21 世紀の槌音

Friday, 27th August, 2004.
サントリーホール
19:00--20:37


サントリー音楽財団サマーフェスティバル 2004/Music Today 21
「21 世紀の槌音」
管弦楽 <メカニクスとバレエ>

Arthur Honegger (オネゲル, 1892/3/10--1955/11/27) Pacific 231 --- Mouvement symphonique No. 1. (パシフィック 231, 交響的運動第一番), 1923.
Sergey Sergeyevich Prokofiev (Сергей Сергеевич Прокофьев, プロコフィエフ, 1891/4/23--1953/3/5) Suite "Le pas d'acier" (組曲 「鋼鉄の歩み」), op. 41, 1926
  人々の登場 (バレエ曲第一曲), 共産党人民委員会 (第三曲), ブレスレットをつけた水夫と労働者 (第六曲), 工場 (第九曲)
Aleksandr Vail'yevich Mosolov (Мосолов, モソロフ, 1900/8/11--1973/7/12) The Foundry, orchestral episode (交響的エピソード 「鉄工場」), op. 19, 1926--28.
Igor Stravinsky (Игорь Федорович Стравинский, ストラヴィンスキー, 1882/6/22 -- 1971/4/6) Le Sacre du Printemps (春の祭典, 1913)

東京都交響楽団
飯森範親


これも又朝日新聞の懸賞で当たった。 八月はコンサートの予定が全然入っていなかったのでとても都合がよい。 Honegger だけはフランス人だが, あとは皆ロシア人。 Mosolov というのは初耳で, 最初モロゾフと読み間違えたが, 「鉄工場」 という作品は音楽之友社の 「新編 音楽中辞典」 によれば Pacific 231 と近い作品であるらしい。 1920 年代の技術礼賛を表現した意欲作だそうだ。 Prokofiev の 「鋼鉄の歩み」 というのはバレエ音楽で, ソ連の工業化を扱ったのだそうだが, フランス六人組の機械的音楽に近いと, 1929 年ソ連で上演を拒否されている。 同年 London では大成功を納めているのだそうである。 一方 「春祭」 は同じオケ, 同じホールでの今年二度目。 ゲルギーとの音の違いが楽しみである。

Wednesday, 11th August, 2004.


台風 16 号の接近で一寸心配だった天気も取り敢えず朝から曇。 夜, 帰って来るまで晴れているとは到底思えないが。

銀座線は非常に混んでいた。 17:40 頃だったからだろう。 実は月曜日に左足の第三趾の爪を風呂場の簀の子の釘に引っかけてしまってまだ完全には治っていないので, 踏まれたら嫌だなあと思っていたが, 踏まれる程は混まなかった。

駅を出るとわずかに雨が降っていた。 が, 傘をさすほどではない。

17:54 ホール前に着く。 もう既に並んでいる。 或る男がチケットが余っている人はいないかというようなことを言っているので申し出てやると, 要するに葉書を一枚持っているのだが, もう一枚チケットが欲しいのだという。 どういう理由か余りはっきりしない。 サークルかなんか何かか, 或いは音大生なのか, まぁともかくどうせ余るので一枚上げる。

ホール前の広場は 「カラヤン広場」 という名前が付いている。 ホールに向かって左手の方に, 滝のように水が流れている場所があるのだが, そこの水が 18:10 頃水量が増す。 18:10 頃に又減り, 18:20 頃又増加, 18:25 頃減少。 どうやら五分周期らしい。

18:28 頃各所の証明が灯る。 この頃オルガンが出て来る。

中にはいってみると, 結構空席がある。 P 席には完全に人がいない。 前四列は中央を除いて人がいない。 その他にも空席がちらほら。

19:04 オケ入場。 19:05 tuning.

