自然数からなる等差数列の有限和に関する性質

Friday, 9th June, 2000.


[1] 主定理
ここでは次の二つの定理を証明する。

定理 1.
2 以上の自然数 ((すなわ)ち正の整数) が連続する複数の自然数の和で表される為の必要且つ十分条件はその数が 2 の(べき)でないことである。

定理 2.
2 以上の自然数が総ての項が自然数からなる公差 2 の等差数列の連続する和で表される為の必要且つ十分条件は, その数が素数でないことである。

定理 2 に()いてこの list の中に 2 と 3 が出てくるのは実は単なる偶然である。又定理 2 は素数の一つの特徴付けを与える。

[2] 等差数列
一般の人は, 等差数列と言われてもそれが何なのか分からないであろうから, 一寸説明する。

先ず数列 sequence とは(ある)一定の規則に従って並んでいる数の並びのことである (細かいことはここでは省略する)。

数列のうち等差数列 arithmetic progression と呼ばれるものは初項と呼ばれる最初の数に 公差と呼ばれる一定の数 d を加えていって次々と項が与えられるものをいう。即ち初項を a とするとき, a, a+d, a+2d, a+3d, a+4d, a+5d, ...... という数の並びが等差数列である。この数列の n 番目 (第 n 項という) は a+(n-1)d となる。この数列の初項から第 n 項までの和が (2a + (n-1)d)/2 という公式で表される (ここの証明は省略する)。

[3] 問題の経緯
1999 年 1 月 16 日に大学入試センター試験が実施されたが, 某 TV 局の interview で, ある女子受験生が数学が泣きたいほど難しかったというので, 普段は問題を見もしないのだが, 一寸興味を覚えて解いてみた。数学 II・B の最後問 6 の問題は, BASIC による program の問題の一つであるが, それを見ると定理 1 が予想される。(面倒なので問題はここには載せない)

これは, 公差 1 の等差数列の有限和に関する性質を述べているので, 同様のことが公差 d の等差数列の有限和に関しても成立するのではないかと思い, 調べてみたところ, d = 2 については定理2が得られる。

実は d > 2 についても調べてもみたのだが, 一般的性質については良く分からなかった。このことについては, 本稿の最後で述べる。

尚, 本稿は最初神奈川県数学部会の部会通信の column 用として書いていたのだが, 思いの外長くなったので, 稿を改めて書き起こしたものを更に書き加えたものである。

[4] 定理 1 の証明
以下では p を奇素数 (奇数である素数) とする (実は奇数であるだけで十分であるが)。

良く知られているように (或いは [2] に述べた公式によって a = 1, d = 1, n = p とすることによって) 1 + 2 + … + p = ((p + 1) / 2) × p が成り立つ。従って, ((p + 1) / 2) × p と書ける自然数に関しては, 1 から p までの連続する自然数の和として書けている。

これを利用すると, ((p + 1) / 2) × p + kp = (1 + k) + (2 + k) + … + (p + k) となることが分かるので, ((p + 1) / 2) × p 以上である任意の p の倍数に関しては連続する自然数の和として書ける。

次に((p + 1) / 2) × p より小さい p の倍数について考える。このとき k + (k + 1) + (k + 2) + … + (p - k) = ((p - 2k + 1) / 2) × p が成り立つ。一方 ((p + 1) / 2) × p - kp = ((p - 2k + 1) / 2) × p でもあるから, ((p + 1) / 2) × p - kp = k + (k + 1) + (k + 2) + … + (p - k) である。

ここで, k が k ≦ (p - 1) / 2 である自然数であるとするなら, ((p + 1) / 2) × p - kp は ((p + 1) / 2) × p より小さい総ての p の倍数を(わた)る。よって ((p + 1) / 2) × p よりも小さな総ての p の倍数も連続する自然数の和で書ける。

例えば p 自体は, 上記における k = (p - 1) / 2 と置いて p = (p - 1) / 2 + (p + 1) / 2 と書けるし, 2 よりも大きな奇数ならば必ず 3 + 2n (n = 0, 1, 2, ...) と書けるので, 3 = 1 + 2 を用いて 3 + 2n = (n + 1) + (n + 2) という書き方でも良い (実はどちらも同じではあるが)。

以上より、結局奇素数の倍数は連続する自然数の和で書けることが分かった.
さて奇素数の倍数でない 2 以上の数とは素因子が 2 のみの数で, これは要するに 2 冪の数である。

逆の証明:
もしも, 連続する自然数の和が 2 冪なら a + (a + 1) + (a + 2) + … + (a + b) = ((2a + b) / 2) × (b + 1) = 2m となる。但し a, b はともに自然数である。これより (2a + b)(b + 1) = 2m+1 となる。この式から b + 1 が偶数でないといけないので b は奇数でないといけない。しかしそうすると 2a + b が奇数となって矛盾している。

[5] 定理 2 の証明
自然数 N を二つ以上の素因子を持つ自然数 (所謂合成数即ち 1 でも素数でもない数) とする。従って 2 ≦ c ≦ d となる二つの自然数 c, d を用いて N = cd と書けている事になる。

