ジレンマ dilemma

Friday, 24th March 2000.
Tuesday, 11th July 2000.

最近あんまり耳にしなくなったが, 日常語としての「ジレンマ」は二つある選択肢のうちどちらを選んでも困った状況になること。板ばさみ。 e.g. 勉強すると遊べないし, 勉強しないと進級できない。

本来は論理学の用語で「『AならばC ()つ BならばC』 であるならば 『A又はB』ならばC」という形式の推論のことで, 両刀論法と訳される。 普通には「場合分けの証明」と称されるものである。

[分析の規則] 第二は, 私の研究しようとする問題の各々を, 出来得る限り多くの, そう して, それらのものをより良く解決するために求められる限り細かな, 小部分に分割する こと。
デカルト
方法序説 (落合太郎訳, 岩波文庫)
そもそも dilemma とは
di が 2 を意味する接頭辞で
lemma は (普通「補助定理」等と訳されるが)「受け入れられたもの」つまり「仮定」を意味する。
(すなわ)ち「二つの仮定」「二重の仮定」という意味である。

誰でも当然思うのは, それじゃぁ「三重の仮定」だったら trilemma というのだろうかということであろうが, その通りなのだそうである (故前原昭二先生による)。即ち「AならばD 且つ BならばD 且つ CならばD であるならば A又はB又はCならばD」 というのが trilemma である。

しかし, trilemma は二回の dilemmata の結果として得られるので, 通常の論理学では trilemma というのを 改めて取り上げるということをしない。

ところで, 数学用語の page の(はず)なのにどうして論理学の用語 を取り上げるのかと思った人もいるに違いない。

一応言い訳をしておくと, 確かにアリストテレス以来の伝統的な論理学というものは数学とは独立した学問であったが, George Boole (ブール, 1815--1864) や Augustus De Morgan (ド・モルガン, 1806--1871) によって 従来の論理学を計算で済ませられるような形式として見直され, Friedrich Ludwig Gottlob Frege (フレーゲ, 1848--1925) によってほぼ記号化された。

その後 Charles Sanders Peirce (ピアス, 1839--1914), Wilhelm Karl Ernst Schröder (シュレーダー, 1841--1902), Giuseppe Peano (ペアノ, 1858--1932) 等の手を経て, Bertrand Arthur William Russell (ラッセル, 1872--1970) により発展し, Russell と Alfred North Whitehead (ホワイトヘッド, 1861--1947) の共著による Principia Mathematica (1910) に集成され, 記号論理学として完全に数学の一部分となった。

上記は岩波数学辞典の記述によるものであるが, Gottfried Wilhelm Freiherr von Leibniz (ライプニッツ, 1646--1716) や Gerhard Gentzen (ゲンツェン, 1909--1945), David Hilbert (ヒルベルト, 1862--1943), Wilhelm Ackermann (アッカーマン, 1896--1962), Kurt Gödel (ゲーデル, 1906--1978) 等が挙げられてないのは記号論理学小史としては 些か片手落ちという気がするのだが, いかがであろうか。

ここでコンビニ作曲家 MIC 氏に教えてもらった joke を一つ。... の前に, 文中に出てくる「オクト」というのはラテン語の 8 を意味する言葉 octo。オクターブとか, (蛸を意味する) オクトパスとかに出てくるね。(October は 10 月だが, 語源的には 8 番目の月っていう意味だ)(Tuesday, 11th July, 2000 に加筆)

プレイガールがプレイボーイに言った。
「あなたと付き合っていいものかどうか、あたしジレンマだわ」
プレイボーイが言い返した。
「八方美人な君の場合、ジレンマじゃなくてオクトレンマだろ」
プレイガールはむっとして言った。
「じゃあ、あなたはなんなのよ」
「ぼくは、ヒャクセンレンマさ」


参考文献:
三省堂: 広辞林, 第 6 版。
前原昭二: 数理論理学序説, 共立全書, 160.
岩波数学辞典第 3 版 71「記号論理」の項。
Douglas R. Hofstadter: Gödel, Escher, Bach -- an Eternal Golden Braid, Random House (日本語訳「ゲーデル・エッシャー・バッハ」)
Hilbert-Ackermann (伊藤誠訳): 記号論理学の基礎, 大阪教育図書

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