デュアル dual

Wednesday, 3rd April, 2002

私の現在使用している髭剃り (shaver) は Braun dual 2000 AC/DC という奴で, この dual というのは AC (交流 alternating current) と直流 (direct current) の両方に使えるという意味らしい。 その他にも NTT DoCoMo のドッチーモ等はデュアル待ち受けとかデュアルモードとかいうのがあるが, これも PHS と携帯との両方が使えるという意味だ。

抑々 dual という語は 「二つの」 というような意味があるだけで, 抑々 Latin の 2 を表す語, duo から派生している (そういえば二重唱, 二重奏も --- イタリア語だが --- duo というね)。 英和辞典には dual nationality, dual citizenship (二重国籍), a dual personality (二重人格) が用例として出ている。 自動車学校の教官がブレーキを踏める例の車は英語で a dual-control car というようである (但し Oxford Advanced Learner's Dictionary によればクラッチも教官が使えるようになっているらしい)。

さて, 数学用語の dual は極めて特殊な意味が込められている。 日本語訳は 「双対」 であるが, この語は数学以外では出て来ない単語なので, いつも 「そうたい」 と読むべきか, 「そうつい」 と読むべきかで議論の的になる。 私は 「そうたい」 派だが, 自然に読めばそうなるだろう。 「そうつい」 派は, 相対 relative という語 (この単語も物理の相対性理論で有名になったが, 実は数学用語としても存在する) と発音したときに紛らわしいというのがその主な理由であるようだ。 だがよく考えてみると発音するとき紛らわしいというなら dual, relative と言えばいい --- その位の単語が分からないのなら数学をやるな ! (爆) --- し, 日本語として書く必要があるなら (多くの数学記号がそうであるように) 黙って書けばよい (笑)。 因みに岩波数学辞典第三版の索引を見ると, 「そうたい」 の位置には 「→ソウツイ」 と冷たく書いてあるだけなので, 岩波派はきっと 「そうつい」 なのであろう。

話を元に戻そう。 この dual という単語は, 数学では極めて重要である。 この概念が発見されたのは 「射影幾何学 projective geometry」 という極めて重要だが, 最近高校までの学校では扱わなくなってしまった (というか大学でも ?) 分野である。

平面射影幾何学では例えば 「異なる二本の直線は (必ず) 一点で交わる」 の 「直線」 と 「点」 を入れ替えて, 日本語として意味の通るように動詞などを変更すると 「異なる二個の点を通る直線が必ず一本存在する」 の様に, 「直線」 と 「点」, 「含む」 と 「含まれる」 を交換してもちゃんと意味が通り, しかも真偽も一致するように公理 (数学上の約束, 取り決め) が作ってある。 これが平面射影幾何学の双対原理 principle of duality というものである。

有名なものは Pascal の定理: 二次曲線に内接する六辺形 ABCDEF に於いて三対の対辺 (AB, DE), (BC, EF), (CD, FA) の交点は一直線上にある, というのと Brianchon (ブリアンション) の定理: 二次曲線に外接する六角形の対角線は一点で交わる, というのが互いに他の dual であって, Brianchon の定理の証明は非常に難しかったが, 双対原理によって Pascal の定理の証明のあと, その dual である, と一言で済むようになった。 このようにあるものとその dual があった場合, どちらか一方で証明が出来れば, その dual は "dual である" と言えば, そのまま頭の中で dual に変換すれば証明が出来上がるので非常に簡単なのである。

その他, 双対原理が成り立つものは古典主義論理や圏論で, 古典主義論理では A∧B (A 且つ B) と A∨B (A 又は B) が dual, ¬A は自分自身が dual (自己双対 self dual) である。 古典主義論理とほぼ同様に集合論でも A∩B と A∪B が双対, 補集合 Ac が自己双対である。 圏論では余圏 cocategory というのがあり, 有名なものは homology (ホモロジー) と cohomology (コホモロジー) である。

古典主義論理 (又は集合論) で de Morgan (ド・モルガン) の定理というのが二つあるが, これが互いに dual になっている:

¬(A∧B) = (¬A)∨(¬B), ¬(A∨B) = (¬A)∧(¬B).


参考文献:
数学英和・和英辞典, 小松勇作編, 共立出版。


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