イヴ Eve

Tuesday, 5th December, 2000.

イヴと言って思い出すのは二つある。一つは旧約聖書創世記 3:20 に書いてある最初の女イヴ:

アダムは女をエバ (命) と名付けた。彼女が全て命あるものの母となったからである。

ヘブライ語起源である。 もう一つは---この page を書いている段階では---間近に迫ってきた, クリスマス・イヴのイヴである。

Christmas Eve は 「クリスマス前夜」 と訳される。これは誤訳ではない。 しかし, 前々日の夜をイヴイヴと呼ぶのは誤用法 malapropism である。 Eve とは even から派生している。Even は evening と同義であり, OE (= old English) の æfen, ドイツ語の Abend に遡れる。 イヴとはその日の夜のことを意味している。

そんな馬鹿な ! とあなたは言うかもしれない。 クリスマスは 12 月 25 日で, 24 日の夜がイヴだから前夜ではないか!

それは残念ながら違う。 或る日の夜がその昼に続く時間的に後の夜だと誰が決めたのか ? これは単なる文化の違いなのである。

現在では日付が変わるのは午前 0:00 (夜中の 12 時) と決まっている。 しかし少なくとも日本人の感覚としては, 大多数が日の出と共に --- 或いは自分の目覚めと共に --- その日が始まり, 昼に付随して夜が訪れて一日が出来上がっていると思っていると思う。 しかし我々がそうだからと言って, 全ての民族がそうだと決めつけてはいけない。

先程の旧約聖書創世記の有名な冒頭には何と書いてあるか? そこを読んでみよう。

初めに, 神は天地を創造された。 地は混沌であって, 闇が深淵の面にあり, 神の霊が水の面を動いていた。 神は言われた。
「光あれ」
こうして光があった。 神は光を見て, 良しとされた。 神は光と闇を分け, 光を昼と呼び, 闇を夜と呼ばれた。 夕べがあり, 朝があった。第一の日である。
創世記 1:1--5.

最初が闇であって光を作ったのだから, 第一の日は夜から始まらねばならないのである。 ヘブライ人にとって一日は日没と共に始まり, 夜に付随した昼があって一日が終わるのである。 従ってイヴは当夜のことであった。

これが我々のような昼に付随した夜の文化圏に入ってきて, 意訳して 「前夜」 としたのだが, それが誤解を呼ぶこととなり前夜祭や何やらを生み, ついにはイヴ2 なんて言葉まで生まれてしまった。 嘆かわしいことだ (笑)。

従ってクリスマス・イヴとは, イエスが生まれたその当夜のことなのである。 決して前日 (前夜) なのではない。 (但しその日付が 12 月 24 or 25 日であるというのは根拠がない。 これは歴史的には只単に冬至祭に合わせただけである。)


参考文献:

カレッジクラウン英和辞典 (第 2 版), 三省堂, 1979.
聖書, 旧約聖書続編付き, 新共同訳, 1988.


イヴを 「前夜」 と認識しているのはまだましであるらしい。 最近の人は 「イヴの夜」 等という到底理解し難い表現をするようだ。 どうやら 「イヴ」 というのを 「前日」 の事だと思っているらしい。 無知蒙昧も大分進んだようである。

Thursday, 23rd December, 2004.


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