第二幕

ヴェーデキント 「地霊」


第一場, 第二場, 第三場; 第四場, 第五場, 第六場, 第七場


(とても洗練されたサロン。 上手奥に入り口。 上手と下手の前にカーテン。 下手にいくつかの上に向う段がある。 後ろの壁には暖炉の上に見事なきらびやかな額縁の中にルルのピエロの衣装を着けた絵が。 下手やや上に鏡。 その前に長椅子。 上手に黒檀の書き物机。 中央に中国製のテーブルを囲んでいくつかの安楽椅子)


第一場

(ルル, シュヴァルツ。 あとでヘンリエッテ)

ルル (緑の絹製の朝の化粧着を纏って, 鏡の前にじっと立っている。 額に八の字の皺を寄せて, その上で手を動かし, 頬に触れている。 鏡から不機嫌な様子で離れて, 半分腹を立てた眼差しで, 上手へ。 何度か向きを変え, 書き物机の上の小箱を開け, 煙草に火をつける。 机の上にある本の下を探し, 一本を取り出す。 長椅子の上に横たわり, 鏡に向かって, 一寸読んだあと, 本を沈め (läßt das Buch sinken), 一人真面目になってうなずき, 読書を再び続ける)

シュヴァルツ (絵筆とパレットを手に持って, 上手前に登場。 ルルの上にかがんで額にキスをする。 下手に向かう段に登り, カーテンの所で向きを変える) エーファ!

ルル (微笑んで) 何かご用?

シュヴァルツ 今日はとてつもなく魅力的に見えるよ。

ルル (鏡に一瞥を投げて) 要求の問題だわ。

シュヴァルツ 君の髪は朝のすがすがしさを呼吸して...

ルル 水から出たのよ (Ich komme aus dem Wasser)。

シュヴァルツ (更に近寄って) 今日は恐ろしくすることがあるんだ。

ルル 自分でそう思ってるだけでしょ。

シュヴァルツ (絵筆とパレットを絨毯の上において長椅子の縁に座る) 何を読んでるんだい?

ルル (読む) 突然彼女は階段を上った所で合図の救い (Rettungusanker) を聞く

シュヴァルツ 一体全体誰がそんなに感動的に書いているんだい?

ルル (読む) それは現金書留配達人だった。

ヘンリエッテ (入り口を通って, 帽子箱を手にして, 机の上に手紙を入れたお盆を置いて) 郵便でございます。 - 女性の帽子制作者に帽子を持って行きますが。 奥様は何かご用はございますか?

ルル ないわ。

シュヴァルツ (手を振って, 遠ざける)

ヘンリエッテ (悪戯っぽく笑って退場)

シュヴァルツ 昨夜 (vergangene Nacht) 何の夢を見たの?

ルル もうそれを訊くのは二回目よ。

シュヴァルツ (立ち上がって, お盆の中の手紙を取り上げて) ニュースが恐くて堪らないんだ。 毎日世界が滅亡するんじゃないかと恐れているのさ。 (長椅子に戻って, ルルに手紙を渡して) 君へのだよ。

ルル (手紙を鼻に持って行って) コルチケッリ (Corticelli) だわ。 (懐に隠す)

シュヴァルツ (手紙にざっと目を通して) 僕のザマクヴェカテンツェリン (Samaquecatänzerin) が売れた - 五万マルクだ!

ルル 誰が書いて寄越したの?

シュヴァルツ パリのゼーデルマイヤー (Sedelmeier) だ。 僕らの結婚以来三枚目の絵だよ。 僕を殆ど幸運から救い出さないと分かった

ルル (手紙を指して) まだ来てるわね。

シュヴァルツ (婚約通知状を開いて) ご覧! (とルルに渡す)

ルル (読む) 三級事務官ハインリッヒ・リッター・フォン・ツァルニコフは娘シャルロッテ・マリー・アデライーデとルートヴィヒ・シェーン博士との婚約のご報告を謹んで申し上げます。

シュヴァルツ (別の手紙を開いて) やっとか! どんどん進行して婚約する迄が長かった。 影響力のある暴力的な人間は僕には分からないね。 本来結婚式の妨げになっていたのは何だい!!

ルル そう書いてあるの?

