五次方程式の代数的解法

Sunday, 2nd April, 2000.
Friday, 18th August, 2000.
Monday, 15th October, 2002.

世の中の人は数学で言う「不可能」という意味が良く分かっていないらしくて, 屡々(しばしば)
ガロア理論によって解法不可能とされる 五次方程式の代数的一般解法。
などという。

因みに, 五次方程式に「解の公式」が存在しないことを証明したのは, Galois ではなくて Paolo Ruffini (1765--1822), Niels Henrik Abel (5th August, 1802--6th April, 1829) である。

先ず最初に「代数的解法」とは何のことを言っているのかを明らかにしなければならない。 簡単の為に五次方程式の場合のみを示す。

一般の五次方程式: ax5+bx4+cx3+dx2+ex+f = 0, (a, b, c, d, e, f は複素数で, a は 0 ではない) に()いて, 解 (或いは根) x を係数 a, b, c, d, e, f の間の四則演算と冪根(べきこん)(この場合5乗根まで)を (有限回) 用いて求めることを 「代数的解法 algebraic solution」という。 勿論特別な形の方程式ではいけない。どんな方程式でも解けなくてはいけない。それから, ちゃんとした解の公式, 即ち systematic な algorithm として表されていなければいけない。上記で「有限回」と断っているのは, 無限回使って良ければ, 超越函数も使えるので, いくらでも解の公式が作れるからである (唯その場合, 実際問題としては解が何であるか良く分からない。実際 theta 函数を用いた方法が知られているそうである)。

解の公式は, 三次方程式位からもうあまり簡単ではない。 因みに二次方程式の解法に関しては 12 c のインド人, バースカラが実数の場合について完全に求めているそうである。 三次方程式の解の公式は Girolamo Cardano, 1501--76 (実はフォンタナ Nicolò Fontana, 1499 (1500 ?)--15th December, 1557 (タルタリア Tartaglia) であるという有名な醜聞(スキャンダル)がある) によって得られている。(実は最も本質的な場合 x3 + ax = b の解法はフェッロ (Scipione dal Ferro, 6th Febrary 1465--5th November 1465) によるそうである。) 四次方程式は Cardano の弟子の Ludovico Ferrari (1522--65) によって得られた。あまり覚え易くない公式である。

Galois 理論自体は深遠で, 良く分かっていない私がいいかげんに解説すると, 誤る恐れがあるのであまり深入りしないが, (例えば) 有理数に係数を付け加えた世界 (それを(たい) という) に方程式の解も付け加えた体は一般にはもとの体よりは大きな体になっている。その体の大きさを, 付け加えた解同士の置き換え (置換群という) で測ろうというのが Galois 理論の考えの元である。

そこで詳細に四則演算と冪根(べきこん)の付け加えだけの操作でどのように体が拡大していくか, その時の解の置換群 (可解群という) はどうなっているかを調べていくと, 五次方程式の解の付け加えによって生じる体の拡大は, そういう方法では得られないものになり, 解の置換群は可解群にはなっていないことが証明できる。

ここの所をちゃんと述べようと思うとどうしても 「群」 「体」 等のことをきちんと扱わなければならないので, ここではやらない。下記の参考文献を参照して良く勉強して欲しい。

尚, Galois 理論は, 何も五次以上の代数方程式は代数的解法がないということを証明するだけのものではない。Galois 理論は更にどういう方程式なら解けるかという疑問にも答えてくれる。どうやるのかについても, 下記の参考文献を参照してください。


五次以上の代数方程式の代数的でない解法に関しても色々研究されている。

五次方程式に関しては, 楕円 modular 函数というものを用いると解が求まるということを発見したのは Charles Hermite (エルミート, 24th December 1822--14th January 1901) と Leopold Kronecker (クロネッカー, 7th December 1823--29th December 1891) である。

続いて Camille Jordan (ジョルダン, 1838--1922) は modular 函数を用いれば高次の代数方程式が解けるということを示した。J. Thomae が Beitrag zur Bestimmung von θ(0, 0, ..., 0) durch die Klassenmoduln algebraischer Functionen, J. für die reine und angew. Math., BD. 71 (1870) で発見した方法を 1980 年代の初めになって梅村浩は, theta constant という theta 函数から得られる量を用いれば, n 次代数方程式の解の具体的な表示が得られることを示したそうである。 この方法は D. Mumford, Tata Lectures on Theta II, Birkhäuser, 1984, の III C に出ている。 5 次方程式の場合の明示的記述は加藤圭の修士論文 「有限群の作用を持つ Riemann 面の周期行列について」 に書かれているそうである。

Wolfram の site の中に Quintic Equation という page があって, ここに良い解説 (英語だが) が出ているのでご覧ください。


五次方程式の冪根による解法が不可能であることを完全な厳密さを持って証明するのはそれほど難しいことではないであろう。

Carl Friedlich Gauss
学位論文
あらゆる一変数整有理的代数函数は一次若しくは二次の実素因子に分解されるという定理の新しい証明,
1797, 第 9 条

四次を超える方程式の一般的解法, 言い換えると, 混合方程式の純粋方程式への還元を見出そうとする卓越した幾何学者たちのあらゆる努力は, これまでの所常に不首尾に終わっていた。 そうしてこの問題は, 今日の解析学の力を超えているというよりは, むしろある不可能な事柄を提示しているのである。

Carl Friedlich Gauss
整数論, 1801,
第 7 章 円周等分方程式論


参考文献:
岩波数学辞典, 第三版, 「55 ガロア理論」「242 代数方程式」「243 代数方程式の数値解法」「公式 1」の各項。
B.L. van der Waerden Algebra, Spinger-Verlag. vol. 2, Chapt. 8 Galois Theory.
秋月康夫, 鈴木道夫: 代数 I, 岩波全書, 第 4 章 体の理論。
Emil Artin Galois Theory, 邦訳: アルティン: ガロア理論入門, 寺田文行訳, 東京図書。
藤崎源次郎: 体とガロア理論, 岩波講座基礎数学 14。
L. インフェルト, 市井三郎訳: ガロアの生涯, 神々のめでし人, 日本評論社
D. Mumford, The Lectures on Theta II, Birkhäuser, 1984.
特集「アーベル生誕 200 年」
数学セミナー (10), 2002.

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