第三幕

ヴェーデキント 「地霊」


第一場, 第二場, 第三場, 第四場, 第五場, 第六場, 第七場, 第八場, 第九場, 第十場


劇場の楽屋 (Garderobe), 赤い布が貼ってある。 下手奥に扉。 上手奥には屏風 (spanische Wand)。 中央には, 狭い方の側に観客に向かって, 長い机, その上に舞踏衣裳が置いてある。上手下手に机と各々肘掛け椅子。 下手手前に肘掛け椅子と小さい机 (Tischchen)。 上手手前には背の高い鏡, それと並んで高く, とても幅の広い, 古風な (altmodischer) 安楽椅子。 鏡の前に西洋双六 (ein Puff, backgammon), 化粧小箱 (Schminkschatulle) 等々。 等々。


第一場

(ルル, アルヴァ, その後すぐシェーン。)

アルヴァ (下手手前に, シャンパンと赤ワインで満たされたグラス) 舞台で働いてから, 全く羽目を外した社会 (kein Publikum so außer Rand und Band) を見ていないよ。

ルル (そっと unsichtbar 屏風の後ろで) 赤ワインはあんまりいらないわ。 - 今日彼は私に会いに来たかしら? (Sieht er mich heute?)

アルヴァ 父のことかい?

ルル ええ。

アルヴァ 父が劇場に来るかどうかなんて, 知るもんか。

ルル どうやら決して私には会いに来ないらしいわね。

アルヴァ あんまり暇がないんだよ。

ルル 彼の婚約者が彼を利用してるのね。 (Seine Braut nimmt ihn in Anspruch.)

アルヴァ 投機さ。 じっとしていられないんだよ (Er gönnt sich kene Ruhe) -

(そこにシェーンが入ってくる。)

お父さん? 丁度お父さんのことを話していたんだよ。

ルル そこにいるの?

シェーン 着替えたのかい?

ルル (屏風を無視して über die spanische Wand wegsehend, シェーンに) すべての新聞に書いていたわね, 私がステージに足を踏み入れると精神の豊かなダンサーだって (ich sei die geistvollste Tänzerin, die je die Bühne betreten), 私は第二のタリオーニ (1084 -- 1884 有名なバレリーナ, ヨハン・ガイガー原画, ヘル版画の La Sylphide でも有名) でそれを自覚している (was weiß ich) って, 人を説得するだけ十分に精神が豊かだって! (Sie finden mich nicht einmal geistvoll genug, um sich davon zu überzeugen!)

シェーン 書くことが沢山あってね。 僕の言うとおりだって分かるだろう。 殆ど余裕がないんだよ。 - もう少し前舞台をするべきだね! (Du mußt etwas mehr im Proszenium halten!)

ルル 先ず照明に慣れなきゃ。

アルヴァ 厳格に役目をつかんでいるね。

シェーン (アルヴァに) お前はお前の俳優をもっと利用し尽くしたらどうだ! (Du mußt deine Darsteller besser ausnutzen!) お前はまだ十分に技術という物が分かっていない (Du verstehst dich noch nicht genug auf die Technik)。 (ルルに) 今は何をやってるんだい? (Als was kommst du jetzt?)

ルル 花売り娘 (Blumenmädchen) よ。

シェーン (アルヴァに) タイツを着て?

アルヴァ いいえ。 足首までのワンピース (fußfreiem Kleid) ですよ。
シェーン 象徴主義なんかと関わり合いになってはいかんぞ! (Du hättest dich lieber nicht mit dem Symbolismus einlassen sollen!)

アルヴァ 足の上にはダンサーがいるだけですよ。(Ich sehe Tänzerin auf die Füße)

シェーン それは観客の問題だ! (Es kommt darauf an, worauf das Publikum sieht!) 彼女にとっては上辺だけお前の象徴主義的なハンスヴルシュチアーデンのありがたみなんて必要ないんだ。(Eine Erscheinung wie sie hat deine symbolistischen Hanswurstiaden gottlob nicht nötig.)

アルヴァ 観客はまるで飽き飽きしている様には見えませんよ! (Das Publikum sieht nicht danach aus, als ob es sich langweilte!)

シェーン 当然だ! 六ヶ月の間新聞業界にいて成功を目指して頑張ってきたからな。 - ここの貴公子 (Prinz) は誰だい?

