を無理数 ξ の非有理度という。

Kurt Mahler (1903--) は 1952 年に |π - p/q| > |q|-42を示した。 即ち π の非有理度 ≦ 42.

M. Mignotte (ミニョット) は 1972 年に Mahler の方法を利用して |π - p/q| > |q|-20.6を示した。

これらは Padé 近似と呼ばれる函数近似を利用したものによって得られている。 この Padé 近似を更に深く考えることにより円周率の計算の所でも出て来た Grigoriĭ V. Chudonovsky は最初 |π - p/q| > |q|-19.89を示した。更に Riemann zeta 函数を参考にして Ln(x) = Σi=1[xi / in] を考え, L2(1) = π2 / 6 を利用して |π2- p/q| > |q|-6.325を得た。 ここで p/q が平方の形であるならば |π2- p2 /q2| > |q|-6.325×2であるが, この不等式は |π - p/q| < 1 を満たす p/q に関してのみ考えれば充分であるから, |π - p/q| > |q|-12.65 / (π + p/q) > |q|-12.66という結果を得たのである。


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