シュヴァルツ 招待状, ペテルスブルクの国際展示会への参加の。 - 何を描いていいのか全く分からないね。

ルル 勿論誰か適当なかわいらしいお嬢さんよ。

シュヴァルツ じゃぁモデルになってくれるかい?

ルル いいえ, 神様はご存じでしょうけど, 他の十分綺麗なお嬢さんがいらっしゃるわ。

シュヴァルツ 他のモデルに向かい合っても, 地獄のように刺激的ではあるけど, 僕の腕前じゃ十分に利益を上げられないさ。

ルル じゃぁ承知いたしましょう。 - もしかすると又横になっていたんじゃ駄目なの?

シュヴァルツ 最もいいのはアレンジを実際君の趣味に任せることなんだ。 (手紙を折り重ねて) 忘れちゃいけないのは, シェーンに何れにせよ今日お祝いを言わなくちゃいけないことだ。 (上手に行って書き物机に手紙をしまい込む)

ルル もうとっくにしてるわ。

シュヴァルツ 彼の婚約者の為に。

ルル もう一度手紙をお書きになったら?

シュヴァルツ さてではもう一仕事だ。 (絵筆とパレットを取り上げて, ルルにキスする。 下手の段を上り, カーテンの所で振り返って) エーファ!

ルル (本を置いて, 微笑んで) 何かご用?

シュヴァルツ (彼女に近付いて) 毎日まるで初めて君をようだ

ルル あんたには呆れるわ。

シュヴァルツ (膝を長椅子に埋めて, 手を愛撫して) 君には責任があるんだ。

ルル (巻き毛を撫でて可愛がって) あんたは私を無駄遣いしてるわよ。

シュヴァルツ 君は僕のものだ。 君は決して僕を迷わさない, まるで君が唯, 何ということか, かつて二三時間丁度不快にさせたかのように! 僕は最早, 君が僕のものになってから - 僕は完全ではなくなってしまった...

ルル そんなに興奮しないで。

(廊下で鐘が鳴る)

シュヴァルツ (驚いて) いまいましい。

ルル 誰も家に入れないで!

シュヴァルツ もしかしたら美術商かもしれない...

ルル もしかしたら秦の皇帝かもしれないわ。

シュヴァルツ 一寸待って (退場)

ルル (夢想する) - あんた? - あんたなの? - (目を閉じる)

シュヴァルツ (戻って来て) 乞食だった。 出兵に参加したらしい。 小銭を持ち合わせてないんだ (絵筆とパレットを取り上げて) ぐずぐずしてられない, いい加減仕事をしなくちゃ。 (下手に退場)

ルル (鏡の前の化粧台を片付け, 再び髪をなでつけ, 出ていく)

第二場


ぼやき

なんだかさっぱり分からないが, 原文は Plötzlich hörte sie einen Rettungsanker die Treppe heraufwinken. back

意味が取れてない。 Ich weiß mich vor meinem Glück kaum zu retten. 「幸福から逃げ出したいくらいだ」 ということらしい。 back

Mir ist täglich, als sähe ich dich zum allererstenmal. back

Du bist auch nie bestrickender, als wenn du nur um Gottes willen einmal ein paar Stunden recht häßlich sein solltest! back


第二場

(ルル。 シゴルヒ)

シゴルヒ (ルルに招き入れられて) あいつにゃぁ騎士道にかなったことをしてもらいたいものだな; 一寸ばかり余計に後光をな。 一寸困ってるみたいだ。 膝を悪くしてな。 見て分かるようにな。

ルル (肘掛け椅子にちゃんと座らせて) 何で彼に物乞いなんかしたの?

シゴルヒ それだから俺の 77 の齢を即ち引っ張ってきたのさ。 お前が言うように, 彼は朝絵にかかりっきりだ。

ルル 彼は十分寝てないのよ。 幾ら欲しいの?

シゴルヒ 二百だ, 現金化できる限り; 俺のためには三百だ。 何人かの訴訟人から逃げなきゃならん。

ルル (書き物机のところに行って抽斗を探す) 飽き飽きだわ!

シゴルヒ (見回す) つまり説得させられたってわけだ。 長いこと見てみたかったんだ, 今や家でどうしているのかとね。

ルル で?

