Turandot

マクドナルド・スペシャルナイト

Friday, 21st September, 2001.
新国立劇場
18:30 -- ca. 21:40.

Ligretto (台本): Guiseppe Adami & Renato Simoni (ジュゼッペ・アダミ, レナート・シモーニ)
Giacomo Puccini (プッチーニ)(Franco Alfano (1876 -- 1954) 補筆)

Artistic Director (芸術監督): 五十嵐喜芳 (きよし)
Conductor (指揮): 菊池彦典 (よしのり)
Production, Scenery and Costume Designer (演出・美術・衣裳): Hugo De Ana (ウーゴ・デ・アナ)

Turandot (トゥーランドット): Alessandra Marc (アレッサンドラ・マルク)
Calaf (カラフ): Dario Volontè (ダリオ・ボロンテ)
Liù (リュー): 出口正子
Timur (ティムール): 若林勉
L'imperatore Altum (皇帝アルトゥム): 持木 (もちき)
Ping (総理大臣ピン): 松本進
Pang (財務大臣パン): 松浦健
Pong (大膳大臣ポン): 市川和彦
Un mandarino (官吏): 峰茂樹

Il Principe di Persia (voce) (ペルシャの王子 (声)): 加藤信行
Prima Ancella (侍女 1): 山下裕紀 (ゆき)
Seconda Ancella (侍女 2): 金子寿栄 (としえ)

Chorus: 新国立歌劇場合唱団, 藤原歌劇団合唱部
Children's chorus: 多摩ファミリーシンガーズ

Orchestra: 東京フィルハーモニー交響楽団


Turandot の粗筋については, 「館のさくらぎ」 からこちらを, 物語成立の概略については, 香川大の最上英明氏の 「トゥーランドット物語の変遷」 を参考にしていただきたい。

一寸だけ書いておくと, このような話は難題求婚譚と言うのだそうで, 私は Turandot を 「首切りお姫様」 と呼んでいたが, さららは 「中国風かぐや姫」 と呼んでいた。 林望氏も同じ考えのようで, このような話は, 千夜一夜のみならず, グリム童話, 古くはギリシャ神話にも見られることを私は以前から知ってはいたが, 寧ろ日本にはこの手の話は沢山あるということを教えられた。

又永竹由幸氏は, このような難題求婚譚は現実の物語であったかもしれないことを指摘しているのでそこだけ引用しておく。

実は古代エジプトでは王の継承権は長女にあったという。 ファラオは男なのだが, その継承権は男子ではなく女子に与えていたのだ。 これが古代エジプトに長い繁栄をもたらした system なのではないだろうか。 ファラオとしては自分の血筋に王位を譲りたい。 しかし, 長男が常に優秀な男とは限らない。 それで国中で一番優秀な男を娘の婿にとり, その男に相続させるというのは賢い方法である。 ではその男が優秀かどうかを決める方法は, どうしたらよいだろうか。 中世は武力社会である。 よって剣で勝負はつく。 しかし古代社会は実のところ結構優秀な少数の頭脳集団によって運営されていたのだ。 よって相当頭の良い王でないと国家運営は出来ない。 そこで考えられたのが王様登用試験ではなかったのだろうか。 ということはもしかしたら, 古代メソポタミアの小王国では, こういう制度が本当にあったのかもしれない。 つまりこれが古代母系社会から父系社会に変わる時代の 王制長女相続の国王登用試験が伝説として残ったのかもしれない。 そして挑戦に失敗した者の首を切るというのは, そういうファイトのある男は, 失敗しても反乱を起こすかの所為があるからだ。 つまり, この夫選びの謎掛け問答は単なるお話ではなく, もしかしたら本当に古代にあった可能性が大きいのだ。


生憎の雨で寒い日であった。 連休前の忙しさから又遅れてくるのではないか, と危惧されていたいつもの可愛い私の連れは, 前日に急に決まった沼津への出張と, 翌日の資料作りに追われて, 開演時間ぎりぎり (18:28 に着信記録がある) に劇場に到着した。 私は, 私に電話を掛けながら自らも駆けている彼女に後ろから声を掛けた。

この日は 8 夜ある schedule の内第 4 夜。 この日は日本 MacDonald の創業 30 周年記念ということで, ticket 代が全席半額だったのである。 そういうわけで Friday, 28th September, 2001 の朝日新聞夕刊によれば, この日の ticket は 3 時間で完売となったそうだ。 因みにお土産と称してグラスと MacDonald の只券ももらったし, 緑色の laser で描く Donald 君が壁面を飾っていたし, 本物 (?) の Donald 君が観客と instant 写真を撮るという service もしていた。

