親子向きオペラ 「豚飼い王子」

Monday, 30th April, 2001.
東京都児童会館ホール
15:00 -- ca. 16:30.

音楽劇団熊谷組オペラ公演
ハンス・クリスティアン・アンデルセン原作

「豚飼い王子」 二幕と epilogue

脚本・演出: 麻稀 (あさき) 彩左 (りさ)
作曲: 猪間 (いのま) 道明 (みちあき)
振付: 渡辺 恵

国王 (バリトン): 古口 (こぐち) 仁梓 (ひとし)
王子 (テノール): 吉住 和人
侍女 1 (ソプラノ): 平木 郁子
侍女 2 (ソプラノ): 伊佐次 美江 (よしえ)
侍女 3(メッツォ・ソプラノ): 尾中 真由美
皇帝 (バリトン): 女屋 (おなや) 哲郎 (てつお)
お姫様 (ソプラノ): 麻稀 (あさき) 彩左 (りさ)
ナイチンゲール (ソプラノ): 横山 美奈
ムーア人 (テノール): 田中 孝男

薔薇の精: 櫻井 マリ
アルマンドの踊り子: 西澤 美華子 (みかこ)
ワルツの踊り子: 堀内 慎太郎

fl: 吉原 (よしはら) 友恵
vn: 西内 真紀
cello: 中林 成爾 (せいじ)
pfte と指揮: 猪間 (いのま) 道明 (みちあき)
譜めくりと pfte: 幸田 敦


粗筋: ほぼアンデルセンの原作に忠実に物語は進む。(岩波文庫版 「完訳 アンデルセン童話集」 大畑末吉訳を参照とした。 多くは記憶に頼っているので, 不正確な部分もある。)

第一幕

第一場: 国王の墓前

貧しい国の王子が, 皇帝の娘が欲しいと今は亡き国王に訴える。 国王は五年に一度, 一輪しか咲かない香り高い薔薇を贈り物にしてはどうかと提案する。[疑問 1]

第二場:

侍女三人が王子から贈られた二つの贈り物を持って登場。 侍女 3 のキャラがおっこちょこちょいという設定らしく, 躓いたり, 転んだりする。 皇帝がその贈り物に, 興味を持ち, 姫と一緒にその贈り物を見ようと言う。

第三場:

お姫様にお客様が来たと侍女達が告げると, お姫様は, いつものお客様ごっこが始まったのかと思う。 そうではなくて本物のお客様だということを聞き喜ぶお姫様。 贈り物があることが告げられると 「子猫だと良い」 というが, 一つ目を開けると薔薇, しかも造花ではなくて本物であるのでがっかりする。 ここで薔薇の精のバレエが踊られる。

二つ目を開けるとナイチンゲールが大変美しい歌を歌う。 侍女達は "Superbe ! Charmant !" (シュペルブ, シャルマン, やや古い口調のフランス語で各々 「素晴らしく美しい」 「魅力的な」) を口々に叫ぶ [疑問 2] (皆さんご一緒に, と言われたが, 音が取りにくい)。 もう一度歌を所望されて, ナイチンゲールは, 首に掛けていた王子の似姿を描いた, ペンダントをお姫様に渡す。 皇帝は亡くなった妻の持っていた作り物のナイチンゲールを取り出し, 妻を偲ぶ。 このナイチンゲールがまたまた本物であることを知るとお姫様は怒って王子に会おうともしない。 (ここまで確か 35 分) [疑問 3]

15 分休憩

第二幕

豚の縫いぐるみ (一頭) が下手から上手へ横断。 これが大変可愛い。

王子が豚飼いになっている。 魔法の (?) 壺で ドイツ民謡 「可愛やアウグスティン」 を演奏する --- これが第二幕以降の theme song. はっきりいって私は, この歌についている曲がこれであることを初めて知った (笑)。 お姫様がこの曲につられてやってくる。 彼女が一本の指で弾ける唯一の曲がこれだったから。 --- 実際に演奏してみせる。 ミスタッチあり, テンポは崩れまくり。 宮廷楽師 (pfte) がハラハラして見ている。 この壺からムーア人登場 (記憶が怪しい...)。 このムーア人に聞けば, 何処の食卓でも何を食べているかがたちどころに分かる。 そこでお姫様はこの壺が欲しいという。 豚飼い (= 王子) はお代としてお姫様のキスを 10 回欲しいと言う。 最初渋っていたが, 結局 10 回のキスでこの壺を手に入れる。