シゴルヒ 人の集まる家だな。 (仰ぎ見て) 五十年前の俺の所のようだ。 のらくら生活の代わりに当時の古くて錆び付いたサーベルをまだ持ってるのさ。 悪魔のやろうがもう一度お前を成功させたんだな。 (足をこすって) 絨毯だ...

ルル (書き付け (Billett, 小切手?) を二枚渡す) 裸足で上を歩くのが一番好きなの。

シゴルヒ (ルルの肖像画を眺めて) あれはお前か?

ルル (目をパチパチさせて) 上品?

シゴルヒ 良い所ばかりのようだ。

ルル 可愛い?

シゴルヒ 一体何だ?

ルル (立ち上がって) スパー (Spaa) の万能薬 (エリキジール) よ。

シゴルヒ 役立たずさ! - 彼が飲むのか?

ルル (暖炉の横の小さな戸棚からガラス製の水差しとグラスを取り出して) まだよ。 (前に出てきて) 楽しみは色々に効くのよ! (Das Labsal wirkt so verschieden!)

シゴルヒ 効くのか? (Er schlägt aus?)

(二つのグラスを満たして) 寝付くのよ。 (Er schläft ein.)

シゴルヒ 奴がよっぱらっちまったら, 奴の (はらわた) が見えるだろうぜ。

ルル そんなことないわ (Lieber nicht)。 (シゴルヒと向かい合って座る) 今度は私に効かせてよ。

シゴルヒ 道が長くなるにつれて足も短くなった。

ルル ハーモニカ (手風琴?) は?

シゴルヒ 息切れするのさ (Hat falsche Luft), 俺の喘息みたいにね。 修理しても最早かいがないと思うよ。

(一寸彼女を叩く)

ルル (グラスを飲み干して) あんたはもうとっくにいかれちまったかと思ってたわ。

シゴルヒ ..既にいかれちまってそれで? (auf und davon?) - 俺もそう思ってたさ。 だがお天道様が隠れりゃすぐに休むっちゅうわけにはいかないのさ (wenn so erst die Sonne hinuter ist, dann läßt es einen doch noch nicht ruhen.)。 おいらは冬を当てにしてるのさ。 そしたら (咳をする) 俺の - 俺の - 俺の喘息がよく交通の便を長い間探し回って見つけられるだろうよ (Da wird mein Asthma wohl eine Fahrgelegenheit ausfindig zu machen wissen.)。

ルル (グラスを満たして) 海外にいれば忘れ去られると思ってるのね。

シゴルヒ 確かにありうる, 順序よくはいかないからだ (weil es ja nicht der Reihe nach geht.)。 (彼女の膝をなでさする) 今度はお前さんの番だ - 長いこと会ってないからな - 俺の可愛いルル。

ルル (後ろに押して, 微笑んで) 人生って分からないものね!

シゴルヒ お前さんに何が分かるっていうんだ! まだ若いじゃねぇか。

ルル あんたは私をルルって呼ぶのね。

シゴルヒ ルルじゃねぇのか? 今まで他の名で呼んだことがあったか?

ルル 大分前から (seit Menschengedenken) もうルルじゃないのよ。

シゴルヒ 別の命名法 (Benennungswise) かい?

ルル ルルは本当に時代遅れに聞こえるわ。

シゴルヒ 子供よ! 子供よ!

ルル 今はね...

シゴルヒ 原理が不変とは限らないように!

ルル そう思う?

シゴルヒ 今はなんていうんだい?

ルル エーファよ。

シゴルヒ 五十歩百歩だな!

ルル いうことを聞いているのよ (Ich höre darauf)。

シゴルヒ (見回して) お前さんのために夢見たとおりだ。 お前さんが狙ったんだろ。 どういうつもりなんだい?

ルル (香水の小瓶を自分に振りかけて) ヘリオトロープよ。

シゴルヒ お前さんよりもよい香りがするのかい?

ルル (彼に振りかけて) もうあんたは悲しむ必要は無いのよ。

シゴルヒ 一体誰がこの王様のように豪勢な贅沢を予想できただろう!

ルル 思い出すとね - - わー恐い!

シゴルヒ (彼女の膝をなでまわす) で, どうしてるんだい? 今でもフランス風かい?

ルル 横たわって眠るのよ。

シゴルヒ そりゃあ上品だ。 そんなことはどうでもいいから (Das sieht immer nach so was aus)。 それで?

