井上道義の上り坂コンサート vol. 3.

Saturday, 1st November, 2003.
神奈川県立音楽堂
13:30 -- 15:50


第十回神奈川国際芸術フェスティバル参加

Olivier Messiaen (メシアン, 1908 -- 1992):
Les Offrandes Oubliées (忘れられた捧げ物)

Wolfgang Amadeus Mozart (モーツァルト, 1756 -- 1791):
Konzert für Klavier und Orchester Nr. 21. in C-dur, KV. 467.
mit 菊池洋子 (cadenza: 菊池洋子)
I Allegro Maetoso, II Andante, III Allegro Vivace Assai.

Wolfgang Amadeus Mozart (モーツァルト, 1756 -- 1791):
Synfonie Nr. 40. in g-moll KV. 550.
I Molto Alegro, II Andante, III Menuetto: Allegretto/Trio, IV Allegro Assai.

井上道義
神奈川フィルハーモニー管弦楽団


これは次に行く予定の Lulu の ticket 購入と同時に e+ で購入したもの。 こちらの方がまだ少し余裕があったが, @チケットぴあの方で調べたところ, 残りわずかになっていたので, 一緒に購入した。 Mozart はかなり popular で, KV. 550 は実は初めて購入した LP (まだそういう時代だ) が Herbert von Karajan/Berliner Philharmonisches Orchester だったという一寸記念碑的なところもあるが, 実はお目当ては Messiaen である。 この曲はチラシによると, メシアンの楽壇デビュー曲, だそうで, 井上道義氏が pretalk でこの曲についてわざわざ話すと言うし, これは一寸聴いてみなければというので購入した。 --- それにしては気付くのが遅すぎる気もするが (^_^;

良く考えると, 神奈川県に住んでいるのに 「神奈川フィルハーモニー管弦楽団」 を聴きに行くのは初めてである。 果してどんな演奏であるか。

こちらも, 発売開始後大分たってから購入したので, 10 列 9 番と今度は左に拠りすぎているが, まぁ piano もあるし, 指が見えるかもしれない (それだったら 8 番の方が見やすいな)。

こうやって ticket を色々購入してきたら, 段々気分が晴れてきた。 しかし, 神奈川フィルはまぁ安めの値段設定なのだが, 改めてオペラは高いなぁと思った次第である。

突然思い出したのだが, 某 TVK の某 soprano 歌手の名前が出て来る出会いのハーモニーという番組の 4th Aug. の放送で, 某が, ここのホールは坂を上っていかなくちゃ行けないので, 疲れてしまって楽しめないなどと言っていた。 失礼なやつだ。

Tuesday, 5th August, 2003.

Ticket は今日台風 10 号 (アータウ) が日本を縦断している最中にクロネコヤマトの宅急便でやって来た。 一週間ほどという割りには早く来た。

Saturday, 9th August, 2003.


新しいものは信じない。
それは新しく見えるだけなのだ。
古いもの, 当たり前のものを積み重ねてゆく中に,
本物の価値を見出してゆかなければ......

井上道義
チラシから

県立音楽堂の音楽会に行くとき, あの坂きついじゃないですか。 僕歩いたんです。 その時 「うわぁ。 みんなこの坂上って行くのか!」 って。
 あんまり坂を上って行く concert hall って外国でも日本でも無い。 「お客さんは大変だな」 と, 思いました。 お金払って坂を上らされて ... そういう minus を plus に持って行きたいと思ったわけです。 上り坂! でも, 坂は後ろを向くと下りなんだ。 そういうところを音楽会に直結させたいと思ったの。 僕自身の生き方もそうなんだけど, 髪の毛が無くなってきたらパッと剃っちゃうとかね。 (笑) 若いということは, 必ず老いるという事と同じね。 今若いということを喜ぶか, 可哀想に将来は老いるだけなのか, と思うか, それは人の勝手。
 それと, あそこの hall は古いし年配のお客さんも多いと思ったので, その人たちが若い人と出会うことで坂を何度も上った過去を思い浮かべるんじゃないかな, という, 僕の勝手な思い込みですよ。

井上道義
INTERVIEW Creator's Voice 72.
Kanagawa Arts PRESS vol. 54,
September, 2003.


当日は朝から雨である, 寒い。 あんまり恵まれてはいない。

18:30 からみなとみらいの方では, Viktoria Mullova (ヴィクトリア・ムローヴァ) と Orchestra of the Age of Enlightenment (エイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団) が Mozart program をやるのであった。 良く見ると 40 番もやる。 ぶつけたのか? --- まぁそんなわけは無いだろう。 今日もケツカッチンの客がいるに違いない。 Mullova は一寸聴いてみたい気もするが, 今回の program はあんまり食指を誘わない。 実は Mozart はそれほど好きでは無いのかも, 等と他所のコンサートの事を考えたりした。 因みに, Thursday, 6th & Monday, 3rd November にすみだトリフォニーホールでも Mozart program (内容は異なる) が行われる。

「午後からは晴れ間も見える」 という 10:00 a.m. 頃の天気予報ははずれ。 午後になっても相変わらず曇っている。 ホール前に着いたのは 12:54。 丁度良い感じだ。 13:00 に開場。 中に入ってみると, 10 列 9 番は高さ的には丁度良い感じである。 暑い。 明らかに厚着のし過ぎだった。 ホワイエでは指揮者井上道義の CD を売っており, 終演後にマエストロのサイン会をやると言っていた。 が, あんまりサインには興味がないので through.

