薔薇の騎士 der Rosenkavalier

Sunday, 27th May, 2001.
神奈川県民ホール
15:05 -- 19:38.

Richard Starauss (リヒャルト・シュトラウス)
Der Rosenkavalier (薔薇の騎士)
--- comedy for music in three acts (三幕の音楽の為の喜劇) ---
Libretto by Hugo von Hofmannstahl (ホフマンシュタールの台本による)

conductor: Andrew Davis (指揮: アンドリュー・デイヴィス)
production: Nathaniel Merrill (演出: ナサニエル・メリル)
set and costume designer: Robert O'Hearn (装置・衣裳: ロバート・オハーン)
stage director: Bruce Donnell (舞台監督: ブルース・ドーネル)

charactors in order of appearance (登場順の登場人物一覧)

Octavian: Susan Graham (オクタヴィアン: スーザン・グラハム)
Princess von Werdenberg: Renée Fleming (元帥夫人 (ヴェルデンブルク公爵夫人): ルネ・フレミング)
Mohammed: Rémy Rovelli (モハメット: レミー・ロヴェッリ)
The Princess' Major-Domo: Bernard Fitch (元帥夫人執事: バーナード・フィッチ)
Baron Ochs auf Lerchenau: Franz Hawlata (オックス男爵: フランツ・ハヴラータ)
orphans: Jean Braham, Deborah Saverance, and Rebecca Carvin.
noble widow: Ellen Lang
a milliner (帽子屋): Carlotte Philley
animal vender: Irwin Reese
Valzacchi: Anthony Laciura (陰謀屋ヴァルザッキ: アンソニー・ラチューラ)
Italian singer: Ramón Vargas (イタリア人歌手: ラモン・ヴァルガス)
hairdresser: Glen Harris
notary (公証人): James Courtney
Annina: Wendy White (ヴァルザッキの相棒アンニーナ: ウェンディ・ホワイト)
Leopold (the son of Ochs): Ross Crolius
lackeys and waiters: Marty Singleton, Barry Brandes, Meredith Derr, and Kenneth Young.
Faninal: Hans-Joachim Ketelsen (ファーニナル: ハンス=ヨアヒム・ケテルセン)
Marianne: Julia Faulkner (ゾフィーの侍女マリアンネ: ジュリア・フォークナー)
Faninal's Major-Domo: Mark Schowalter (ファーニナルの執事: マーク・ショヴァルター)
Sophie Faninal: Heidi Grant Murphy (ゾフィー・ファーニナル: ハイディ・グラント・マーフィー)
innkeeper: Jonathan Welch
police commissary: Stephen West (警官: スティーヴン・ウエスト)

chorus master: Raymond Hughes (合唱指導: レイモンド・ヒューズ)
musical preparation: Robert Morrison, Gareth Morrell, and Kathleen Kelly
assistant stage director: Paul Mills
stage band conductor: Gregory Buchalter
prompter: Kathleen Kelley
German diction coach: Irene Spiegelman
scenery, properties, and electrical props constructed and pointed in Metropolitan Opera Shops
statuary by Kenneth Lynch and Sons, Inc.
costumes executed by Metropolitan Opera Costume Department
wigs by J. Bergmann & Co., and the Metropolitan Opera Wig Department
children's chorus: TOKYO FM 少年合唱団 (合唱指導: 太刀川悦代, 米谷恵子)


オーケストラの配置概略:
ハープ      木管群     vla                  パーカッション
チェレスタ                          金管楽器群
コントラバス    vc              vn