Pacific 231. 19:06--19:13

Honegger は "mouvement symphonique" という作品を三曲書いており, この作品の他は 第二番 「ラグビー」 (1928) と無題の第三番であるそうだ。 この movement symphonique の mouvement というのは 「運動」 と 「楽章」 の意味があり, Honegger はその両方の意味を掛けている。

Honegger はこう言っているそうだ:

私はいつも機関車を情熱的に愛してきた。 私にとってそれは生き物であり, ほかの人たちが, 女性や馬を愛するように私は機関車を愛している。 私が Pacific で意図したことは, 機関車の響きの模倣ではなく, 視覚的な印象や感触的な喜びを, 音楽的構成によって表現しようとしたのである。 それは客観的な観察で始めた。 休息している巨大な machine の静かな呼吸, 動き始めようとする力, そして次第に speed を上げて行き, 遂には深夜, 時速 120km で突っ走る重量 300t の機関車がもたらす情熱的な印象。 私は主題として, Pacific 231 class の high speed な重量機関車を選んだのである。

この音楽にそのまま映像をつけた映画が二本制作されている。 一本は 1931 年ソ連のツェヌハスキ, もう一本は 1949 年フランスのジャン・ミトリの手に拠るものである。

Honegger は USA のジョージョ・アンタイルが, 自分の作品が Honegger の Pacific 231 二刺激を与えたと主張するのに反対して, 次のように述べている (「私は作曲家である」 吉田秀和訳, 原著は 1950 年のラジオ対談が元になっている)

私はあの Pacific の中で, 極めて抽象的な観念的な楽想を追求してみたのです。 つまり運動それ自身は遅れてゆくのに, リズムが数学的に増大してゆく感じを与えることです。 ... 私は作曲を終えてから, あの台を書き付けたのです。

作曲後 27 年も経過しており, 音楽界全体も抽象化の方向に進んでいた時代であるから, 文字通り受け取ってはいけないと佐野光司氏が述べている。

改めて聴いてみると, テーマが幾つもあるフーガのような感じがする。 最後は実はちゃんと解決して終わっているのだということに気付く。

金管が数名交替。

La pas d'acier 19:15--19:29

このタイトルはディアギレフが付けたものだそうだ。 歩み pas はバレエ用語の 「パ・ドゥ・ドゥ」 とか 「パ・ドゥ・トロワ」 の pas のつもりで付けたのだそうだが, 当時の人々は 「ロボットの歩み」 を意味するものと曲解した。 元のバレエは二場十一曲からなるものだそうだ。

「共産党人民委員会」 はバレエ曲の倍以上の長さに拡大されている。 「工場」 は 「共産党人民委員会」 と同じ motif を用いているが, 旋回する歯車, hammer, gear, 鉄板, 鉄棒等々の mechanical な運動の場面で, 後半を拡大して ff の coda を付け加えている。

1. マリンバの音が鋭く響く。 2. バスーンに始まる。 のどかな感じだが, 直ぐ不協和音いっぱいになるあわただしくなる。 若干テンポに乱れあり。 ティンパニが小気味良くリズムを刻む。 3. Ob と fl が美しい。 非常に古典的である。 4. 低弦から始まる。 vn の旋律が綺麗。 グロッケンが鋭い。

再び管楽器入れ替え。 鉄板らしいものが下手に登場。

The Foundry 19:33--19:36

この曲はバレエ 「鋼鉄」 の為の間奏曲として作曲されたが, 「鋼鉄」 は結局未完成で終わった。 本来がバレエの間奏曲なので短いが, 旋律は途中から horn ででるだけで, 他は旋回する機械音の暗示だけである。 後半 rhythm 形が変わるが, climax に向かって, rhythm はますます激しく, 回転音の反復が続き, 一気に終わる。

描写性が強く, 迫力がある。 ピッコロの音が鋭い。 最後の方は鉄板が激しく叩かれている。 激しさで押し切っている感じ。

《休憩 20 分》 19:38--

良く考えると, せっかく ticket 上げたのに, その分空席になっている。 せっかく上げたのに。 もうこういう申し出があってもとってやらん。 ---女性なら別 (笑)。

19:53 にチャイム。 19:57 tuning.

春祭 19:58--20:32

ゆったりとしたテンポで始まり雄大な感じ。 席がオケに近い所為か, 金管の音が強く出ているのかとても迫力がある。 第一部は 20:14 までで 30 秒ほどして第二部。 この前やったばかりである所為か非常に良くこなれている。 前でよく聞える所為か微妙なミスとかも分かってしまうが。 春祭は何度聴いてもいい。 が, 聴きすぎると慣れてしまっていけないかもしれない。

拍手は 20:37 まで続いた。

関係ないが CB と va にいい女がいた (笑)。

結局この日は降られずに済んだ。 後で聞いたら, コンサート中に東京では雨が降ったらしい。


2004 年のコンサート鑑賞記録の目次
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