ここで公差が 2 である等差数列 d − c + 1, (d − c + 1) + 2, ..., (d − c + 1) + 2(c − 1) を考える。この和は明らかに cd である。また初項 d − c + 1 は自然数である。よって, 合成数であれば, 公差が 2 の等差数列の連続する複数の項の和で書ける。即ち, 素数でなければ, 公差が 2 の等差数列の連続する複数の項の和で書ける。

一方, 逆の証明には背理法を使う。初項 a 公差が 2 の等差数列の第 n 項までの和は a ≧ 1, n > 1 とし n(2a + 2(n - 1))/2 = n(a + n - 1) である。これが素数であるのなら, 1 と自分自身以外に因数をもつので矛盾である。

[6]予想
この type の一般的な形は「(2 以上の) 自然数が公差 d の自然数からなる等差数列の連続する複数の項の和で表されるための必要十分な条件は, その数が○○でないことである」と述べられることになるだろう。ところが [3] で触れたように, d > 2に関しては, そのような数がどういう特徴を持っているのか良く分からない。例えば『 2 以上の自然数が公差 2m の自然数からなる等差数列の連続する複数の項の和で表されるための必要十分条件は, その数が「素数の冪であってしかもその指数が m 以下」ではないことである。』という予想が立てられたが, m = 3 の時 33 = 27 = 1 + 9 + 17 という反例や, 35, 77 がそのような和では表されないということが分かり頓挫した (公差が 2 の冪である type の問題については 200 までの数について m = 2, 3, 4, 5 のときの list を作ってある)。

有名な素数定理 (J. Hadamard, Ch. De la Valée-Poussin (1896). http://www.utm.edu/research/primes/howmany.shtml に, 簡単ではあるが, 良い説明がある。) は π(x) 〜x / log x (漸近収束, 記号 π(x) は x を超えない素数の数) ということを述べているので, 同様の性質が成り立つのではないかという友人の示唆により, MS Excel® で macro を組んで 1 千万程度まで調べてみた (MS Windows 95 上 Toshiba DynaBook GT-R590 (Pentium 90 MHz) では一つ当たり 4 時間程度かかっている。尚, algorithm は, センター試験のものより効率の良いものを採用している。)。その結果, 公差 d の時の n を超えない自然数からなる等差数列の有限和で表されない自然数 (だから 1 も数えられている) の数を Cd(n) とするとき (C は count のつもり), d が偶数ならば Cd(n) 〜 n / log n の様な気がする。例えば C4(107) = 724572, C6(107) = 759379, C8(107) = 784549 である。又, d が奇数ならば Cd(n) 〜 5(d + 1)n1/2/ (2log n) の様な気がする。例えば C3(108) = 5824, C5(108) = 8226, C7(5×107) = 7910である。 只これらは予想と呼ぶには実験が本当は足りなすぎるし, 相異なる ν 個の素因数の積として表される自然数で x を超えないものの個数を πν(x) とすると πν(x) 〜x(log log x)ν-1/((ν-1)! log x) という Landau の 1911 年の結果も知られているので, 式がもっと違う形をしているのかもしれない。しかし, あまりにも computer にかかりっきりになっているので疲れてしまって, これ以上追求する気が起きない。

素数定理の証明すら良く知らないので, 証明など思いつきもしないが, 誰かその気があったら, 是非共 try していただきたい。

Friday, February 5, 1999.

[7] 追記
以下の記述を簡単にするために, a, d, n を自然数とし, 特に n ≧ 2 とする。今, a を初項とし, d を公差とする等差数列の初項から第 n 項までの和をSa, n と書くことにすると, 上記の議論は d を固定したときの集合 Md = {Sa, n} の中に現れない数を調べていることになる。

筆者は, 素数定理の類似に try すべく, 先ず, 下界を求めてみようとしたが, 評価がいい加減すぎて, 常に負になる式になってしまった。そこで, 反省して d = 3 に絞って考えることにしたところ, この場合は, 2m の形の数全てと, 2mp (m は自然数, p は奇素数) の形の数の一部が現れないことが分かった。2 冪の形については, 一般に次の定理が成立する:
定理 3
d ≡1 (mod 2) ⇒∀m(¬2m∈Md)
(内容は d が奇数ならばどのような 2 冪の数も集合 Md には入らない, ということ)。
これは Sa, n = (2a + (n-1)d)n / 2 の公式から, n を偶奇に亙って場合分けすればすぐに得られる。

問題は d = 3 の場合の 2mp の方で, 素数を 2, 3, 5, ... の順に番号付して pi の形に書くとき,
m = 1, i = 2, ..., 4;
m = 2, i = 3, ..., 8;
m = 3, i = 4, ..., 14;
m = 4, i = 6, ..., 24;
m = 5, i = 9, ..., 42;
m = 6, i = 15, ..., 75;
m = 7, i = 24, ..., 135
が表れない数であるということが Sa, n ≦ 10,000 について観察すると分かる。又 m = 8 については i = 40, ..., 77 がこの範囲にあるが, p78 に関しては 10,000 を超えてしまうので不明である。これらに関しても, 何か予想めいたものを立てたいのだが, 今のところ立てられないでいる。問題としておく。

更に, d = 4 ではどうだろうかなどと問題は尽きないのだが, 段々校務も忙しくなってきたことなので今のところ pending である。何か良い idea があったらご教授いただきたい。

Wednesday, April 28, 1999.

本稿も以前の神奈川県数学部会の部会通信に寄稿したものに手を加えたものである。


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