今度は豚飼い (= 王子) ががらがらを作る (舞台ではタンバリンの枠のようなものに, 装飾を施して用いていた)。 これを振ると, 様々な拍子の曲, 色々なダンスの曲が演奏される。 様々な拍子の曲の中で, 「五拍子」 が出てくるが, ここでムーア人が舞台から降りて, 客に 「五拍子の食べ物は ?」 と聞いて回る。 ダンス曲でアルマンド及びワルツが踊られる。 今度もお姫様はこのがらがらが欲しくなる。 豚飼い (= 王子) の今度示した条件はキスが 100 回。 なんだかんだ言って渋るが, 結局キスをすることになる。

キスをしていると皇帝が遠くからその騒ぎに気づき, 何事かと思って近寄ってくる。 と, 娘が豚飼いなんぞとキスをしているので 86 回目で中止させ, 二人とも国外追放にしてしまう。 (暗転)

再び国王の墓の前。

確かここで豚の親子が再び舞台を横切る。

王子が, 実は豚飼いに扮していたことをお姫様に告げる。 真心を込めて贈った薔薇とナイチンゲールをないがしろにしておきながら, 壺やがらがらといった玩具のためなら豚飼いともキスをするような人間は軽蔑すると言って去る [疑問 4]。

Epilogue (ここは原作外)

「適切な表現と適切な開放」 がテーマ (脚本家の弁)。 「大切なのはものじゃなくて真心」 といったような事が歌われる --- と私は思ったのだが, MIC 氏によると 「程良さのススメ」 と言えるようなメッセージ だそうだ [疑問 5]。

終幕後

会場の全員で 「可愛やアウグスティン」 斉唱。 このときの指揮が猪間 (いのま) 道明 (みちあき) 氏, pfte が幸田 敦氏。


MIC さんは予想に反して恰幅のいい方で, 声も大きく, 歌手としてもやられたら良い感じであった。 作曲, 演奏もやったから歌までやると当然大変であるが。

4/28, 29, 30 の公演の三日目。 5/2 追加公演。

売れ行きが心配であると言われていたわりには, 結構人が入っていた。 子供の為のオペラのわりに, 子供より大人の入場者の方が多かった (笑)。 MIC 氏の弁によれば 「2日目3日目の客入りはお寒い限りで、3桁に乗ったのがまだ救いというような状態」 とのこと。 一日目はよっぽど入ったんだなぁ (笑)。 横浜でやる現代音楽の演奏会なんてもっとがらがらで, 聴きに来た私の方が恥ずかしくなるくらい。 それに比べれば大入りですよ (^o^)。

30 日が一番出来がよかったとのことなので, 28 日に行こうと思っていたが連れの都合で 30 日になって超 lucky だったかも (笑)。

只, この前日に急にオフ会が渋谷で開かれた為, 睡眠不足。 私の方の condition としては必ずしも良いものではなかった。 この日の 1:00 に就寝。 起きたのはいつもの通り 5:40 (笑)。 さすがにこれじゃぁオペラの最中に寝てしまい, 連れにも演奏者諸氏にも失礼であると思い, 午前中仮眠。 おかげで取り敢えず眠らずに済んだ (^_^;;

「豚飼い王子」 に限らず, 前述の岩波文庫で一応全部の話を読んでいるにもかかわらず, あんまり覚えていなかった。 きっと他の話の方が興味を惹いたのだろう。 因みにこれの一つ前の話 「薔薇の精」 の方が覚えていた (笑)。

お姫様役の麻稀 (あさき) さんは作曲もなさるのだから pfte 位弾けるはずなのだが, 「可愛やアウグスティン」 をあれほど下手に弾くのはなかなか難しかったのではと想像した。