アルヴァ 誰もいませんよ。(Es war niemand hier.)

シェーン 誰がダンサーが二幕中ずっとレインコートを着て登場させるんだ? (Wer wird eine Tänzerin zwei Akte hindurch in Retenmänteln auftreten lassen!)

アルヴァ それで誰が貴公子なんです?

シェーン 尚我々が会うのは? (Wir sehen uns noch?)

アルヴァ あなただけで? (Bist du allein?)

シェーン 知り合いとね - ペーターの所で? (Bei Peters?)

アルヴァ 十二時に?

シェーン 十二時に。(退場)

ルル いつか彼が来てくれるという望みがなくなったわ!

アルヴァ greisgrämigen な (年寄りじみた?) あら探しに惑わされないように。 最後のナンバーが始まる前に能力を無駄遣いしないようにだけ気をつけておくれ。

ルル (屏風の後ろへ歩み出る。 アンティークな足の見える, 袖無しの, 赤い縫い目 (縁?) のワンピースを着て, 髪には色とりどりの花冠を付け, 手にはいっぱいの花々を入れたバスケットを持っている。)

ルル 彼は全く気付いてないみたいだわ。 どんなに上手くあなたが俳優を利用し尽くしているかって事を!

アルヴァ ところが第一幕では太陽と月と星々に打たれる (verpaffen) だろう (warden)。

ルル (グラスを唇に当てて) 段々本性を現してきたわね (Sie enthüllen mich gradatim  [English]).

アルヴァ ところが僕はあなたが衣装を着替えるのを忘れてることに気付いている。

ルル アルハンブラカフェの前で私が花を売っていたら, もう早速最初の夜に錠前とかんぬきの後ろに置かれたわ。

アルヴァ 何だって?! まだ子供だったじゃないか!

ルル あなたはもう私がどんな格好で最初にあなたたちの部屋に入ったのか覚えている? (Wissen Sie noch, wie ich zum erstenmal in Ihr Zimmer trat?)

アルヴァ (うなずいて) 黒いビロードと紺色のワンピースに身を包んでいた。

ルル 私を隠してどこにいたのかは知らなかったのね。(Man mußte mich verstecken und wußte nicht, wo.)

アルヴァ 母はその時既に病床に就いて二年だった...。

ルル あなたは演劇ごっこをして (spielten Theater) いて私に訊いたわ, 共演しないかって。

アルヴァ 覚えてるさ! 僕らは演劇ごっこをした!

ルル あなたが人形をあちこち押しやっているのがまだ目に浮かぶわ。

アルヴァ 一目ではっきりどんな状況にあるかが見て取れたひどい思い出さ。(Es war mir noch lange die entsetzlichste Erinnerung, wie ich mit einemmal klar in die Verhältnisse sah.)

ルル それで氷のような目つきでじろじろ見ていたのね。(Da wurden Sie eisig gemessen gegen mich.)

アルヴァ ああ, 神よ - 僕はあなたが立っていることに僕よりも何と言うか果てしない高さを見ていたんだ (ich sah etwas so unendlich hoch über mir Stehendes in Ihnen)。 もしかすると母に対するものよりももっと高い尊敬をあなたに抱いていたのかもしれない 考えてもご覧なさい, 僕の母が死んだ時 - 僕が十七歳だった -, 父の前に現れて, 直ちに父の妻にするか若しくは僕らが決闘するように勧められた事を (da trat ich vor meinen Vater und forderte ihn auf, daß er Sie augenblicklich zu seiner Frau mache, sonst müßten wir uns duellieren)。

ルル その時私にもそんなことを言っていたわ。

アルヴァ 大きくなってから, 僕はあなたに同情した。 父は僕のことを決して理解しなかった。 伯爵令嬢との結婚を妨げるように僕に説得するという小さな駆け引きを共に空想していたのだ。

ルル それじゃ相変わらず無邪気に仰ぎ見てるの? (Blickt sie denn immer noch so unschuldig in die Welt hinaus?)

