消えた $1

Thursday, 1st March, 2001.
Friday, 23rd March, 2001.

問題:
三人の男がホテルに泊まりました。 ホテルの主人が一晩 $30 の部屋が空いていると言ったので, 三人は $10 ずつ払って一晩泊まりました。 翌朝ホテルの主人は本当は部屋代が $25 だったと気が付いて, 余計に請求してしまった分を返すようにとボーイに $5 渡しました。 ところがこのボーイは $2 ふところにおさめ, 三人に $1 ずつ返しました。

さて整理してみましょう。 三人の男は結局部屋代を $9 ずつ出したことになり計 $27。 それにボーイがくすねた $2 をたすと $29。 あとの $1 はどこへ行ってしまったのでしょう ?


最近こういうのが chain mail 化しているらしい。 私のところにも 2 件ほど問い合わせがあった。 因みに上記の問題は私に質問をしてきた, 昔の生徒の mail をほぼそのまま載せたものである。

この問題は算数の問題ともいえないものだ。 どちらかというと国語の問題なのだが, 答えがわからなくて困っている人もいるようなので, ここでどうなっているかを解説しておこう。

さて, 上記の問題を見て, おかしい所はどう考えても 「さて整理してみましょう」 以下にあるとしか思えない。 そこで, 他人が勝手に整理したのは信用せずに, 自分で整理し直してみよう。

お金の動きは, 次のようになっているはずだ:
客→ホテルの主人: $30.
ホテルの主人→ボーイ: $5.
ボーイ→客: $3.

さて, あなたが客であったとして, 部屋代が幾らだったかということを, どうやって計算するだろうか ?

当然, $30 払い, $3 戻ってきたのだから, $30 - $3 = $27 と計算するはずである --- 勿論, これは見かけの部屋代である。 あなたはボーイがくすねたなどということを知らないのであるから。

さて, 本当の部屋代は $25 であった。 残りの $2 は ? それはボーイのくすねた分である。

ここまで整理した上で, 出題者の勝手な整理を見てみよう。

我々が計算したように, 見かけの部屋代 ($27) が, 本当の部屋代 ($25) + ボーイのくすねた分 ($2) であるのに, 出題者は, 見かけの部屋代 ($27) に, ボーイのくすねた分 ($2) を加えているのだから, 計算が合わないわけなのである。

どこへ行ったも何も, 要するに出題者の計算は根本から間違っているのである。

現在小学校から進行中の新しい教育課程では, 国語や算数・数学の時間が沢山削られている。 この程度の問題のからくりが解けなくて chain mail 化しているのに, 本当にこれで大丈夫だろうか ? ほんの少しばかり, 頭の切れる連中に, 多くの国民が騙されていくのではないか ? 消費者教育などというが, この 「計算できる」 という, 根本が成立しなくて, 本当に消費者教育ができるのか ?

あなたは本当に大丈夫だと思いますか ?


その後, MIC 氏から, 次のような話が寄せられた (Wednesday 21st March, 2001)

「三人で宿屋へ泊まりましてね」
「いつの話」
「解り易い様に簡単な数字で云ひますけどね, 払ひが三十円だつたのです。 それでみんなが十円づつ出して, つけに添へて帳場へ持つて行かせたのです」
蕁麻疹を掻きながら聞いてゐた。
「 帳場でサアヰ゛スだと云ふので五円まけてくれたのです。 それを女中が三人の所へ持つて来る途中で, その中を二円胡麻化しましてね。 三円だけ返して来ました」
「それで」
「だからその三円を三人で分けたから, 一人一円づつ払ひ戻しがあつたのです。 十円出した所へ一円戻つて来たから, 一人分の負担は九円です」
「それがどうした」
「九円づつ三人出したから三九, 二十七円に女中が二円棒先を切つたので〆て二十九円, 一円足りないぢやありませんか」
蕁麻疹を押さへた儘, 考へて見たがよく解らない。

(内田百間 「特別阿房列車」, ca 1940, より)

これは内田百間とヒマラヤ山系氏の会話だそうですが, というわけで (笑) この手の話は昔からあるようである。 問題なのは, 殆どの人が分からなくて, 安易に他人に訊き回る結果, chain mail 化する事にあるようだ。


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