Dummy Index 無効添字

Wednesday, 19th July, 2000.

数学の世界にはテンソル (tensor, テンサー) と呼ばれる量がある。 Vector (ベクトル) の拡張のようなもので, vector が例えば a = (a1, a2, a3) のように, 下付添字 (lower index) 一種類で表されるのに対し, tensor は上付添字 (upper index) も使って tijklmnpq のように表したりする。上付添字一つ, 下付添字一つの tensor は行列と同じで, aikbkj と書いたとき, 上下に現れる同じ文字 k は, それで和を取っているということを意味するというのが Einstein の規約 (Einstein's convention) と呼ばれている。つまり aikbkj = Σk=1n aikbkj ということである。私が大学在学中に聞いた話では, Einstein が例の相対性理論の論文だか本だかを, 発表したときにこの Σ の記号が余りにもみっともなかったので, 記述から削ってしまおうと思ったのが発端らしい。微分幾何学では tensor がいっぱい出てくるので, 普通この Einstein の規約を用いて書く (とはいえ最近の modern な論文では成分で書かない事が多いので使っていないかもしれないが)

さて, この Einstein の規約を用いた先の例で, 和をとるために使っている上下一対の添字は和を取る為だけの添字なので, 例えば aikbkj = cij と思っても実は同じである。従って, k は 出来上がった tensor としては添字としての意味がないので「無効添字」と呼ばれている。

ところで, Einstein の規約はとても便利だとも思うのだが, 例えば対角成分の説明をするとき「aii を対角成分という。但し和は取っていない」などと余計な注意書きを書かなくてはいけなくなってしまって場合によっては不便である。又, 場合によっては和を取っている上限下限が曖昧になるので, 使いたくても使えないときもある


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