ゲマトリア gematria

Friday, 12th May, 2000.


アルファベットの一文字一文字に数値を割り当て, その総数を計算する方法。ゲマトリアの代表選手は映画「オーメン」で有名になった次の数字である。

この刻印とはあの獣の名, 或いはその名の数字である。ここに知恵が必要である。賢い人は, 獣の数字にどのような意味があるかを考えるが良い。数字は人間を指している。そして, 数字は六百六十六である。

ヨハネの黙示録13:17, 18, 新共同訳。

普通, この数字は, 皇帝ネロ (ネロン・カエサル) を表しているとされる。ヘブライ文字のゲマトリアは א ב ג ד ה ו ז ח ט, ここまでは 1 から 9, י ך (כ) ל ם (מ) ן (נ) ס ע ף (פ) צ (ץ) ここまでは 10 から 90, ק ר ש ת この四つは 100 から 400 である。(IE 5.01 で見ると右から左に文字が並んでいるので, 見えにくくなっている。 つまり א が 1, ט が 9 という具合である。)

ネロン・カエサルは (本当は右から左に書くのだが, というか私の IE 5.01 ではちゃんと右から左に書かれている。) ןרון קסר (NRWN QSR) で 50 + 200 + 6 + 50 + 100 + 60 + 200 = 666 となるわけである。 (古い写本では 616 ともされていて, ネロではなくてその先々代皇帝のカリグラだという説もあるらしい)

普通の Latin alphabet でのゲマトリアのやり方にはいくつか方法があるが, a から i (この場合 j も i と同じゲマトリア数とする) 迄が 1 から 9 になり, k から s 迄が 10 から 90, t から z 迄が 110 から 160 (10刻み) というやり方が一つあり, このやり方で Le Empereur Napoléon が 20 + 5 + 5 + 30 + 60 + 5 + 80 + 5 + 110 + 80 + 40 + 1+ 60 +50 + 20 + 5 + 50 + 40 = 666 となり, L'Russe Besuhof が20 + 80 + 110 + 90 + 90 + 5 + 2 + 5 + 90 + 110 + 8 + 50 + 6 = 666 となる。(トルストイ, 戦争と平和第三部)

もう一つのやり方として a を 100 とし, 以下 b を 101, c を 102 と一つずつ加えていって z が 125 となるものがある.このやり方で Hitler が 107 + 108 + 119 + 111 + 104 + 117 = 666 となる。

この他にも u と v を同一視する (Latin 語では良くあることなのである) 方法などもある。

ついでにギリシャ文字のゲマトリア数は Α から Ε 迄が 1 から 5, 6番目がスティグマと呼ばれる今日 F に当たる文字。Ζ から Θ 迄が 7 から 9 で, Ι から Π 迄が 10 から 80 迄。90 は今日 Q に当たるコッパという文字で Ρ から Ω 迄は 100 から 800 に当たる。 900 にはサンピという & に当たる文字が当てられている。実際は Latin alphabet のようにいくつかやり方があるので, これだけではない。実際 Archimedes などは (ゲマトリアというのではなく数字価というらしいが) Α から Ω 迄を数に割り当てた system であのような高度な計算をしたのであるから, 我々には驚きである。

Bach のゲマトリアは 2 + 1 + 3 + 8 = 14. この数はマタイ受難曲 BWV 244 の 63b (これは NBA の数え方で BWV では 73) の Wahrlich, dieser ist Gottes Sohn gewesen という歌詞の真下にある organ の音符の数と一致している。 この前後では Evangeliste の台詞が延々と続いているので その楽譜の形から,「十字架の下で Bach が祈っているのだ」と言われている (というのだが私が数えると 16 あるような気がするのだが...)。

1713 年 8 月 2 日, Bach は四声の無限カノン BWV 1073 を作曲し「このささやかなる曲を, 快き思い出に寄せて, [記念帳の] 持主氏のためにここに記入いたします」と書いた。研究によれば, これは 14 小節の四声のカノンで各声部の音符数はあわせて 82 となる。Bach 研究家の F. スメント (Smend) によれば i, j を同一視し, u, v を同一視して a から z まで順に 1 から 24 迄の数を 割り当てたゲマトリアによって, 献呈された相手は友人の Walther (ゲマトリア数が 82) であろうと推定されている。

BWV 1076 六声の三重カノンは十四のカノン BWV 1087 の第 13 曲が独立して発見されたものなのだが, この曲の中の音符数には 8 という数が良く出てくる。スメントはこの数を Haendel の頭文字 H のゲマトリアであるとしている。 又 Bach のゲマトリア 14 や, Haendel の 60 というゲマトリアも現れているとしている。

有名な例としては, ロ短調ミサ BWV 232 のニケーア信経の第一曲 Credo (ゲマトリアが 43) はこの credo という歌詞が丁度 43 回歌いだされる。カンタータ Christum wir sollen loben schon BWV 121 の冒頭合唱は, 小節数が Christus のゲマトリア 112 と一致している。

その他, やや行きすぎと見られる例としては A. ヒルシュがカンタータ BWV 194 の第一曲の合唱 part の総音符数 1380 が歌詞 Hoechsterwuenschtes Freudenfest のゲマトリア 345 に地上・人間を示す数 4 を掛けたものに等しい等というものまである。

その他にも Bach には色々数との関係が言われているが, ゲマトリアからは段々はずれていくのでこの辺で本稿は終りとしたい。尚, 平均律クラヴィーア曲集とマタイ受難曲に関しては H. ハーンという人の本がこのような問題に関して論じた本を書いているそうなので, 興味のある人はそちらを読んでみると良い。


参考文献:
江川卓, 謎解き『罪と罰』, 新潮選書, II 666の秘密。
磯山(ただし) バッハ=魂のエヴァンゲリスト (福音史家), 東京書籍, 1985.

Miscellaneous の index
HOME