ルル 背伸びするのよ - そうするとポキンと音がするの。

シゴルヒ ポキンと音がしたら?

ルル 何でそんなことに興味があるの?

シゴルヒ 何で興味があるかだって? 何で興味があるかだって? 俺は最後の審判のラッパが鳴り響くまでより好ましく生き全てのこの世のものならぬ喜びを断念するつもりなんだ, 俺のルルがこの世での不自由を去らせるようにする為なら。 何で興味があるかって? 俺の同情 (Mitgefühl) だ。 俺は我が半身といられてきっと晴れ晴れとするだろう (Ich bin ja mit meinm besseren Ich shon verklärt.)。 そうして俺はこの世というものを尚理解するのだ。

ルル 私はそうじゃないわ (Ich nicht)。

シゴルヒ お前はあまりにも気分が良すぎるのだ (Dir ist zu wolh)。

ルル (身震いして) もうろくしてるわ...

シゴルヒ 年寄りの踊る熊 (alten Tanzbär) はどうしてる?

ルル (哀調を帯びて) もう踊ってないのよ...

シゴルヒ 暇なときはそうしていたのに (Für den war es auch Zeit.)。

ルル 今はね... (言い淀む)

シゴルヒ いいなよ。 お前の心にあるがままを (wie es dir ums Herz ist), 我が子よ! 俺はお前を信じている。 お前の二つの大きな目でお前にはまだ見えないことであっても

ルル (けだもの) よ!...

シゴルヒ それだ (Daß dich der) ! - どんな獣か! - 上品な獣! - エレガントな獣! - 華麗なる獣だ! --- そしたら人を添えてやろう。 - 偏見で我々は出来上がっているんだ (fertig, 駄目なんだ)。 それと死体洗い女も (Auch mit dem gegen die Leichenwäscherin)。

ルル あんたは恐れる必要は無いわよ, もう一度洗われることなんて!

シゴルヒ 大したことじゃないさ (Macht auch nichts)。 どうせ又汚れるんだ (Man wird doch wieder schmutzig)。

ルル (彼に水をかけて) 人生の中でもう一度呼び戻したら (Es würde dich noch mal ins Leben zurückrufen)。

シゴルヒ 俺たちは腐敗物さ。

ルル もう十分よ! あたしは毎日櫛油 (Kammfett) を塗り込んで髪おしろい (Puder) を塗るのよ。

シゴルヒ 大した苦労だな, うわべを飾る男だ (Auch wohl der Mühe wert, der Zierbengel wegen)。

ルル 肌をサテンのようにするのよ。

シゴルヒ その為に唯又詰まらない奴でないかのようだ (Als wäre es deswegen nicht auch nur Dreck)

ルル どうもありがとう。 かぶりつきたいほど美しいでしょ。

シゴルヒ 俺たちもな。 大きな晩餐会を近々開こうじゃないか。 おおっぴらにな (Halten offene Tafel)。

ルル あんたのお客はそこで殆ど食いすぎないわね (Deine Gäste werden sich dabei kaum überessen)。

シゴルヒ 辛抱するんだよ, 娘よ! お前はお前の崇拝者をアルコール付けにはしまい。 美しいメルジーネ (Melsine) というのだ, 勢いを留めておく限り。 あとは? 動物園には連れていかないのだ。 (立ち上がる) 愛らしい獣は胃けいれんを起こすかも知れん。

ルル (立ち上がる) もう十分?

シゴルヒ テレビンの木を墓に植えるのがまだ残っている。 - 自分で出ていくよ (Ich finde selber hinaus)。 (退場)

ルル (彼を見送ってシェーン博士と戻ってくる)

第三場


ぼやき

○なんだかちっとも分からないので原文をそのまま参考のために書いているところが多くなりすぎた。

ein wenig mehr Nimbus. back

シゴルヒの発言だが, 以下文法的に正しい発言をしているとは思えないので, 訳が正しいかどうかも分からない。 Er brach ein wenig in dei Knie, als er mich vor sich sah. だが原文でイタリックになっているところをどう訳し分けていいか不明である。 back

Wohler als bei dem alten Tanzbär? 「踊る熊の所ではもっとご機嫌なんだろう?」 だろうか。 back

Ich hatte Vertrauen in dich, als noch nichts an dir zu sehen war als deine zwei großen Augen. 多分 als が分かっていないんだと思うが。 back

Dann will ich mich man beisetzen lassen. beisetzen には 「埋葬する」 という意味があるのだが, 「人間と共に埋葬してやろう」? 「人間性を埋葬してやろう」? back

und dann kommt Puder darauf. この darauf の da は何を指しているのか? aufkommen なのか? back


第三場

(ルル シェーン)

シェーン ここであなたのお父さんは何をしてるんだい?

