Jenůfa --- Její Pastorkyňa

Friday, 3rd December, 2004.
東京文化会館
18:30 -- 21:31


Leoš Janáček (レオシュ・ヤナーチェク, 3rd July, 1854 -- 12th August, 1928)
Jenůfa (イェヌーファ) --- Její Pastorkyňa (彼女の養女)
Opera in three acts in German (1908 年ブルノ版 フォルクマール・ライメルトとカール・リハ訳)

台本: ガブリエラ・プライソーヴァ, レオシュ・ヤナーチェク
作曲: レオシュ・ヤナーチェク

Grandmother Buryja (ブリヤ家の女主人): 与田朝子, mezzo-soprano
Laca Klemen (ラツァ・クレメニュ): 羽山晃生, tonor
Stewa Buryja (シュテヴァ・ブリヤ): 高橋淳, tonor
Kostelnicka Buryja (コステルニチカ・ブリヤ): 渡辺美佐子, soprano
Jenůfa (イェヌーファ): 津山惠, soprano.
Foreman (粉屋の番頭): 峰茂樹, bass
The Mayor (村長): 久保和範, bass-baritone
Mayor's wife: 押見朋子, mezzo-soprano
Karolka (カロルカ): 斉藤京子, soprano
Maid (Herdswoman, 羊飼いの女): 木村圭子, mezzo-soprano
Barena (バレナ): 二見忍, soprano
Jana (ヤナ): 菊地美奈, soprano

指揮: 阪哲朗
演出: Willy Decker (ヴィリー・デッカー)
公演監督: 平野忠彦
演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団
合唱指揮: 森口真司
合唱: 二期会合唱団


これも又 「後宮からの逃走」 と同様に昨年 Lulu を見に行った為か, 二期会から案内が来て知ったもの。 そう言えば二期会はいつもは往復葉書だけを寄越すのだが, 今回はチラシの他, FAX 用の迄送って寄越した。 珍しい。

Jenůfa は 1894--1903 年作曲。 1904 年ブルノで初演。 1916 年にプラハでの初演で成功を収めたものだそうだ。 チラシなどに書いてある粗筋を読むと, 内容はかなり悲惨。 まぁ Lulu が陰惨な物語であるから, 見られないほどではないであろう。

以下は, e+ から来た e-mail から。

チェコの大作曲家, レオシュ・ヤナーチェクの生誕 150 年にあたる今年。 東京二期会オペラ劇場がムジークテアターの総本山として知られるベルリン・ コーミッシェ・オーパー (KOB) との共同制作によって, その最高傑作 『イェヌーファ』 を上演する。 演出を手がけるのは, 作品の本質を観客の心に焼きつける天才的な手腕で現代オペラ演出の最高峰と評されているヴィリー・ デッカー。 さらに指揮者にはオペラの新時代を担う逸材として期待を集める阪哲朗を迎える。 未婚の母, 極秘出産, 嬰児殺し, 嘆きと真実の愛...。 かなわぬ恋に翻弄されるヒロインが真実の愛に 出会うまでを描いたオペラ 「イェヌーファ」は, 全オペラファン必見の公演だ!

一般発売日初日に e+ で ticket 取りをしたのだが, 開始直後に購入したわけではないのに割りに良い席が取れた。 1F 13-10. まぁ Janáček も Jenůfa もそれほど一般に知られているわけでもないし, 海外の高名な歌姫が歌うわけでもないからこんなものなのかもしれない。

Thursday, 17th June, 2004.


朝日新聞に高橋淳のこんな文が掲載されていた。


僕達の人生は慌だしいものだけれど, 憧れに満ちている。

ヤナーチェクがカミラ・ステッスロヴァーに当てた手紙

晴れ。 会場時間 (17:30) 前には着けず。

プログラムは \1000. 只で置いてある二期会通信 vol. 255 -- 257 がかなり勉強になって面白い。 私の前の席が四席ほど空いている。 その他にも空席がちらほら見える。

18:34 tuning.
I (--19:19)

主人公イェヌーファが舞台中央に立っている。 不安げにあちこちと歩き回るが, 何かにぶつかるかのように立ち止まって踵を返す。 腹の中の子供を気遣ってか, 腹に手を当てる。 舞台は野外らしい。 一面に枯れ葉が敷き詰められているように見える。 スポットライトは最後になるまで使用されない。 照明はその他にも左右から或いは上から当てられるが, 照度, 色味共に場面に合わせて次々と変わっていく。 舞台装置として主なものは 「壁」 で, いつの間にか出現し, 左右を取り囲む。

イェヌーファ, コステルニチカ, 粉屋の番頭はまだいいが全体に声量不足。  オケに負けている。 この点が唯一残念。 オケはいい。

ドイツ語なので所々言ってることが直接分かる。

私の右後ろの席の人が演奏中に話をしてうるさい。 その他咳も目立つ。

《25 分休憩》

この休憩の間に空いている席に男が一人移動 (? 遅刻?) してくる

19:42 tuning
II (-- 20:28)

部屋の中。 白い。 唯コステルニチカのみが黒い服を着ている。 対照的。 北極や南極の image? 雪の風紋? コステルニチカが赤子を捨てるとき, イェヌーファは部屋の中で祈っている。 対照的且つ対称的な動き。 第二幕は祈りが多い。

