Gaetano Donizetti (ガエターノ・ドニゼッティ, 1797 -- 1848)
Don Pasquale
台本: Giovanni Ruffini (ジョヴァンニ・ルッフィーニ)
Don Pasquale 独身で裕福な老人: 山田祥雄, Bass.
Dottor Malatesta (医師マラテスタ) その友人の医師: 大石洋史, Br. (opera debut)
Ernesto (エルネスト) ドン・パスクァーレの甥: 望月光貴, Tenor (opera debut)
Norina (ノリーナ) 若い未亡人, マラテスタの妹
(ソフローニャ) の偽者: 光岡暁恵, Soprano.
Un Notaro (公証人):
飛鳥井亮
指揮: 菊池彦典
管弦楽: 昭和音楽大学管弦楽部
合唱: 昭和音楽大学合唱団
演出: Lorenza Codignola (ロレンツァ・コディニョーラ)
あとでも述べるが Donizetti は内容で見る opera を書いていないので省略。 粗筋はここにあるのでそちらを読んでください。
この物語はエリザベス朝の Ben Johnson の芝居 「エピシーン or 無口な女」 1609 にまで遡れるそうである。 直接的には 29th September, 1810 ミラノ・スカラ座初演の opera Ser Marc' antonio (マルカントーニオおじさん), Angelo Anelli (アンジェロ・アネッリ) 台本, Stefano Pavesi (ステファノ・パヴェジ) 作曲を基に Giovanni Ruffini (ジョヴァンニ・ルッフィーニ) が書いた台本で Donizetti が作曲したらしい。 しかし, 実は Ruffini が急いで書いた作品に満足できないという理由で score 出版の際に M. A. という initial だけで発表したために, Ruffini と Donizetti の間を取り持った Michele Accursi (ミケーレ・アックルジ) 作のものと誤解され, 最近まで Michele Accursi 作とされていた。
今回のパンフレットには 「Donizetti の buffa の最高峰」 「イタリア・オペラ史上においても記念碑的な存在」 と妙に持ち上げてある。 研究不足だからこの点に関しては何も言えない。
初演は 3rd Janualy, 1843, Paris のイタリア劇場。 作曲は 1842 年。 舞台設定は 19c 初めの Rome.
朝日新聞夕刊の 「マリオン」 というコーナーで抽選で招待というから, 応募したところ当選した。 中劇場は扇形になっていて奥の方ほど客席の数が増えていく作り。 私の席は 1 階 11 列 18, 19 番という席で, 一番左の方。 舞台の方も扇形に作ってあったが, 当然のことながら左端は見えない。 座席の種類が K という見慣れない種類だし, まぁ招待だからしょうがないかとも思う。 因みに値段は \1,000 と書いてあった。 二階席には空席が目立つ。 二席分もらったけど一枚分は荷物置き。 たまに一人で来ると寂しい。
この日は朝から雨。 とても寒い。 帰りは上がって星空になっていた。
新国立劇場の中劇場に上っていくところの左手上には, どうやらこれはシンデレラらしいな, という衣裳やその他の衣裳が飾ってあって楽しい。
18:35 -- 19:55 序曲と第一幕第二幕。
序曲はまぁ音大とはいえ学オケだから仕方ないのかもしれないが, 最初揃ってなくてどきどきした (笑)。 序曲の終り頃にロウソクを模した foot light を灯しに来る役が登場。 変わった演出だ。
第一幕第一場では Ernest から歌い始める二重唱 Pendere moglir (嫁をもらうですって !) が美しい。 この日の Ernest 役の 望月さんはこれが opera debut で, 大学院研究科 opera 専攻 2 年在籍だということだが, なかなか声も美しくてよろしい。
舞台はやたら椅子のある set で, 意図的なのかと思えば, こんなに沢山椅子がある必然性は低いようである。 演出意図を疑う。 左側は窓越しに庭園で, 右側は寝室だが, 何れもロールブラインドのようなものが掛けてあって, 第三幕までは分からない構造になっている。
第二場の冒頭で歌われる soprano の aria: Quel guardo il cavaliere (その眼差しにかの騎士は) がとても美しいのだが, 内容的にどうかな〜ということで, これは単独では歌えないのが良く分かる。 この日の Norina 役は opera 二度目の光岡さんであるが, 二度目にして堂々としたもので技巧的なトリルを良く歌っていた。
第二幕への序曲では tr. solo があるのだが, これが一寸いただけない。 学オケの限界かもしれない。
第二幕では白髪頭のドン・パスクァーレが --- そういえば来る途中 「ドン・ジョバンニ」 のポスターを見て, 今日の公演と間違えていた人がいた。 その人が 「ドン」 って何よ ? って言ってたっけ。 因みに Don (ドン) とは英語で言えば Mr. みたいなものだ。 Sir の方が近いかな ? --- 若作りをして, 赤毛のカツラをかぶっていた。 この幕だったか, 次の幕だったかで彼が七十余歳であることが歌われる。 いくら何でもその年で甥の恋人と結婚しようってのは無理があるのでは (^_^;;
しかし解説を良く読むと Norina って若い未亡人ということになっている。 Ernest も幾つなんだか分からないし, なれそめも不明ってのが気にかかるが opera だからしょうがない (笑)。
《20 分休憩》
第三幕 20:20 -- 21:10
Ernest の serenade: Com'è gentil (四月の宵は何と心地よいのだ) は美しい。 あとから Norina と一緒になって二重唱になるのだが, 昭和音大の永竹由幸教授によれば 「これには決して 『愛の妙薬』 の 『人知れぬ涙』 の様な甘さはない。 それは, 昔風のおざなりの甘さしかない」 という。 これに対抗できるほど聞き込んでないので, これに関する意見は保留。
最後の Norina が歌う 「この件に関する教訓は簡単」 も良いが, 内容が今一なので単独で歌うのは無理だろう。
Donizetti は最も有名な L'Eisir d'Amore (愛の妙薬) 1832 の Una furtiva lagrima (人知れぬ涙) もそうだが --- 私はこの aria を NHK で放映した 「機械仕掛けのピアノのための未完成の戯曲」 とかいうチェーホフの作品で突然蓄音機から流れてくる歌として知った。 当時 NHK には 「この歌は何か ?」 という問い合わせが殺到したそうである。 映画 「釣りバカ日誌」 で初めて聞いた人もいるだろう --- 歌を聴いてどんなに素晴らしい opera だろうと思って全幕を見ると, 大抵内容はたいしたことはないし, orchestration ももう一つぱっとしないし失望させられる。 せめて内容でも良ければ Donizetti も現代にもっと名を残していたかもしれない。