アルヴァ あなたは彼を愛してるんだ; 僕はそう確信してる。 家族は皆止めさせようと動き出した。 彼のためにこの世を大きな犠牲になったとは僕は信じていない (Ich glaube nicht, daß ihr ein Opfer auf dieser Welt zu groß ware um seinentwillen.)。

ルル (彼に手に持ったグラスを差し出して) もっと飲ませてよ (Noch etwas, bitte)。

アルヴァ (ついで) もう飲みすぎですよ。

ルル 彼は私に信じることを教えたのよ (Er soll an meinen Erfolg glauben lernen)! 彼は芸術を信じていないわ。新聞しか信じていないのよ。

アルヴァ 何も信じてはいませんよ。

ルル 彼は私を劇場に連れてきたわ。 ひょっとしたら誰か十分な金持ちの人と知り合いになって私を結婚させるつもりだったのかもしれない。

アルヴァ 全くそうだ! 何を悲しむことがあるんだ (Was Braucht uns das zu kümmern)!

ルル 心から億万長者と踊れたら嬉しいわ。 (Mich soll es freuen, wenn ich mich in das Herz eines Millinärs hineintanzen kann.)

アルヴァ 神よ妨げたまえ, 人があなたを我々から取り去ってしまうことから! (Gott verhüte, daß man Sie uns entführt!)

ルル でもそれで作曲したんでしょ? (Sie haben doch die Musik dazu komponiert.)

アルヴァ ご存じのようにあなたの為に書くことが常に僕の望みだったのでね。

ルル 舞台の為に作曲した事なんてないわ。(Ich bin aber gar nicht für nicht die Bühne geschaffen.)

アルヴァ ダンサーとして生まれついたんだね。

ルル あなたの人生のように, あなたの作品を何でもっと面白く書かないの? (Warum schreiben Sie Ihre Stück denn nicht wenigstens so interessant, wie das Leben ist?)

アルヴァ 人を誰も信用できないからですよ。

ルル 舞台で演じるときに, 私は舞台演劇についてあまり良く知らないとしたら, 何が私に起こるかしら? (Wenn ich mich nicht besser aufs Theaterspielen verstände, als man auf der Bühne spielt, was hätte aus mir warden wollen?)

アルヴァ ありとあらゆる不可能なことについてあなたの役を授けたんだ。(Ich habe Ihre Rolle doch mit allen erdenklichen Unmöglichkeiten ausgestattet.)

ルル その手には乗らないわ。(Mit solchem Hokuspokus lockt man in der Wirklichkeit noch keinen Hund vom Ofen.)

アルヴァ ものすごく興奮した民衆の身になって考えてみるだけで十分だ。(Mir ist es genug, daß sich das Publikum in die Wahnsinnigste Aufregung versetzt siht.)

ルル ものすごく興奮した民衆の身になって考えてみて欲しいわ! (Ich möchte mich aber gern selbst in die wahnsinnigste Aufregung versetzt sehen!) (飲む)

アルヴァ それでそんなに欠けてはいないように見えるんだ。(Dazu scheint Ihnen auch nicht viel mehr zu fehlen.)

ルル どうして不思議に思わないの, 私の態度がより高い目標に向かっているかもしれないって! (Wie können Sie sich darüber wundern, da mein Auftreten doch einen höheren Zweck hat!) 既に幾つか完全に真面目に分割されてるわ。(Es gehen schon einige da unten ganz ernstlich mit sich zu Rate.) - 私は見なくってもそれを感じるのよ。

アルヴァ どのようにさ?

ルル 誰も他のもののようには感じないわ (Keiner ahnt was vom andern)。 皆が皆不幸な犠牲者だと思うのよ。

アルヴァ どういう風に感じるの?

ルル 氷のように冷たいにわか雨が身体に降り注ぐような感じよ。

アルヴァ 信じられないね... (電気式の呼び鈴が扉の上で鳴る)

ルル 私のショール (Tuch)... 前舞台に寄りかかっているわ (Ich werde mich im Proszenium halten)!

アルヴァ (幅広のショール (Schal) を肩に掛けて) はいどうぞ。

ルル 恥知らずな宣伝を恐れるのをもう止めるべきなのよ。

アルヴァ 何と自制を保っていることだ! (Wahren Sie Ihre Selbstbeherrschung!)

ルル 神よ, 私が身体から出る知性の最後の火花を外に出して踊れますように。 (Gebe Gott, daß ich einem den letzten Funken Verstand zum Kopf hinaustanze.) (退場)


第二場


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