平均値定理と Taylor の定理 mean value theorem and Taylor's theorem.

Wednesday, 16th August, 2000.

実は, この一連の話の中で, 元になっているこの「平均値の定理」が一番難しい。正確には「微分法の平均値定理」であって, 世の中には「積分法の第一平均値定理」「積分法の第二平均値定理」などというのがあって, 非常にややこしい。

微分法の平均値定理は「微分学における最も著しい成果の一つ」等といわれてもいるが, 要するに, 有限な区間で両端点を結ぶと, それと傾きの等しい接線が, どこか間の所で引けるということだけである。

定理 [平均値定理 mean value theorem, Joseph Louis Lagrange 25th January, 1736--10th April, 1813]
函数 f(x) が閉区間 a ≦ x ≦ b で連続, 開区間 a < x < b で微分可能であるならば
[f(b) - f(a)]/(b - a) = f'(c), a < c < b
となる c が存在する。

定理にでてくる [f(b) - f(a)]/(b - a) とは, x = a のところと x = b のところを結んだ線分の傾きだから, 上に述べたようなことで, 成立するのである。特に f(a) = f(b) のときを Roll (ロル) の定理という。証明は面倒なので, 普通の高校の教科書にあるように, 図を描いて納得してもらう (^_^;

[平均値定理]

さて, [f(b) - f(a)]/(b - a) = f'(c) から, 分母を払うと
f(b) - f(a) = f'(c)(b - a).

更に移項すると f(b) = f(a) + f'(c)(b - a) となる。これをお手本にして, 接線の図を見ながら
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + K(b - a)2 と置いてみて, K を求めよう。(縦の実線部分が誤差項 K(b - a)2)

[誤差]

先ず F(x) = -f(b) + f(x) + f'(x)(b - x) + K(b - x)2 と置こう。(この置き方は f(b) を移項して, a だったところを皆 x に置き換えた式を F(x) と新たに置くということ)

F(b) = 0 はすぐ分かる。置き方から F(a) = 0 でもある。そこで, Lagrange の平均値の定理から F'(c) = f'(c) - f'(c) + f''(c)(b - c)- 2K(b - c) = 0 となる a < c < b が存在するが, この式から K = f''(c)/2 であることが分かる。もう一度書き直すと:
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + (f''(c)/2)(b - a)2.

更に気を良くして
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + (f''(a)/2)(b - a)2 + K(b - a)3 と置いてみて, K を求めてみよう。

先ほどと同様に F(x) = -f(b) + f(x) + f'(x)(b - x) + (f''(x)/2)(b - x)2 + K(b - x)3 と置くと, F(a) = F(b) = 0 だから, F'(c) = f'(c) + f''(c)(b - c) - f'(c) + (f'''(c)/2)(b - c)2 - f''(c)(b - c) + 3K(b - x)2 = 0 となる a < c < b が存在するということである。これから K = f'''(c)/(2×3) であることが分かる。もう一度書き直すと
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + (f''(a)/2)(b - a)2 + (f'''(c)/(2×3))(b - a)3.

こういう風にしてみると函数 f(x) の第 m 階導関数を f(m)(x) と書くとき, どうやら
f(b) = f(a) + f'(a)(b - a) + (f''(a)/2)(b - a)2 + …… + (f(n - 1)(a)/(n-1)!)(b - a)n-1 + (f(n)(c)/n!)(b - a)n じゃないかな ? という気がしてくるが, その予想は正しく, これが Taylor の定理である。証明の雰囲気はもう既に二回ほどしてしまったので, 本格的な証明は省略して, 定理だけ述べる。

定理 [Taylor]
函数 f(x) が閉区間 a ≦ x ≦ b でその第 n - 1 階までの導関数と共に連続, 開区間 a < x < b で第 n 階導関数を持つならば
f(b) = Σk = 0n - 1 (f(k)(a)/k!)(b - a)k + (f(n)(c)/n!)(b - a)n.

この定理を見ると, n はいくつでもいいのだから, n → ∞ としたくなるのは人情というもの。即ち

定理
r > 0 に関し, もしも |x - a| < r なる限りにおいて (つまり a - r < x < a + r ならば常に) f(x) が何回も微分でき, a - r < c < a + r なる c に関して一様に
limn → ∞ (f(n)(c)/n!)(x - a)n = 0
であるとすれば, f(x) は次の冪級数に展開される:
f(x) = Σn = 0 (f(n)(a)/n!)(x - a)n.

この最後の式を函数 f(x) の x = a の周りの Taylor 展開という。特に a = 0 のときは Maclaurin 展開ともいう。両方あわせて Taylor-Maclaurin 展開ともいう。

又, 定理の中に現れる r をこの展開の 収束半径 という。

或 x = a の周りで Taylor 展開可能な函数を x = a に於いて解析的 であるといい, 収束半径が ∞ である函数を解析函数 という。


注意: 上記では便宜的に a < b としたが, 実は a > b でもかまわない。


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