粗筋

第一幕

1740 年代の Wien. 元帥 Werdenberg 侯爵の夫人の寝室。 朝の光が寝室に差し込む。 元帥夫人 Marie Theres' (Marschallin) が, その若い恋人 Octavian Rofrano 伯爵 (Quinquin) の腕に抱かれている。 Octavian は言葉を尽くして二人の愛情関係を謳歌し, 重ねて遠く離れた狩猟場に居る元帥の不在を喜ぶが, 元帥夫人は不安に駆られる。 彼女は昨夜, 元帥が突然帰宅した夢を見て, その時の物音がまだ耳の奥に残っていると怯えている。 するとその時, 部屋の外で物音がするが, それは元帥ではなく, Ochs auf Lerchenau 男爵であった。 彼は, オランダに駐屯するオーストリア軍に武器を納入して莫大な財産と爵位を手に入れた von Faninal の一人娘である許婚の Sophie (ゾフィー・アンナ・バルバラ) に贈る銀の薔薇を運ぶ 「薔薇の騎士」 を誰にするか, それを元帥夫人に相談しにやって来たのだ。 召し使いが止めるのも聞かず, Ochs 男爵が元帥夫人の寝室に入ってきたので, Octavian は序奏して元帥夫人の小間使い Mariandel に扮してとっさの急場をしのごうとするが, Ochs 男爵は Mariandel を一目見るなり気に入ってしまう。
 やがて元帥夫人の日課である朝の接見が始まるが, その場で, Ochs 男爵と, 元帥夫人が紹介した公証人の間で, Ochs 男爵が結婚相手の家に対して余りにも法外な要求をするのが原因で口論が展開し, 元帥夫人のために演奏中のイタリアのテノール歌手の歌すら中断されてしまう。 そこへ二人組のイタリア人のいかさま師 Valzacchi と Annina が男爵に近付き, どんなことでも力を貸そうと申し出る。 男爵には側近の召し使いとして手許に置いている Leopold という隠し子がいて, 彼が元帥夫人に銀の薔薇を持ってくる。 彼女は Octavian を 「薔薇の騎士」 に仕立てることを約束すると男爵は去って行く (この時オペラ史上最低の C 音を歌う)。
 一人になった元帥夫人は目まぐるしかったその日の朝の出来事を思い出して憂鬱な気分に襲われ, 時の神秘と自分の老いについて思いを巡らす。 Octavian が再び現れるが, 打ち沈んでいる彼女は, 彼の愛に応えられない。 彼女は 「今日か明日か明後日か」 分からないが, Octavian がやがては自分よりも若くて美しい恋人を求めて, 自分から離れていくのを知っている, そして二人がそうなったときには, お互いの心の重荷にならないように別れましょうと告げる。 Octavian は彼女の言葉の真意が充分に分からないままに帰っていく。 彼に別れの口付もしてあげなかったと気付いた元帥夫人は, 召し使いにすぐ彼の後を追わせるが, 彼は馬を風のように駆って帰途に就いた後であった。 彼女は黒人の小間使い Mohammed に銀の薔薇を届けるように言う。

第二幕

Faninal の館では 「薔薇の騎士」 を待ちわびて興奮の渦で沸き返っている。 家令から 「薔薇の騎士」 が到着するときには, 主人は館にいないのがしきたりだと促されて, Faninal は慌てて Ochs 男爵を迎えに出掛ける。 間もなく群衆の歓声が上がり, 大勢の従者を従えて Octavian がSophie に贈る銀の薔薇を携えて現れる。 Octavian がこの薔薇を高く掲げると全曲中ただ一度の fff をオケが演奏する。 初めて出会った二人ではあったが, お互い惹かれあうものの, それが恋であるとは認識できない。 ただ二人は巡り会った幸福な瞬間を決して忘れないと言い合う。 やがて Ochs 男爵が到着すると, Sophie は直ちに自分がまるで商品のように扱われていると感じ取り, それまで期待で高ぶっていた気持ちがたちまち嫌悪へと変貌する。 余りにも無礼な Ochs 男爵の態度に Octavian は業を煮やすが, Faninal は今こそ我が人生で最も華やかな時だとばかり悦に入っている。 Ochs と Faninal が結婚についての取り決めをする為に中座すると, Octavian と Sophie はお互いの気持ちに気づき抱きあう。 そこに現れたのが Valzacchi と Annina で, 彼等は二人を取り押さえて Ochs を呼ぶ。 最初は面白いことになったと, 成り行きを楽しんでいた Ochs であったが, Sophie に結婚契約書に署名させようとすると彼女はそれを拒み, Octavian は剣を抜いて Ochs と小競り合いをするうち, 腕にかすり傷をおわせる。 Ochs は大袈裟にわめきたてる。
 一方, Ochs とは絶対に結婚しないとの決心を固くした Sophie は, それを父親に伝えると彼は激怒する。 Octavian はある企みを胸に, Valzacchi と Annina を雇う。 独りになった Ochs は, 酒で傷を癒していると, Octavian の指図で Annina が入ってきて, 「明日の夜は暇だ」 との Mariandel からの手紙を彼に渡す。 自分の魅力に酔いしれながら, 運が向いてきたと Ochs は逢い引きの場面を想像して有頂天になるが, Annina に心付けを渡す気など全くない。 そこで彼女は仕返しを決心する。

