言わずと知れたカジノの道具の一つ。 洋裁でチャコペーパーを使うときに使う道具もこういう名前だったような気がする (発音は確か「ルレット」だったけどね)。
定曲線 C に接しながら, その上を他の曲線 C´ が滑らないで転がるとき, C´ に固定された点 X の軌跡 Γ を, 一般に C を底線 (base), C´ を転曲線 (rolling curve), X を極とするルーレット (roulette) という。 有名な例はサイクロイド (cycloid, 擺線) や内トロコイド (hypotrochoid) である。この hypotrochoid という曲線の名前は耳慣れないかもしれないが, 下図 のような図形がそれである。左図は底線が半径 1 の円, 転曲線としては半径 0.52 の円を内接させたもの。極は転曲線の中心から 0.3 の位置にある。筆者が子供の頃はこの図形を描く文房具スピログラフ を売っていたものである。尚, この絵は私が Microsoft Visual BASIC を用いて書いた program を用いて描かせたものである。現在 JAVA に移し変えるべく鋭意努力中である。(^_^)
さて, 岩波数学辞典には底線を直線, 転曲線を放物線, 極をその焦点とした場合に懸垂線 catenary を描くということが出ている (「曲線」の項, 第三版では 87H)。これからその証明を描くがその前に一般の人は懸垂線とは何かということを知らないだろうから, それについて一寸説明する。
懸垂線は a を 0 でない定数として y = a(ex/a + e-x/a)/2 という方程式で表される曲線である (すぐ下の図)。懸垂線は至る所で見られる。線密度一様 (というのは普通成り立っていると思ってよい) の線を両端を持って垂らす。このときに描く曲線が懸垂線であるから, 電線だって, ネックレスだって洗濯紐だって皆懸垂線を描く (証明は難しい)。
さて, 証明である。
焦点を F(0, a), a > 0 に持ち x 軸に接する放物線の方程式は y
= x2 / 4a である。この放物線は y 軸対称だから, 右側
(x 軸の + の方)
にだけ転がしていくことを考える。放物線上に点 P (ξ, η)
をとる。放物線の弧長 OP を x0 と置くと x0 =
∫0ξ(1+(y')2)1/2dx = ∫0ξ(1+(x
/ 2a)2)1/2dx となる。ここで u0 = ξ/ 2a
と置くと, x0 = a(u0(1 + u02)1/2
+ log(u0 + (1 + u02)1/2))
となる。
図の向きに, 点 P に於ける放物線の単位接ヴェクトル u と単位法ヴェクトル n とをとると (「単位」とは長さが 1 だということ, 法ヴェクトルとは垂直方向を向いているということ), u // (1, u0) であるから u = (1, u0)/(1 + u02)1/2, n = (-u0, 1)/(1 + u02)1/2 となる。このことからヴェクトルとして PF = a(-2u0, 1 - u0) が分かる。
さて, 放物線が x 軸上を転がって点 P
が接点になったとすると, そのとき, 焦点 F の座標は vectors u,
v を基本ヴェクトル (原点と x 軸, y 軸の座標 1
の点とを結んだヴェクトル) とするときの vector PF
の成分(X, Y) を用いて, F(x0 + X, Y) と書ける。そこで PF
= Xu + Yn と置いて, 連立方程式を解くと, X = -au0(1 + u02)1/2,
Y = a(1 + u02)1/2 となる。今, F(x, y)
として t0 = u0 + (1 + u02)1/2
と置くと, x = a log(u0 + (1 + u02)1/2)
= a log t0. 故 t0 = ex/a. 従って
y = a(1 + u02)1/2
= = a(t0 + t0-1)/2 = a(ex/a + e-x/a)/2
= a cosh(x/a).
これが懸垂線の方程式なのであった (cosh
は双曲線的余弦函数 hyperbolic cosine)。QED (= quod erat demonstrandum,
ラテン語, 「それが証明すべきことであった」)
尚, 以上は神奈川県の数学部会通信の記事として書いたものを多少書き加えたものである。