ルル 一体どうしたの?

シェーン 僕があなたの夫だったら, あんな奴には敷居をまたがせないね。

ルル 遠慮しないで (近称で) 「お前 (du)」 って言っていいのよ; 彼はここにはいないから。

シェーン その名誉に感謝する。

ルル 分からないわ。

シェーン そうだろうな。 (椅子を差し出して) その事について即ち良くあなたと話をしないといけない。

ルル (不安そうに座って) だったら何故昨日言ってくれなかったの?

シェーン いや, 今は昨日のことはいいから。 もう二年前にあなたに言っているんだから。

(神経質に) ああそう。 ふむ。

シェーン あなたにお願いするが, あなたにはうちへの訪問をやめて欲しい。

ルル あなたには万能薬 (エリキジール) を... (Daruf ich Ihnen ein Elixier)

シェーン いや, 万能薬はいい。 分かったかい?

ルル (首を振る)

シェーン よし。 あなたは選択するんだ。 - あなたは僕に極端な選択を強いている - あなたの態度にあわせた態度を取るか...

ルル 或いは?

シェーン 或いは - あなたが私に強いるのは - 私があなたの態度に対して責任のあるその性格に私がなるかだ。

ルル どう考えたらいいの?

シェーン あなたを自分で見張っておくようにとあなたの夫に頼んでおこう。

ルル (立ち上がって, 下手の段を登る)

シェーン 何処に行こうというんだ?

ルル (カーテンの下に呼びかける) ヴァルター!

シェーン (飛び上がって) 気でも狂ったのか!?

ルル (振り向いて) ああ (Aha) !

シェーン お前を社交界で高めるために, 私はとても超人的な努力をした。 お前の名前は私の親密さよりも十倍も自慢することが出来るのに...

ルル (段を降りてきて, シェーンの馘に腕を回して) じゃぁ今尚恐れてるのね, あなたの望みは果たされたのに。

シェーン ふざけないで! 望みが果たされたって? 僕は婚約したんだ, ついにね! まだ僕には望みがあるんだ, 僕の花嫁を綺麗な家に導くのだという (meine Braut unter ein reines Dach zu führen)。

ルル (座って) 二年の間に恍惚が花咲いたものね。

シェーン 彼女の頭には最早真面目には物事が見えないのか。

ルル 彼女は先ず完全な女 (Weib) だわ。 私達はお互いにあなたが適当だと思える所で会えるわ。

シェーン 僕らはこれからお互いに何処でも会わないんだ。 あなたの夫のいる所でならばいいが (es sei denn in Gesellschaft Ihres Mannes) !

ルル 自分で言ってることが分かってないようね。

シェーン じゃぁ彼にそれを分からせなきゃならん。 彼を呼びさえすればいい! 彼の君との結婚を通じて, それを通じて, 僕が彼に何を与えたか, 彼は僕の友人になったんだから。

ルル (立ち上がって) 私の友人でもあるわ (Meiner auch)。

シェーン だったら僕が頭の所を刀で切り落とすまでだ (Dann werde ich mir das Schwert üver dem Kopf herunterschneiden)。

ルル あなたは私をそう鎖で繋いだわ。 私はでも私の幸運をあなたのおかげで手に入れられた。 あなたは先ず又可愛くて若い女性を手に入れて多くの友達を手に入れようっていうんだわ。

シェーン お前はお前を基準にして女性を全て判定をしようというのか! - 彼は子供だ。 お前の浮気の手がかりがもうとっくについていたらなぁ。

ルル 私はもう願ったりはしないわ! 彼はそしたら彼の子供靴をついに脱ぐわよ。 結婚契約が彼の手中にあることを彼は自慢してるわ (Er pocht darauf, daß er den Heiratskontrakt in der Tasche hat)。 苦労に持ちこたえているわ。 今や家にいるようなふりをして成り行きに任せられるのよ (Jetzt kann man sich geben und sicher gehen lassen, wie zu Hause)。 彼は子供じゃないわ。 平凡な人なのよ。 彼には教育が無いのよ。 何も見えないの。 私を見ていないし自分も見えないのよ。 彼は盲目, 盲目, 盲目なのよ...

