Friday, 13th February, 2009.
今回は一寸したドジ話を。
定理
正多角形の内接円の半径を r とする時, 元の正多角形の面積を S(r), 周長を l(r) であらわすと
dS(r)/dr = l(r).
証明 正 n 角形 P(n) の場合を考える。 内接円の中心から P(n) の各辺へ降ろした垂線の足から, P(n) の頂点までの長さを a とすると,
b/r = tan(π/n) である。 従って, b = r・tan(π/n).
従って l(r) = 2bn = 2rn・tan(π/n), S(r) = (2br2/2)n = nr2tan(π/n) □
何でこんなことを考えたかというと, 円について S(r) = πr2, l(r) = 4πr で, この関係が成り立っているが,
それじゃぁと気を良くして 正三角形とか正方形とかでやると上手くいかない。 何か上手い関係がないかなと考えているうちに, 正方形では一辺を 2r
と考えると上手くいくということにだいぶ前 (十年位前) に思い至った (演習問題)。
しかし, その時には, 円は Euclidean metric d(x, y) = √(x2 + y2) で, 正方形は Manhattan distance d(x, y) = max(|x|, |y|)
だからかな等とぼんやりと考えているだけだった。
勿論, 次元を上げて考えるというのも自然な考えで, 微分積分の教科書には, 球について V(r) = 4πr3/3, S(r) =
4πr2 で, やはり dV(r)/dr = S(r) が成り立っている。
これを立方体に拡張する時も, 一辺を 2r
と考えると同様に上手くいく (これも演習問題)。 これも, 次元が上がっても, 平面の時と同様に, 距離との関連があるのだと何となく思っていた。
ところがそうではないということが分かった。
きっかけは正八面体である。
正八面体では難しいので, 平面上で d(x, y) = |x| + |y|
で考えてみる。 この距離で半径 r の円は 四点 (0, r), (r, 0), (-r, 0), (0, -r) をこの順につないだ正方形である。 明らかに
S(r) = 2r2, l(r) = 4(√2)r で dS(r)/dr ≠ l(r) である。 これではいけないと思い至った。
つまり, 体積,
表面積の関係では, 距離を変えたときの半径を変数に置いたときの関数として原始関数, 導函数の関係にはないということである。
そのことが分かって,
直ちに考えたのは, 内接円の半径だったら上手くいくかもしれないということで, それは正方形や立方体の時に, 一辺が 2r
になるというのは内接円の半径の時もそうであるということだったからだ。
さっきの図形でやってみると S(r) = 4r2, l(r) = 8r
だから上手くいく。
正八面体は, 距離でいうと d(x, y, z) = |x| + |y| + |z| とした時の球で, その, x > 0, y > 0,
z > 0 の部分は x/a + y/a + z/a = 1 即ち x + y + z - a = 0 が切り取られる部分である。 Hesse の公式を使って,
原点との距離 r を求めて計算すると a = (√3)r であることが分かる。 従って一辺は (√6)r. だから S(r) = 12(√3)r^2, V(r)
=4(√3)r3 で確かに dV(r)/dr = S(r) が成り立っている。
そこで次のように考えたくなる。
[(三次元の) 正多面体において,
その内接球の半径を r, 正多面体の表面積を S(r), 体積を V(r) とすると dV(r)/dr = S(r)]
正多面体はご存知のように五種類しかなく, その内二つは検証したから, あと三種類だけ調べればいいことになる。
この辺,
平面の時のように統一的に出来ればすっきりいくのだがそうはいかないのだった。
色々な数値を計算しなければならないが, 検索すれば, 一辺の長さと,
内接球の半径, 表面積, 体積などの関係は出てくるので, それを用いることにした。 以下, 一辺の長さは a としてある。
(1) 正四面体
r = ((√6)/12)a だから a = 2(√6)r.
S(r) = (√3)a2 = 24(√3)r2.
V(r) = ((√2)/12)a3 = 8(√3)r3.
ちゃんと上手く成り立っている。
(2) 正二十面体
r = ((√3)(3 + √5)/12)a だから a = (√3)(3 - √5)r.
S(r) = 5(√3)a2 = 5(√3)((√3)(3 - √5)r)2 = 30(√3)(7 - 3√5)r2.
V(r) = (5(3 + √5)/12)a3 = 10(√3)(7 - 3√5)r3.
これもちゃんと上手く成り立っている。
ところが, である。
(3) 正十二面体
S = 3(√(25 + 10√5))a2
V = ((15 + 7√5)/4)a3
で, r = ((√(25 + 11√5)/(2√10))a
なので, 上手くいきそうにない。
従って, 定理としては甚だ不本意であるが 正十二面体を除く (三次元の) 正多面体において, その内接球の半径を r, 正多面体の表面積を S(r), 体積を V(r) とすると dV(r)/dr = S(r)
とせざるを得ない。 (下記参照)
確かに, 正十二面体は, 他の正多面体に比べて変わった形をしている気がするが, 「気がする」 だけではなく,
上記のように他の多面体で成り立つ性質が成り立っていない。
ただ単にこの性質だけなのか, それとも,
この性質を成り立たせなくするような幾何学的原理がその裏で働いていて, それがただ単に現れただけなのか。 むしろ逆に, 上記の性質は偶然成り立っているだけなのか。
そもそも, 平面では統一的に扱って証明が出来たのに, 立体ではそうはいかない所が, 定理の立て方の拙さなのかもしれない。 もっといい方法があるのかもしれない。
幾何学の不思議はこんな初等的な所でもまだ尽きない。 (微分するから初等的じゃないかも)
三次元ですらこうなのだから, 四次元だったらもっと例外が増えるのか。 それともむしろすっきりとしてしまうのか, 不思議だが大変そうなので考えたくない。
こうやって net 上に書いておけば, 誰かがやってくれるかもしれないので, ここにそのことを記しておく。
思わぬ展開。
ふと思い立った。 しかもこの文章を typing し終わった直後。
平面の方では, 中心と各頂点を結べば, 二等辺三角形になるから, rl/2 = S で, S が r の自乗の式, l が r の一乗の式だから,
これが微分したらそうなる (2r2/r = dr2/r) ということを表している。
立体の方だって, 各面と中心を結べば錐が出来るわけだから, rS/3 = V になっているわけで, S が r の自乗の式, V が r の三乗の式だから,
これも 3r3/r = dr3/r という, 微分したらそうなるという関係を表しているわけである。 (そもそも, 1/2, とか 1/3 とかいう係数が,
積分から出てきたのだから当然とも言える)
だから本当は正十二面体だってこれが成り立たないといけない。 どこで計算間違いをしたのだろう?
そうすると, 四次元でも五次元でも同様でなければおかしい。 そのことは直ぐにわかる。
あ〜しかし, こんなにすっきり証明出来るのに, どうしてわざわざつまらない遠まわりをしてしまったのだろう。