Saturday, 28th April, 2000.
Tuesday, 13th & Friday 16th June, 2000.
Monday 25th September, 2000.
Tuesday 30th January, 2001.
又彼 [=ピュタゴラス] は, 一弦琴を元にして (音程の)
基準を発見したとも言われてい
る。
ディオゲネス・ラエルティオス
「ギリシャ哲学者列伝」
加来彰俊訳 岩波文庫 VIII 12.
このことから基準尺 (canon) と呼ばれるその上に一弦琴
(monochord) をつけて音階を
測定する道具がピュタゴラスによって発見されたと言われている。
しかし実際には和音の原理は古代バビロニアやエジプトで見出されていたそうである。
さて二つ以上の音は同時に鳴らすとき, その振動数 (周波数) の比が簡単な整数比であると響きが良い。(これはどうしてかというと, よく聞こえている比較的低い方の倍音成分としてまったく同じものを含むからだというのが普通の説明である。) 例えば一オクターブは振動数比が 1 : 2 であり, 又 ド : ミ : ソ = 4 : 5 : 6 である。属調である ソ : シ : レ と下属調である ファ : ラ : ドも同様である。これらからドレミファソラシドの振動数比は 1 : (9/8) : (5/4) : (4/3) : (3/2) : (5/3) : (15/8) : 2と計算される。
これを元にして, 15 の長調の総てについて, その音階固有音の主音から振動数比を計算してみると, 下表のようになる。(C-dur から逐次転調したとして)
ドイツ音名 | Ces | Ges | Des | As | Es | B | F | C | G | D | A | E | H | Fis | Cis |
音名 | 変ハ | 変ト | 変ニ | 変イ | 変ホ | 変ロ | ヘ | ハ | ト | ニ | イ | ホ | ロ | 嬰ヘ | 嬰ハ |
シ | 4096/2187 | 4096/2187 | 15/8 | 15/8 | 15/8 | 243/128 | 243/128 | 243/128 | 243/128 | ||||||
シ♭ラ♯ | 1280/729 | 1280/729 | 1280/729 | 16/9 | 16/9 | 16/9 | 16/9 | 3645/2048 | 3645/2048 | 3645/2048 | |||||
ラ | 5/3 | 5/3 | 5/3 | 27/16 | 27/16 | 27/16 | 27/16 | ||||||||
ラ♭ソ♯ | 10240/6561 | 128/81 | 128/81 | 128/81 | 128/81 | 405/256 | 405/256 | 405/256 | 6561/4096 | 6561/4098 | |||||
ソ | 40/27 | 40/27 | 40/27 | 3/2 | 3/2 | 3/2 | 3/2 | ||||||||
ソ♭ファ♯ | 1024/729 | 1024/729 | 1024/729 | 45/32 | 45/32 | 45/32 | 729/512 | 729/512 | 729/512 | 729/512 | |||||
ファ | 320/243 | 320/243 | 320/243 | 4/3 | 4/3 | 4/3 | 4/3 | 10935/8192 | 10935/8192 | ||||||
ミ | 8197/6561 | 5/4 | 5/4 | 5/4 | 81/64 | 81/64 | 81/64 | 81/64 | |||||||
ミ♭レ♯ | 2560/2187 | 2560/2187 | 32/27 | 32/27 | 32/27 | 32/27 | 1215/1024 | 1215/1024 | 1215/1024 | 19683/16384 | |||||
レ | 10/9 | 10/9 | 10/9 | 9/8 | 9/8 | 9/8 | 9/8 | ||||||||
レ♭ド♯ | 256/243 | 256/243 | 256/243 | 256/243 | 135/128 | 135/128 | 135/128 | 2187/2048 | 2187/2048 | 2187/2048 | |||||
ド | 80/81 | 80/81 | 80/81 | 1 | 1 | 1 | 1 | 32805/32768 |
見ると分かるが, C だけで 3 通りの音があることが分かる。又, 所謂異名同音 (e.g. Cis と Des) は同音でないことも分かる。という具合に, 純正律は音はきれいだが, 全体的に見ると非常に複雑である。
又, 純正律には 9/8 の「大全音 major tone」 (e.g. C-D) と 10/9 の「小全音 minor tone」(e.g. G-A) があるのも欠点である。
尚, 表を見てもらえば分かるように, (e.g. C-dur のレと F-dur の「レ」, C-dur のラと G-dur の「ラ」) 他の調に行くと, 振動比で 80/81 のずれが起こる。純正律に於けるこのずれをシントニック・コンマという。