コステルニチカ苦悩の余り転げ回っているのが slapstick の様で, 一部失笑を買っていた。 この辺は日本人の感覚に合わないのかもしれない。

イェヌーファの右頬に Laca の付けた傷跡。

Bravo の声あり。

《20 分休憩》

20:52 tuning
III (-- 21:31)

コステルニチカはノイローゼ気味。 部屋の中には石が沢山 (歩いているうちに蹴ってしまったりすることもあった)。 イェヌーファは黒い服を着ている。 傷は消えていないが, 化粧で潰している (ちゃんと binoculars で見たので間違いない)。 婚礼のお祝いに赤子の産着が。 赤子の死体が発見され,  イェヌーファが自分の子供だと認めると人々は各々石を手にとって彼女に投げつけようとする。 コステルニチカは殺したのは自分だと告白する。 イェヌーファ, コステルニチカの互いを赦す態度に人々は持ち上げていた石を各々降ろし, 次第に部屋から出ていく。 後ろの壁が次第に前にせり出してくる。 狭くなり扉も閉じられた部屋の中で, Laca とイェヌーファは互いの愛を確かめ合い, 新しい人生に向かって歩き出していく。 が, その前途を暗示するかのように, 照明は暗く, 道は平坦ではない (第一幕の様相を帯びている)。

第三幕のテーマは 「赦し」 で, それに向かって一気に進んでいく。 ヤナーチェクの音楽は, 門外漢にははっきりは分からないが, 民族音楽的な色彩を帯びたものが多用されている。

ところで全体的にそうだが, 特に第三幕は人物の相関関係が分からないと一寸分かりにくい。 その点, プログラムや, 二期会通信を見てない人には分かりにくかったであろう。

訳については日本ヤナーチェク友の会 HP を参照のこと。

演出の Willy Decker は二期会通信 vol. 255 でヨハネによる福音書 8:7 「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が, 先ず, この女に石を投げなさい。」 を引用してこう言う:

これはヤナーチェクの作品を通してのライトモチーフであり, 恐らく最も情熱的で繊細な人間の尊厳を擁護する一節である。 是がオペラの舞台へと展開する。 彼は罪と責任という特に手本のような問題提起をオペラ 「イェヌーファ」 に於て行っている。 そこでは彼はあの世での劫罰と審判によって罪と混乱の原因を示し, そしてそれによって赦しと新しい開始の道を導くことが出来るという洗練された, そして最高の人間的答を見出している。

新約聖書を読んだひとで, 第三幕を観た者は誰でも上記の一節を思い出すであろう。 そして, 我々はまさしくそこでこの世での赦しを目の当たりにするのである。


朝日新聞 evening, Thursday, 9th December, 2004 の記事。

東京二期会がベルリン・コーミッシュ・オーパーと共同制作したヤナーチェクのオペラ 「イェヌーファ」 の公演 (五日, 東京・上野の東京文化会館) を観た。 この共同製作は, 歌手や演奏は二期会側が供給し, 演出と舞台装置などはベルリンと共通のものを用いるというもの。
 ヤナーチェクのオペラでは使用言語の選択という問題は避けて通れないが, 今回はベルリン側が新たに作成した独語訳を用い, 簡素で明解な字幕が付される。 版の問題も最近取りざたされているが, 今回は 1908 年のものを用いている。
 演出と舞台美術は, ドイツ語圏を中心に重要な舞台を手がけているヴィリー・デッカーとヴォルフガング・グスマンのコンビ。 用いられる装置は極めて簡素なもので, 基本的な構成要素は, 両袖と舞台奥の三方を囲む壁だけ。
 この壁が動きを見えるのは最後の場面。 イェヌーファと, 彼女を愛するラツァが, 様々な葛藤を経て, 彼等から取り残されるとき, 舞台奥の壁がせり出してきて, 二人は手前の極狭い空間に押し込められる。 ここで響いてくるのは, 単純な感情では割り切れない, 痛切でしかも暖かい音楽。 イェヌーファは, 村の共同体に追い詰められるのだが, ラツァの変わらぬ愛によって救われ, 二人は困難に満ちているに違いない未来へと共に歩み出す。 それと同時に二人を閉じ込めていた奥の壁は思いがけぬやり方で上へと跳ね上げられ, 二人を解放する。
 この短いシークエンスの造りは極めて強力であり, 観客にこのオペラの焦点がどこにあるかを有無を言わさぬ力で指し示した。
 二期会は, この演出の水準に良く応えた。 とりわけコステルニチカを演じた渡辺美佐子は, このオペラの基調を決定する重要な役を, 安定した声と演技で支えたし, イェヌーファの津山恵, ラツァの羽山晃生は勿論, 脇役ながら峰茂樹等も印象的。 そして, 第一幕で若者たちが演じる大騒ぎの場面も, 良く練られた大胆な動きが魅力的だった。
 阪哲朗指揮による東京フィルハーモニー交響楽団は, 全く傷がないわけではなかったが, しかしヤナーチェクの個性的な音楽をしっかり捉えた引き締まった演奏。
 全体として, 時代や社会背景が, 現代とは全く異なるこのオペラの内容を, それでも切実なものとして伝えることに成功していた。

伊東信宏, 音楽評論家


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