Newton の粘性法則 Newton's law of viscosity

Thursday, 9th November, 2000.

水や空気などの流体の速度が流れと直角の方向に変化しているような場合 (簡単に言うと曲がって流れている場合等) には, 流体の流れの「内側」と「外側」では速度の差が生じている。 その差をなくそうとして「ずれ応力」と呼ばれる力が流体の粘性の所為で生ずる。
流れの方向に x 軸, それと直角に y 軸を採り, y 軸に垂直な面に働く応力の x 成分を X_y, 速度を v, 粘性率を η とすると, 普通の流体では X_y = η∂v/∂y が成立する。これをNewton の粘性法則という。
この法則に従う流動は Newton 流動 (Newtonian flow) と呼ばれ, この性質を持つ流体は Newton 流体 (Newtonian fluid) と呼ばれている。Newton 流動は Navier-Stokes 方程式 と呼ばれる方程式或いは遅い流れの場合は Stokes 方程式に従っている。

一方, この Newton の粘性法則が成立しないような粘性を示すものがある。
その総称は異常粘性 (anomalous viscosity) と呼ばれている。これのメカニズムはまだ良く分かっていないものが多い。 そのうち履歴現象 (hysteresis つまりその現象が起こる前にどうであったかということ によって結果が変わること。 再現性があって, 時間依存性を示さないこと) が起こらないものが比較的簡単である。
即ち見かけの粘性率 (単位は Pa・s [パスカル秒]) がずれ応力 (又はずれ速度) のみによって変化するようなものがある。このような性質を非 Newton 粘性 (non-Newtonian flow) といい, この性質を持つ流体を非 Newton 流体 (non-Newtonian fluid) という。 これには次の三つの場合がある。

(1) 構造粘性 (structural viscosity, viscosité sturucturale, Strukturviskosität, структурная вязкость)
ずれ応力が増大すると見かけの粘性率が減少する場合。
Friedrich Wilhelm Ostwald (オストヴァルト 2nd Sept 1853--4th Apr 1932) が命名。
サスペンション, エマルジョン, ゾルなどの分散系で見られる。

(2) ダイラタンシー (dilatancy, dilatance, Dilatanz, дилатанция)
ずれ応力の増大と共に見かけの粘性率も増加する場合。
Osborne Reynolds (レイノルズ, イギリス, 23rd Aug 1842--21st Feb 1912) が命名。Dilatancy とは「膨らむ」という意味である。比較的形の均一な相互間の結合力 の小さい粒子からなる分散系で屡々見られる。
海辺の砂地を足で踏むと, 砂血の感覚が拡がり, 水が砂の中に吸い込まれて, 砂血は乾い て見え, 固くなる現象もこの一つ。
澱粉に適度の水 (日本テレビの「伊藤家の食卓」 Tue 7th Nov, 2000 放映の「大発見」 によれば水 : 片栗粉 = 10 : 7 が良いそうである) を加えて練ったものは, 容器をゆっ くり傾ければ自由に流れ出るが, 急激に掻き取ろうとすると極めて固くなるという現象も この一つ (これはやってみると面白い。子供でも遊べる)。

(3) ビンガム流動 (Bingham flow) ペンキ, 練り歯磨き, バター, 石鹸などの組成流動。
 E.C. Bingham が方程式を示した。式は
τ - f = ηplD.
τ はずれ応力, f は降状応力, D はずれ速度, ηpl は 塑性粘度 (plastic viscosity) と呼ばれる物体特有の定数。
これに従う物質をビンガム物体 (Bingham body) 又は軟塑性体 (soft plastic) という。 多くの泥状流動体 (slurry) はビンガム流動をし, 圧力を加えて管の中を輸送するとき, 管の中心部に押し出される部分 (栓流 plug flow) を生じたりする。

参考文献: 岩波理化学辞典 第五版


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