第三幕

Octavian の計画に従って, 料理屋の薄暗い別室で, Valzacchi と Annina は計画の準備を進めている。 程なく Ochs と Mariandel が二人きりで夕食のためにやってくる。 Mariandel は最初緊張しすぎて神経質になっているが, 葡萄酒が進むに連れて泣き上戸へと変化していく様子を巧みに演じてみせる。 Ochs は Mariandel を誘惑するきっかけをつかもうと躍起になるが, 彼女が余りにも Octavian と似ているので, 驚くと同時に興をそがれる思いである。 そんな所へ落とし戸やからくり仕立ての窓の中に隠れていた奇怪な紛争をした男たちが頭を出して男爵を脅す。 そこへ子供たちを連れて変装した Annina が現れ, 自分は Ochs に見捨てられた妻であるとわめきたてる。 警部が到着し, Ochs は救いを求めようとするが, 警部は Ochs の高飛車な態度をまったく意に介さないどころか逆に Ochs を激しく詰問する。 窮余の一策として Ochs は Mariandel を彼女の許婚の Sophie von Faninal であると言い逃れるが, Valzacchi の差し金で, 丁度そこに Faninal 登場。 この情景を見て憤慨した Faninal は Mariandel は自分の娘ではないと言い, 下に待たせてあった Sophie を呼ぶが, 興奮しすぎて気分が悪くなってしまう。 Ochs はいち早く Mariandel を連れてこの場を逃れていきたいと思うが, Mariandel は警部を陰に呼んで事の顛末を説明する。 そこへ突然元帥夫人が登場し, Octavian は驚く。 Sophie は Ochs に婚約は破棄したと宣言する。 元帥夫人も Ochs に彼の名誉にかけてもここから早く立ち去ることを促し, 警部に全ては仮装劇に過ぎなかったのだとわけを話して聞かせる。 Octavian が Mariandel の扮装を解いて現れると Ochs は事の次第を徐々に理解し始めるが, 金づるである Sophie 途の縁談を諦めきれない。 彼は話をもう一度振り出しに戻すべく元帥夫人をとりなしにかかるが, 彼女はきっぱりと断る。 Ochs は召し使いを連れて退散。
 Octavian は, 愛を交わした元帥夫人と愛が芽生えたばかりの Sophie との間に立って当惑するが, 元帥夫人は優しく彼を Sophie の元へと導いてやる。 元帥夫人は, Octavian が自分以外の女性を愛するようになってもその彼を愛し続けていこうと心に誓ったばかりではあったが, これほど早くその時がやって来たのを嘆きながらも, 現実を受け入れ, 困惑する Octavian を Sophie へと贈る。 二人きりになった恋人たちは, 夢が適ったことに陶然とする。 誰もいなくなった舞台に Mohammed 登場。 Sophie の落としたハンカチを拾い, 手にとって振りながら退場。

Octavian は 17 歳 2 ヶ月。 Sophie はまだ 15 にもなっていない (keine fünfzehn Jahr !), 元帥夫人 32 歳くらい。 Ochs 35 歳。


この 1911 年にドレスデンで初演された 「薔薇の騎士」 は作家 Hofmannstahl と R. Strauss が構想段階から緊密な協力関係を保ちながら書かれたもので, 彼等の大量の往復書簡が残されていて, その創作過程をかなりの程度跡づけることが出来る。