シェーン (半分独り言で) 彼の目が開きさえすれば!!

ルル あなたが彼の目を開けばいいじゃないの! 私は落ちぶれていくわ。 彼は私を放っておくのよ。 彼は私のことを知らないわ。 彼にとって私は何なの? 彼は私を僕の宝 (Schätzchen) とか小悪魔ちゃんとか呼ぶわ。 各々のピアノの女教師毎に言うのと同じようによ。 何も求めてこないの。 何もかも彼にとっては都合がいいのよ。 彼は生涯で欲望を感じたことなんて一度もないから女と交わったことなんてないんだわ。

シェーン そうだったのか!

ルル 彼がそう公言してるわ。

シェーン 十四年目の有象無象 (Krethi und Plethi) の肖像画を描いて以来の誰が。

ルル 彼は女性が恐いんですって。 彼は快感に震えるのよ。 - でも彼は私を怖がらないのよ!

シェーン 一体どの位の数の女の子をお前の場合は神が知るように如何に幸いと称えることか! (Wie manches Mädchen würde sich in deinem Fall Gott Weiß wie selig preisen!)

ルル (愛情深く請う) 彼にするように言ってよ (verführen Sie ihn)。 良く分かってるんでしょう。 彼を悪い世界に引き入れてやってよ。 良く知っているんだし。 私は彼にとって女以外の何ものでもなくってやっぱり女なのよ (Ich bin ihm nichts als Weib und wieder Weib)。 私は笑い者だわ。 彼には私が自慢なのよ。 彼には違いが分からないの。 昼も夜も, 彼を励ます (揺り動かす? aufrütteln) ように知恵を絞った (denke mir das Hirn aus) わ。 絶望してカンカンも踊ったわ。 彼はあくびをして何かこう猥褻で他愛も無い話をするのよ (gähnt und faselt etwas von obszönität)。

シェーン ばかばかしい。 彼は芸術家なんだぜ。

ルル せめてその存在だけでも信じてもらえたら。

シェーン 大事なのはそこだ。

ルル 私がモデルとして立てれば。 彼は有名な男であると信じてるのよ。

シェーン 我々が彼をそういう風にしたんだ!

ルル 彼は何でも信じるわ! 彼は泥棒みたいに疑い深くって自分に嘘をつこうとするのよ, 他人が尊敬の念を失うような。 私達が習っていた頃, 私は彼に信じ込ませようとしたわ, まだ一度も愛したことはないって...

シェーン (安楽椅子にどっかりと腰を下ろす)

ルル 彼は以前は私をあばずれ女 (verworfenes Geschöpf) と思っていたこともあったのよ!

シェーン - 正当な恋愛関係の代わりに一体全体どんな過度の条件を求めたんだか! (Du stellst weiß Gott was für exorbitante Anforderungen an legitime Verhältnisse!)

ルル 私は過度の条件を求めたりなんかしてないわ。 そればかりか今でも屡々ゴルのことを夢に見るのよ。

シェーン ともかくそれは普通じゃないね。 (Der war allerdings nicht banal.)

ルル 彼はそこで, まるで死んでしまってはいないかのよう (als wär’ er nie fortgewesen) だったわ。 ただ出掛けていっちゃっただけみたい。 彼は私には悪くないわ。 彼はとっても悲しんでいるの。 とっても臆病で, まるで警察の許可がないみたいだった。 普段は一緒にいるとのんびりしたわ。 唯彼は乗り越えられなかったのよ, それ以来沢山のお金を私が窓から投げ捨てるように使うってことに...

シェーン 鞭を懐かしがっているんだね!

ルル 多分そうね。 私はもう踊らないわ。

お前が彼をそうなるように育てれば。 (Erzieh ihn dir dazu)

絶望的だわ! (Das wäre verlorene Müh’!)

シェーン 百人の女のうち九十人は夫を自分で育てるんだ。 (Unter hundert Frauen sind neunzig, die sich ihre Männer erziehne.)

