五次方程式の解の公式が存在しないことの Abel の証明の概略

Monday, 4th November, 2002.


ここで Abel の証明の概略を述べておく。

与えられた方程式を

ax5+bx4+cx3+dx2+ex+f = 0, (a, b, c, d, e, f ∈ C, a ≠ 0)

とし, (古典) 代数学の基本定理によってその存在が保証されたこの方程式の解を α1, α2, α3, α4, α5 とする。

基礎体 K は取り敢えず Q に与えられた方程式の係数を添加したもの (勿論それが Q であることもありうる) とし, 与えられた方程式の分解体を L としよう。 QL に拡大するのに与えられた方程式の解 (根) 以外のものを添加する必要がないこと, 根を求める過程でもその必要がないことは (証明できるが) 明らかとしておく。

基礎体に先ず添加するものとして判別式の平方根

△ = √(((α1 - α2)(α1 - α3)(α1 - α4)(α1 - α5)(α2 - α3)(α2 - α4)(α2 - α5)(α3 - α4)(α3 - α5)(α4 - α5))2)

を考える。 これは解の対称式であるから, その基本対称式である係数の有理式で書けることが分かっている。 この判別式の平方根の作り方から, これは偶置換で不変である。 従って K(△) は解 αi の偶置換で不変であるが, 逆に K 係数の解 αi の有理式 f で偶置換で不変であるものは

f = (f + f(1 2))/2 + (f - f(1 2))/(2△)・△

となることから, K(△) に入っている。

さて K(△) に A ∈ K の p 乗根 β = p√A を添加してみよう。

βp = A の両辺に解 αi の偶置換 σ_1 を作用させると βσ_1 は相変わらず A の p 乗根であるから, 1 の原始 p 乗根を ζp とすると βσ_1 = ζpiβ がある i で成立することが分かる。 簡単の為に ρ(σ_1) = ζpi と書くことにすると βσ_1 = ρ(σ_1)β である。同様にして, 解 αi の偶置換 σ_2 を作用させることも考えると ρ(σ_1)ρ(σ_2) = ζpi ζpk = ζpi+k = ρ(σ_1σ_2) であり, 従って (βσ_1)σ_2 = βσ_1σ_2 でもある。

さて 偶置換 (1 2 3) と τ = (1 2)(4 5) について (1 2 3)τ = τ(1 2 3)2 であることが分かる (実際左辺では 1→2→3, 2→1→2, 3→1, 4→5, 5→4 つまり (1 3)(4 5) に等しい。 右辺では 1→2→3, 2→3→1→2, 3→1→2→1, 4→5, 5→4 でやはり (1 3)(4 5) に等しい)。 だから上記の ρ で ρ((1 2 3)τ) = ρ(τ(1 2 3)2) だから ρ((1 2 3)) = ρ((1 2 3))2 従って ρ((1 2 3)) = 1. 五個の元の置換で偶置換であるものは (1 2 3), (1 2)(3 4) = (1 2 3)(2 3 4), (1 2 3 4 5) = (1 2 3)(3 4 5) の形 (文字の入れ替えを含む) であることが分かっているので, 実は ρ = 1 しかない。

ということは実は β 自体も解 αi の偶置換で不変ということで, 実は K(△) が実質的に拡大されていないということを示している。

しかし K(△) では一般には元の方程式は分解しない (つまり解 αiK(△) の要素にはならない) 為, 五次 (以上の) 方程式の解の公式は作れないということになるのである。


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