両者の書簡は, 表面は礼儀正しい文体で一貫しているように見えながら, その内容は決裂寸前に至るほどに激しく意見を戦わせ, 作曲家は台本に, 詩人は音楽に, 互いに遠慮なく踏み込んで批判し, 注文をつける。 例えば, Strauss が 「あなたほどの才能があればもっと書けるはずです」 と迫れば, Hofmannstahl も 「ご指摘はまったく見当外れです」 と応酬したりするスリリングな場面もあった。 この作品が前衛的な作品とならず, Mozart ふうの喜劇であるというのも, 明らかに Hofmannstahl の意向が反映していると言える。

「薔薇の騎士」 の物語り及び登場人物は Mozart の 「フィガロの結婚」 を下敷きにしているが, 意外なほど Wagner の die Meistersinger von Nürnberg を意識していたことも書簡からうかがわれる。

因みにこの薔薇の騎士の風習は史実ではなく Hofmannstahl の創作である。

登場人物中最も傑出しているのは Ochs 男爵で, Hofmannstahl と Strauss がこの作品の title を決めるに当たって数多くの候補を挙ているが, その大部分がこの Ochs を title role にしたものだった。 少なくとも創作過程のある時期まではこの作品を愛情を込めて Ochs と呼んでいたことが知られている。 このキャラクターの表出には, Hofmansthal が周到に書き込んだ微妙な Wien 訛りのニュアンス, 厳密な時代考証に基づく細部に及ぶ服装や立ち居振る舞いの指定, Strauss が詩人の発案で腕を振るった偉大な時代錯誤とも言うべき豪奢な Wiener waltz がものを言っている。

イギリスの OPERA (12), 1984 にウィリアム・マンが書いた Solti, champion of Strauss によると, ショルティが最初に 「薔薇の騎士」 を指揮したとき, 85 際の誕生日を目前にした R. Strauss がドレス・リハーサルにやってきて, 若いショルティ (36 歳 9 ヶ月) の指揮に, 二, 三の hints を与え, バイエルン・アルプス山中にあるガルミッシュ・パルテンキルヒェンの自分の別荘に招待したという。当時, ショルティは 「薔薇の騎士」 をどんなテンポで, そしてどんな管弦楽の扱いで指揮すべきか, 作曲家自身に教えを請うつもりであったが, その年の 9 月 8 日に死去した R. Strauss は 「Hofmansthal のテキストを, 普通の会話のペースで, 正しいドイツ語の発音で読んでみなさい。 作曲も, そのテキストの会話のペースに合わせて書いてあるのだから」 と言う。 ショルティはこの時, それまでの自分のテンポが, 会話調のペースには些か速すぎたことを悟るのであるが, この事実一つとっても, 「薔薇の騎士」 は所謂 「新解釈による新演出」 が難しいオペラであることがうかがわれる。

実際, テキストの会話とそれに付随する卜書きは綿密精緻を究め, 会話のテンポや人物の出入り, 舞台での動きなどにも音楽は微妙に反応し, 時には, 主役たちから脇役の動作も音楽に書かれているほどであるそうだ。


価格について一言。

今回のパンフレット (価格は \2000) によれば, 現地での最高価格券 (ボックス席の $250) に比して日本での価格 (薔薇の騎士は \58,000, サムソンとデリラ, リゴレットは \60,000) はかなり高い。 現在 $1 = \120 位であるから $250 = \30,000 で約二倍ということになる。 立見券 ($12 = \1440 or $15 = \1800) というのもない。 MET だからこの価格ということもあるだろうが, もう少し値段を下げられないであろうか。

フィレンツェ歌劇場の芸術監督チェザーレ・マッツォーニ氏が 4 月の記者懇談会でこんなことを言っているそうなので紹介しておく (ぶらあぼ (6), 2001)

私は 20 年間東西交流を見てきたが, 素直な意見を言えば, 日本では客の質が上がり, オーケストラ, コーラス, 劇場も向上している。しかしその一方で日本は, 植民地的な弱い立場での扱いに甘んじている。 主催者はどうしてヨーロッパの出演者に二倍, 三倍のギャラを払うのか。 時差があり, 十二, 十三時間の旅行は必要だが旅費のため 10% か 20% 多く払えばいい。 高いギャラを払ったりするのは劣等感の証である。 過去の栄光によって高いギャラを要求するものがあっても過去は過去であり, ギャラに値する演奏は出来ず, 西欧で歌っても通用しない。 日本がこんな高いギャラを払うためヨーロッパのオペラは迷惑を被っており, 引っ越し公演の時も問題になり, 今回でもその為出演を辞めた例もある。