13:30 桜井健二氏 (県立音楽堂の producer) が登場。 菊池嬢と井上氏を招き入れてプレトーク始まる (-- 13:50)。

井上氏は菊池嬢 (白い服を着ていたような...) にいきなり 「背高いっすね」 と切り出す。 二人は初共演であること。 井上氏は (もう veteran になっているので) 共演者は選ぶのだそうで, 沢山の人の噂を聞く, 演奏の録音を聴く, 顔を見る (Lincoln だったか, 顔についてなにがしかの格言を残しているではないか)。
 これに対し菊池嬢は井上氏を 「憧れの存在」 と言い (そういえば二人とも桐朋だ), 色々言ってもらったという段になって井上氏が 「男を信用しちゃ駄目だ」 と。
 世では Mozart 弾き, Chopin 弾き等々と言われる人々がいるが, 自分で弾きたいものというのと, 観客の要求するもの, 観客が聴きたいと思うものとの間には往々にして gap があると。 「75 歳になったときを楽しみに」 といったところで年齢の話に。
 菊池嬢は 26 歳だとのこと。 井上氏は 30 違うと言ったが多分 57 (というのは1946 年生まれだから)。 井上氏は 25 歳の時に Sarzburg のオケで (今日と同じ) Nr. 40 を初めて振った。 秋。 黄色の大きい落ち葉, 踏むとバサバサと音がする。 それから何度も同じ曲を振っているわけだが, 今初めて振るようにやりたいものだとのこと。
 桜井氏が (先輩としての発言が多いようだが) 井上氏は坂道のどこにいるのかと尋ねた。 すると, つるつる滑りながら 「登れな〜い」 とか言いながら助けを求めているようなものだと。 どこまで坂が続いているのか。 「坂」 というものは結局見方であって, どこにいるのかなんて言うことは主観なのだと。
 菊池嬢は今日が初横浜。 出身は群馬県前橋市。 このホールは残響が短い。 だから自分の音が聞こえて (良い所も悪いところも) 色々良く分かる。 と, このホールの話に移って, ここの客席周囲の壁は建設当時のままだが, 舞台の響板は張り替えた。 練習中 cl と bassoon は響きの関係で位置を変えてみたという裏話。 オケピは作ってあるが, 実は 21 年間開かれていないとか。
 今日は Messiaen と Mozart だが, 井上氏は現代曲が好きだとのこと。 Messiaen の今日の曲は不思議な曲で, 使っていないのに Ondes Martenot (オンド・マルトノ, 電子楽器, 1928 年開発) の音がする。 最初の部分は高揚感と言うか, 宗教的愛。 二番目の部分は人間の犯した罪。 三番目の部分は天国に行ったようなまどろんだ部分であると。
 Mozart の Nr. 21 C-dur のコンチェルトの cadenza は菊池嬢の書いたものである旨紹介された。

1. Les Offrandes Oubliées (忘れられた捧げ物) 14:05 -- 14:15

上述のように, この曲は緩急緩の三楽章で, 各々 「十字架」 「罪」  「聖体」 であるらしい。 十字架上のイエスの苦しみと人間の原罪, 聖体の秘跡が描かれているとのことである。 確かに Ondes Martenot の音がする。 Horn の音, 弦の重なり合いがそれを感じさせるのだろうか。 響きが丁寧に出されていた。 井上氏は指揮棒を持たず, 優雅な振り。

ここで pfte 設置。

2. Klavierkonzert (14:19 -- 14:50)

菊池嬢小豆色 (暗赤色) のドレスを纏って登場。 プレトークで言われたことが良く分かる。 つまり touch の違いがかなりはっきり分かる。 Mozart は怖いと多くの音楽家が口々に言うのが分かるような気がする。 Cadenza: 主題から始まらないので一寸あれっと思う。
 さんま流に言うと 「この娘は伸びるよ〜」 という感じ。
 ところで, この曲の passage の一つは J. S. Bach の Brandenburugische Konzerte Nr. 5 in D-dur BWV 1050 に似てないだろうか? (1 Mvt の209 小節目から)

アンコール (114:54 -- 14:58):
György Ligeti (リゲティ): ムジカリチッカータ (?) より (と聞こえた)。 (左手疲れそう)
(因みに, 雨だったら武満徹の予定だったそうだ)
ここで, 大きな花束が soloist に渡され, 一本の薔薇の花が (同じ人から) 指揮者に渡された。

技巧に囚われず隅々まで良く行き届いた演奏といった感じ。

《20 分休憩》
年齢層が高いのかトイレに長い行列が出来ていた。 プレトークからだと約一時間半も足っていたという所為もあるかもしれない。

3. Symphonie (15:20 -- 15:50)

I tempo やや速め (カラヤンより速いかも)。 低弦にもう少し厚みが欲しい (因みに vc 4, va 4, CB 2)。 歯切れのいい演奏。
II Mozart の緩徐楽章はどうしても眠くなる (^_^;
IV repeat があったので意外。 この楽章は何故か遅め。

1st vn の (後ろの席にいる) 渋谷氏 (女性) が死にそうになって手術に堪えて戻って来た旨指揮者から報告があり, 井上氏が (さっき貰ったものか ?) 薔薇の花を一本彼女に渡した。

アンコール: (来年上り坂コンサート vol. 4 でやるという) Mozart: Symphony Nr. 29 in A-dur, KV 202 (KV 186a)  Menuetto. 一寸 tempo が速い。 (-- 15:50)

この日は三連休の初日だった所為か, どうやら里帰りで横浜に来ているらしい人が道すがら良く見かけられた。


2003 年のコンサート鑑賞記録の目次
HOME