新国立劇場は初めて来たが, 他の劇場と違ってオケピが作り付けで, 広い。 舞台の方に少し食い込む作りになっている。 音響効果も良いようである。

今まで opera は ticket 完売とは言っても, 大抵の場合, どこか席が空いていたものであったが, この日は本当に空席を見かけなかった。 しかし前日から寒かった所為か, 咳をする人が多い --- 或いは特定の人がしきりに咳をする。

第一幕では良くご存じのように Turandot は一言も発しない。 最初は中央の巨大な球体の上の一部が開いていて, そこから官吏が勅命を述べ伝える。 月が出て民衆が Turandot に慈悲を恋う scene では円形の screen に姫の顔が大写しにされかなり不気味。 民衆 (そして Liù) は白塗りで人民服を着ている。 それ以外の主要 members は京劇 --- 或いは歌舞伎 --- 風の隈取りをしている。 Liù を歌った出口さんはまったく知らなかったが秀逸。 Calaf の Dario Volontè も, 歌い出しは 「あれあれ ? Albert Cupid の方が良かったかな ?」 と思ったが, すぐ持ち直し, 姫の名を呼びながら三度銅鑼を打ち鳴らす一幕最後の scene 等はさすがと思わせた。

死者の声が聞こえる scene では, フラフープが使われて, これがまるで使者の声を聞く装置であるかのように扱われていた。 全体にそういう 「機械」 を感じさせる演出が目立つ。

何の所為かは不明だが, 人々の足音など小さい雑音が気になることが多かった。

第二幕。 Ping, Pang, Pong が愚痴の歌を歌い終わると, 中央に据えられていた巨大な球体が左中右と分割され, 中央部が 90 度回って, 下の段に勅命を述べる官吏がいる。 Altoum 皇帝は観客席側にいるという設定。 観客側の上の方の席 (?) の中央で歌っていると思われる --- curtain call の時, 持木さんだけは歌唱陣の中で唯一 gala concert の時のように蝶ネクタイに燕尾服 (?) という出で立ちであった。 この演出の所為で, 普通皇帝に向かって発言しているときは, 舞台奥に向かっていなければならないのだが, Calaf も民衆も自然と観客席に向かっていることが出来た。

Turandot の Alessandra Marc は球体中央部が 180 度反転して逆側で地球 (?) の上に乗っかった形で現れる。 まるで 「夜の女王」 といった感じ。 かなり上の部分にいることになるので Turandot を見ようとすると必然的に見上げることになり, かなり首が疲れる。 Turandot は第三幕で Calaf の 「天上に留まっていないでここに降りてこい」 という呼びかけに応じて降りてくるまで, こういう状態で歌うことになる。 Alessandra Marc は Turandot の ultra dramatic な要求に充分応えている。 殊に謎かけの歌は秀逸だ。

Turandot の謎かけ歌を全て解いた Calaf が歌う自分の名前を当ててみろの歌は, Turandot の謎かけの旋律をそのまま繰り返したあと, 静かに Nessun dorma! の旋律に変わる。 ここが或る意味でこの opera の一大転換点であるとも思われる。 (が, 本当の一大転換点は Liù の死のあとに訪れることは皆知っていよう)

翌日から何故か 「三つの謎に一つの生だ !」 に続く重唱が頭を着いて離れない。

第三幕。 有名な Nessun dorma! が歌われる --- ここと一幕の Liù の aria の所だけが拍手で中断。 三人の大臣が現れ, Calaf に交換条件を出して Turandot を諦めさせようとするのだが, この時出て来た 「美女」 三人がロボット的な動きをしていた。 Hugo De Ana は, 清水玲子のいう, sexoid みたいなものを image していたのだろうか ?

Liù の死が演じられ, Turandot がやってくるのだが, 二人とも一つの生きもののような広い布に, つんつんととがった状態にするために, 何人かが入った袋状のもの (?) につながれたという感じの出で立ち。 接吻の scene は近付いていったあと, この布に隠されて見えない。 初めて見る人は, この scene がどういう scene だか良く分からなかったかもしれない。 最後に皇帝に向かい Turandot が 「彼の名が分かりました, それは 『愛』 です」 という scene で終ると何となく思っていたのだが, そのあと, 人民の合唱で終る。 これが完全に全員がこちらを向いて歌うのですごい迫力であった。

Curtain call では初めて皇帝 Altoum 役が現れたのと, Alessandra Marc が両手に victory sign を掲げて現れたのが印象的であった。 そうそう, Alessandra Marc はかなり大きい人で, curtain call で出て来たときに初めてそれが分かった。


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