ルル 彼は私を愛しているのよ。

シェーン そりゃぁ勿論宿命的だ (Das ist freilich fatal)。

ルル 彼は私を愛しているのよ...

シェーン それは埋められない溝だ。

ルル 彼は私を知らないのに愛してるのよ! ほぼ正確に私の不実を思い浮かべるだけで, 私の首に石を結びつけて最も深い海に沈めるわ!

シェーン (立ち上がって) 我々は破滅だ!

ルル お気の済むように。

シェーン 私はお前を結婚させてやったのだ。 二度も結婚させてやったのだ。 お前は贅沢な生活をした。 私はお前の夫に地位さえも与えてやった。 お前がそれに満足せず, 彼がそんこことを陰でほくそ笑んでも, 私はそれに見合う要求をしなかった。 そして, - 私をそれに関係させないでくれ!

ルル (きっぱりとした口調で) もしもこの世の中の誰かのものだとしたら私はあなたのものよ。 あなたがいなかったら - 私がどこにいるか言いたくないわ。 あなたが私の手を取って, 私に食べさせて, 服を着せたのよ, あなたの時計を盗もうとしたときに。 忘れるとでも思ってるの? 二回に一回はお巡りさんに呼ばれて。 私を学校に行かせて生き方を教えてくれたわ。 あなた以外の他の誰が前に私を気にかけてくれたというの? 私は踊ってモデルになってそうして生計が立てられて嬉しかったわ。 指令を受けたかのように愛するなんて, そんなことできないわ! (Aber auf Kommando lieben, das kann ich nicht!)

シェーン (声を上げて) 放っておいてくれったら! (Lasß mich aus dem Spiel!) お前の好きなようにするさ。 私はスキャンダルを起こしたくないんだ (Ich komme nicht, um Skandal zu machen)。 スキャンダルは厄介払いしたいんだ (Ich komme, um mir den Skandal vom Halse zu schaffen)。 私の結婚には十分な犠牲を払っているんだ! おまえの年くらいの女がこれ以上は望めないような健康な若い男にはついには満足するだろうと思ったんだ。 もしもお前が私に義務を負ってるというなら, 三度目には邪魔しないで(dann wirf dich mir nicht zum drittenmal in den Weg) くれ! 私の一部 (宿命) を安全なところに移すまで, 尚長く待たねばならないのか? 二年間の許可を得た完全な成功が駄目になるような危険を冒せと言うのか? おまえが結婚していることが私に何の助けになるというのだ, もし人が日に毎時間私の所に出たり入ったりするのを見たら? 一体何でゴル博士はせめてあと一年生きていてくれなかったんだ! そうしたらお前を安全なところにしまっておけたのに。 とっくにあの人を家に入れることが出来たのに!

ルル そんなことをするつもりだったの! あの子はあなたの神経をいらだたせるでしょうよ。 あの子はあなたにとって清純すぎるわ。 あの子はしつけがよすぎるわ。 私があなたの結婚に反対ですって! あなたは思い違いをしてるわ, もしも目の前に迫ったあなたの結婚で軽蔑を私に示そうとしているんなら!

シェーン 軽蔑?! - 私はあの子には既に正しい生き方を与えるつもりだ! もしも何か軽蔑すべきものがるとすれば, それはお前の陰謀だ!

ルル (笑って) 私があの子をねたんでいるって? - そんなことは思いつきもしないわ...

シェーン じゃぁどうしてあの子供 (das Kind) なんて言うんだ! あの子はお前より一年まるまるも違わないぞ。 私を私が尚生きられるように自由に生きさせてくれ! (Laß mir meine Freiheit, zu leben, was ich noch zu leben habe!) あの子が語感を真っ直ぐに, 望むがままに育っていますように...

第四場


ぼやき

○ここの台詞は長いのが多いなぁ...。 しかし, Alban Berg の Lulu はここのところを大分 cut してるけど, 内容的に重要なのにねぇ。 それで大分 Lulu の感じが違っちゃっているんだよね。

Wie stellen Sie sich das vor? 「まぁ考えてもご覧なさい」? back

Was fürchten Sie denn jetzt noch, wo Sie am Ziel Ihrer Wünsche sind. back

Jemand, der seit senem vierzehnten Jahr Krethi und Plethi porträtiert. back


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