五拍子の曲の時に連れが 「鰹節」 と言っていた (笑)。 子供に譲りなさいと言っておいたが, かなり鰹節がやって欲しかったらしい。 ここでやっておこう (笑)
♪か・つ・お・ぶ・し た・べ・た・い・な
♪か・つ・お・ぶ・し た・べ・た・い・な

舞台裏の話を MIC 氏にうかがうと, なかなか大変だったようである。 お疲れさま。

連れは薄着だったので寒がっていた。 もう少し暖房効かせてくれても良かったかも。

しかし何ですなぁ, 出演者のお名前は, 読みにくいのが多いですなぁ。 私もあんまり他人のこと言えないのだが (笑)。

当日は アトリエ 「絹の海」 による豚飼い王子中のシーンを人形等の作品にして展示してあった。 又チラシの裏 (っていうかチラシが裏 ?) にパンフレットの表紙が塗り絵にしたものが入っていた。 微妙に表紙の絵と違うので, 間違い捜しとしても遊べる (笑)。 表紙の方の絵の柱には (何故か) 「白雪姫」 のお話が, 英文で載っている。

One day in the middle of winter when the snow-flakes fell from the sky like feathers, a queen sat at a window netting. Her netting needle was of black ebony, as she worked and the snow glittered, she pricked her finger, and three drops of blood fell into the snow. The red spots looked so beautiful in the white snow that the queen thought to herself: Oh if I only (次の一語が読めない)......


色々感じた疑問:

[1] 王子はお姫様の何処に惹かれたのか ? 所謂一目惚れか ? こういう設定では今の少女漫画誌の漫画スクールではパスしない (笑) まぁ童話だからいいのかも。 元のアンデルセンの童話がそうだから仕方がない。

何故薔薇は 5 年に一度, しかもたった一輪しか咲かないのだろう ? 原作通りであるが, アンデルセンはどうしてこういう設定にしたのだろう ? 貴重さを強調したかったのだろうか ?

[2] 確かに昔の宮廷ではフランス語を用いていたらしいが, どうして又童話にフランス語を出す必要性があったのだろう。 (ここも原作通り)

[3] お姫様は何で生きた薔薇やナイチンゲールは嫌なのか ? 母親が死んだから ? そのわりには王子からの贈り物が 「子猫だといいな」 と言っているのはどういうこと ? これも原作がそうだからしょうがないが。 私家版格言集に収録してある, 次の言葉を思い出した。

「… ? どうして ? あんなにキレイなのに」
「そのキレイな花が, 一日一日枯れてゆくさまを見て楽しむなんてまっぴら, 悪趣味もいいとこ !! 昔は好きだったんだけど …… 造花の方がよっぽどましだわ。」
「…… でもキレイだよ。 作り物の花なんかより, 生きてすぐ枯れちゃう花の方が, ずっとキレイだよ」

清水玲子
ウイーク デイ

[4] 疑問 1 とも関連するが, この王子は随分ひどい人物である。 何だか知らないが勝手に惚れて, 逆恨みで罠にはめて, 最後はこれかよって感じ (笑)。 アンデルセン童話は Evantyr og Historier といい 「童話と物語集」 というような意味である。 この 「豚飼い王子」 はその第三集に収録されており, 1842 年刊行。 本人 (アンデルセン) によれば 「一部, 古いデンマークの民話から取材したが, 子供の頃聞かされたままでは少々下品で, 再話をはばかるようなものだった」 というから, きっと元の話は, こんなものではなかったのだろうと想像する。

ここでは Agatha Christie の The Clocks (複数の時計, 早川ミステリ文庫) の次の台詞を思い浮かべた (第 23 章 橋本福夫訳, 登場人物の名前を一つ 「彼女」 に置き換えておいた)。

自分はこの人を妻に望んでいるのなら, ありのままの彼女を受け入れなきゃいけない --- そばにいて, そうした弱点を支えてやるつもりにならなきゃいけないのだ。 人間は皆それぞれの弱点を持っているものだ。 僕にも彼女の弱点とは違っていても, 弱点はある。

[5] Epilogue は説明のために付けたらしいが, これでも子供が分かったかどうか一寸疑問。 まぁ昔の私のような 「ませガキ」 もいるかもしれないので (笑), 分かった子もいたかもしれない。


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