(中略) 今若い人が opera に関心を持つよう努力することも義務だと思う。 フィレンツェ歌劇場に移って意見を求められたとき, 指揮, 演出など高い level には高い料金になるが, 若い歌手も cover としてつけて一緒に練習させ, 最後に何公演か舞台に立たせ, 料金も安くすることを提案した。

これで計算すると適正な価格は \34,000 から \36,000, おおざっぱに言って高々 \40,000 だから \20,000 程度高い。 これは S 席の話だから, もしかすると total で考えるともっと高い計算になるかもしれない。 多分主催者側の考えではいまだに $1 = \360 の頃の計算でやっているのであろうが, もう少し何とかすべきなのではないのであろうか。


この日の横浜は雨。 横浜開港記念バザーなんぞをやっていたので, そういえば 2nd June は開港記念日だったなぁと, 今更のように思う。

14:30 開場と書いてあったが, 既に 14:15 頃から開場していた。 前日の反省でもあったのであろうか。 14:30 頃にはもう既にオケピで練習が始まっていた。 私の席は前から 8 列目。 かなり右寄りで, 右端は見にくかった。 腹が立つのが, 私の左二席が空いていたことで, どうせ空くなら, 私をあと二つ右にしろよ ! 等と思う。 Ticket が高価な所為か, 観客の年齢層は高い。 字幕も誤変換なのか, ごくたまに明らかな誤りがあった。

15:05 tuning 開始。16:24 迄第一幕。

金管 (多分ホルン) が高らかと鳴り響き, 続いて弦楽器が, 官能的で機能和声ぎりぎりの不協和音いっぱいの melody を紡ぎ出すと, いよいよ 「薔薇の騎士」 の始まりである。 後日朝日新聞にも出ていたが, オケはやや控え目。 もっと表に出てもいいのではと思うようなところもないではなかったが, 主役は歌手なのだからこれでいいのかもと思っていた。

後で考えたことだが, この opera は 「時間」 というものが, 色濃く影を落としている。

第一幕は元帥夫人の寝室で朝, 第二幕は Faninal 家で昼, そして第三幕は宿で夜である。

第一幕は夜明けなので, 照明が段々明るくなっていくように演出されていた。 私の持っている LD ではそこまで分からなかった (のか, そういう演出ではなかったのか不明)。

元帥夫人が髪結いに 「この髪型では老けて見えるわ Mein lieber Hippolyte, Heut haben Sie ein altes Weib aus mir gemacht !」 というあたりから, 第一幕の 「時間」 の影が見え始める。 Ochs 男爵が持ってきた銀の薔薇を手にとって, 元帥夫人が過去を回想する。 男爵の婚約と, 自分の境遇との対比。 これらから元帥夫人が 「今日, 或いは明日にも... Quinquin, heut oder morgen geht Er hin und gibt mich auf um einer andern willen, die schöner oder jünger ist als ich. / Der Tag kommt ganz von selber. Heut oder morgen kommt der Tag, Octavian.」 とオクタヴィアンに自分の不安を, そのままぶつけてしまうことになる。 これが結局は, 彼女の恐れていた破局を早めてしまうことになったのだ, と今回見て思った。

ところで, 第一幕では, ここしか登場しないイタリア人歌手 (tenor) がイタリア語の歌を歌う。 これが実に素晴らしい。

Di rigori armato il seno
Contro amor mi rebellai
Ma fui vinto in un baleno
in mirar due vaghi rai.
Ahi ! che resiste poco
A Stral di fuoco cor di gelo,
Di fuoco a stral.

