整列

Monday, 13th August, 2001.

「整列 !」 と言えば, 小学生でもその意味はわかると思うが, 辞書を引くと 「きちんと順序よく並ぶこと」 などと出ている。

数学に於ても, 「きちんと順序よく並ぶ」 事には変わりないが, 何を持って 「きちんと」 で 「順序よく」 と言うのかをきちんと決めておかなければならない。 まぁ大抵は一列に並んでいることだろう。

先ず, 集合 X に順序 order が付いているとは, 次の三つの条件を満たす関係 ≦ が成立することをいう。

  1. 反射法則 reflexive law: x ≦ x.
  2. 反対称法則 antisymmetric law: x ≦ y & y ≦ x ⇒ x = y.
  3. 推移法則 transitive law: x ≦ y & y ≦ z ⇒ x ≦ z.

任意の x, y ∈ X に関し, x ≦ y 又は y ≦ x の何れかが成り立つときに, この順序を全順序 total order, 又は線形順序 linear order という。

順序だが, 全順序でない例: xy 平面上の点 (x, y) に

x1 ≦ x2 ⇒ (x1, b) ≦ (x2, b),
y1 ≦ y2 ⇒ (a, y1) ≦ (a, y2)

という関係を入れれば, 順序にはなるが, 例えば (1, 2), (3, 4) の間には (1, 2) ≦ (3, 4) も (3, 4) ≦ (1, 2) も成立しないので, 全順序とはいえない。

以下, x ≦ y だが x ≠ y であることを, いつものように x < y と書く。

さて, X が整列集合 well-oredered set 又は関係 < が 整列順序 well-oreder であるとは, X の空ではない任意の部分集合が最小元を持つ, ということである。 記号論理的に書けば (0 を空集合の記号として)

∀S⊆X(S ≠ 0  ⇒ ∃m, ∀x ∈ S(m ≠ x ⇒ m < x))

である。 普通の自然数の集合と普通の不等号はこの性質を満たしている。 しかし, 例えば整数の集合, 有理数の集合, 実数の集合の普通の不等号は, この性質を満たしていない。 例えば整数の集合の部分集合として, 負の数の集合をとると, 最小が存在しない。 有理数, 実数では { x | 0  < x < 1} で既に最小元が存在しない, etc.

整数でも, 変わった順序を入れれば, 整列集合に出来る。 例えば

0 < -1 < -2 < -3 < -4 < …… < 1 < 2 < 3 < 4 < …….

逆に自然数に変わった順序を入れれば整列集合ではなくすることが出来る。 例えば

…… < 8 < 6 < 4 < 2 < 1 < 3 < 5 < 7 < …….

この辺だけ見るとおとなしいが, 実は G. Cantor (ゲオルク・カントル) が, 「総ての集合は, 適当に順序を定義すれば整列できる」 (整列定理 well-oredering theorem, Wohlordnungssatz) なんてことを言い出したので, えらく大変なことになった。 これを E. Zermelo (ツェルメロ) が Beweis, dass jede Menge wohlgeordnet werden kann, Math. Ann., 59 (1904) で 「選択公理 axiom of choice, auswahlaxiom」 を用いて証明したが, これが更に物議を醸し出した。 あとになって, この選択公理が通常の数学のあちこちに見出されることが分かって, とりあえず一段落を見たが, 今日でも, 選択公理が何処で使われているか分かっていないプロの数学者も多い。

このことが契機になって, 逆に公理を段々少なくしていって, どの程度の数学までが構築できるのかという 「逆数学」 などという分野も成立することになったのだが, 段々 theme とはずれてきたので, この辺で。


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