このシントニック・コンマのおかげで普通の和音進行をしていても, 次第に全体の音が下がってくるという現象が起こるという (例えば炎のコンティヌオ氏の HP から「純正律, 敗れたり !」 を参照のこと)。
純正音律はスペインのバルイトロメー・ラモス (ca. 1440--ca. 1491) によって提唱されたらしい。
これに対し, ピタゴラス (学派) は次のように考えた。
即ち C を基準として完全五度 perfect fifth interval によって,
音程を決めようと。これをペンタトニック pentatonic
と呼ぶ。古代の多くの民族によっても使用された。本当はピタゴラスは
12 : 9 : 8 : 6 の弦の長さでこの音階 (音階固有音のみのもの)
を作ったらしいが,
それもメタポンティオンのヒッパソスによって所謂ピタゴラス音律が作られたことが現在では確認されている。
具体的には, C-G が完全五度だから, C→G→D→A→E→H→Fis→Cis と決め, 又逆に下がって, C→F→B→Es→As と決めようというのである。この結果, C から半音ずつあげた振動比は次のようになる。
1 : 2187/2048 : 9/8 : 32/27 : 81/64 : 4/3 : 729/512 : 3/2 : 128/81 : 27/16 : 16/9 : 243/128
上記の表と比較してみると, この振動数比は何れもどこかの調で出てきているものなので, いわば純正律と楽器の作りやすさの妥協点であるといえる。この音程には, Cis と As の振動比が 190269 : 262144 となって, この二音は完全五度であるにもかかわらず, 完全五度の振動比 2 : 3 にはならない。これは, このピタゴラス (学派) の決め方では, C から初めてぐるりと一周した時に元の音との比が 531411 : 524288 という比になって, 本来なるべき 1 にならない。ピタゴラス音律に於けるこの音のずれを「ピタゴラス・コンマ」と呼ぶ。上記のピタゴラス音律は, このピタゴラス・コンマが先に述べた Cis-As 間に「そっと」忍び込ませてある。 それ故この二音は非常に相性が悪く屡々 「ウルフ音」 と呼ばれる唸りを生ずる音になっている。 又, 三度音程の汚さも中世まではあまり問題にならなかったようである。 ピタゴラス音律はグレゴリオ聖歌で用いられている。
これを改良したのが中全音率 meantone temperament である。16--17 c. の西洋音楽で用いられたもので, 総ての全音が中全音となうように, シントニック・コンマを平均化する。それは 5 度音程を 1/4 シントニック・コンマだけ狭くして長 3 度音程を純正音程にする。但し, この方法だと, 純正律と同様に♯♭を同名化できない。
これらの点を改良すべく生まれたのが (Bach によって考案されたともいう) (十二音) 平均律 temperament である。平均律に於いては octave の振動数比が 1 : 2 になるように, 総ての振動数比を平均化して行われる。いわば総ての音に妥協してもらうのである。この結果, 総ての半音も全音も同じ振動数比になる。総ての半音の振動数比は 21/12 ≒ 1.05946309436 になるように調整される。これが今日の普通の調律に用いられる。
実際には Bach はヴェルクマイスター (1645--1706) によるピタゴラス音律と純正律とを按配したものを用いたのではないかと言われている。
「平均律クラヴィーア曲集」 を見ると, 1, 2
巻とも, C-dur
の前奏曲は和音の響きを生かした曲になっているのに対して,
例えば Fis-dur の前奏曲は 2 声部のシンプルな作りです。
これは
「C-durがよく 『ハモ』 り, Fis-dur ではあまり 『ハモ』
らない調律法」
を用いていたことを暗示させます。
こうしたことからバッハが用いていた調律法は,
現在のいわゆる 「12等分平均律」 ではな
く, いわゆる 「古典調律」 (キルンベルガーとか,
ヤングとかの類) の系列に属する調律法だ,
というのは確実視されているようです。 (by 炎のコンティヌオ)
尚, 1/100 半音を「セント」 sent と呼ぶ。即ち 1 セント = 21/1200 ≒ 1.000577789851 である。
純正率はツァルリーノ音階とも呼ばれているらしい。
参考文献:
杉田洋, 九州大学大学院数理学研究科, 門出の季節に--本物志向--,
apéritif, 数学セミナー (5), 2000.
音楽中辞典, 音楽之友社.
吉田武: 虚数の情緒---中学生からの全方位独学法---, 東海大学出版会
藤枝守, 響きの考古学, 音楽の友社。
上野健爾, 数学と総合学習 4 [第 1 章] 大きい数, 小さい数
(その 3), 数学セミナー (7), 2000.
MIDI で平均律以外の音律を奏でさせる方法
MIDI による調律法聴き比べのページ
玉木宏樹氏の HP にある「純正律研究所」
英文の参考となる HP
(専門的)
楽器製作者によるハープシコード,
フォルテピアノ, クラヴィコードのページ