Ma si caro è'l mio tormento
Dolce è si la piaga mia,
Ch'il penare è mio contento
E'l sanarmi è tirannia
Ahi ! Che resiste poco-
Cor... (中断させられる)

又, Renée Fleming が前述の 「今日, 或いは明日にも...」 と歌うのは, 不安と苦悩とが満ち溢れていて聞きごたえがあった。 Octavian 役の Susan Graham は, いまひとつ女性っぽさが捨てきれていないので, 何となくレズっぽかった (笑)。 Ochs auf Lerchenau 役の Franz Hawlata はかっこよすぎる。 もっと脂ぎってて, デブデブしていて, 外見上もいやらしさはちきれんばかりでないと, ただのスケベ親父で, 憎みきれない。 自分がスケベ親父だからかもしれない (笑)。

今回, このホールではオペラを聴くのは初めてであるが, 歌にはエコーがかかって聞こえて, 歌詞が聞き取りにくい (後で思ったがこれは横を向いて歌っているときだから, そういうこともあるかもしれない)。 歌以外ではそういうことを感じなかったので, 舞台装置に問題があったのであろうか。

25 分休憩して 16:50 -- 17:53 が第二幕

Faninal 家はガラス張りで実に明るい。 絢爛豪華。 Sophie Faninal 役の Heidi Grant Murphy の声はきれいだが, もう少し可愛いともっといいな (笑)。 第二幕の終わり頃で, Octavian と Valzacchi, Annina が第三幕の打ち合わせをしているのだが, LD では気付かなかったが, かなり時間的に余裕があって, 本当に充分打ち合わせが出来るのであるなと思った。 又第二幕では, 「組曲」 でも採用された, 官能的なワルツが演奏されるが, 私はこれがとても好きだ。

Wie ich dein alles werde sein !
Mit mir, mit mir keine Kammer dir zu klein,
ohne mich, ohne mich jeder Tag dir so bang,
mit mir, mit mir keine Nacht dir zu lang.

再び 25 分休憩。 ここの休憩でコントラバスが, Bach の無伴奏組曲を弾いていた。 又, 第二幕で Ochs が 「あのイタリア人めが ! Sakramentsverfluchter Bub' ! Nit trocken hinterm Ohr und fuchtelt mit 'n Spadi ! Wällischer Hundsbub' das !」 というような台詞を言うのだが, Roflano という名前が, イタリア系であるということが分かっていない人が, 「あれは何だったんだろうね」 といっていた。 パンフレット作成者は, こういう分かりにくいところを解説しておくべきであったろう。 不思議なことに, ここで 「最後の音が終わるまで拍手しないように」 との注意がされる。 確かに第三幕はいつ終わるのか, 知らない人には分かりにくいと思われるが, opera なんだからいつ拍手したっていいじゃないか。 そういえば第一幕で, 「歌手」 が歌い終わったときに私は拍手しようとしたが, 舞台上で Ochs が拍手したくらいで, 追従する人はいなかった (笑)。

ここで気付いたのだが, 幕間に, ホールの出口が開け放たれて, 観客が何十人もそこから外に出て飲み物を飲んでいたりしていたので, もしかしたら, 私の隣の席のように, 空いている席があることを知っていたら, 第二幕からこっそり見ることが可能だったかもしれない (笑)。

第三幕 18:20 -- 19:38

この幕中, 二回も (多分同じ人) 携帯電話のベルを鳴らした人がいる。 まったくマナーがなってないにも程があるというものだ。

ふと思ったが, この幕の元帥夫人の出方は, まさしく deus ex machina (デウス・エクス・マキナ) 即ち 「機械に乗った神」 という感じではなかろうか。

元帥夫人, Octavian, Sophie の有名な三重唱や, Octavian と Sophie の二重唱はまるで夢のようである。

Renée Fleming の元帥夫人としての最後の台詞, Faninal が 「これが若いってことですよ Sind halt aso, die jungen Leut' !」 というようなことを言うのに対する返答 "Ja, ja" の二音節が実に情感せまっていて素晴らしい。

アンコールは 5 分は続いたろうか。 Renée Fleming, Susan Graham, Franz Hawlata への拍手と bravo call が多かったのは当然であるが, Heidi Grant Murphy に対するそれが, 配役と活躍の割に少ないと感じた。


2001 年のコンサート鑑賞記録の目次
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