指数, 正弦, 余弦函数の Taylor 展開と解析接続 Taylor expansion of exponential, sine, and cosine function and analytic continuation

Sunday, 20th August, 2000.

さて, ではいよいよ, 実際に Taylor 展開をしてみることにしよう。

先ず正弦からやってみると, f(x) = sin x の x = 0 の周りの展開をするが,
f(n)(0) = sin 0 = 0 (n ≡ 0 (mod 4)),
f(n)(0) = cos 0 = 1 (n ≡ 1 (mod 4)),
f(n)(0) = -sin 0 = 0 (n ≡ 2 (mod 4)),
f(n)(0) = -cos 0 = -1 (n ≡ 3 (mod 4))
であるから, Taylor 展開の奇数次の所しか生き残らない。即ち
sin x = f(x)= Σn = 0 (f(n)(0)/n!)xn = Σm = 0 (f(2m + 1)(0)/(2m + 1)!)x(2m + 1)
(= x - x3/3! + x5/5! - x7/7! + ……)
= Σn = 0 (-1)nx2n+1/(2n + 1)!.

注: 奇数次の所しか生き残らないのは, 正弦函数が奇函数であるという性質を見事に表している。奇函数というのは graph が原点対称である函数で, 式で書けば f(-x) = -f(x) という性質を満たす函数である。実は解析函数である限りにおいて, 奇函数は皆奇数次の所しか生き残らない。

同様にして g(x) = cos x の x = 0 の周りの Taylor 展開は
cos x = Σn = 0 (-1)nx2n/(2n)!.

注: この展開も偶数次の所しか生き残らないのは, 余弦函数が偶函数であるという性質を表しているのである。偶函数というのは graph が y 軸対称である函数で, 式で書けば f(-x) = f(x) という性質を満たす函数である。実は解析函数である限りに於いて, 偶函数は皆偶数次の所しか生き残らない。

指数函数 h(x) = ex については非常に簡単で, h(n)(x) = ex だから h(n)(0) = 1. 従って
ex = Σn = 0 xn/n!.

参考までに, y = sin x を Taylor 展開の 1, 3, 5, 7, 9, 11, 13, 15, 17, 19 次の項までで打ち切ったときの曲線の状況を図にしておく。図の y が y = sin x, y1 が 1 次, y2 が 3 次, ... という近似である。y = sin x を上下上下と挟みつつ近付いている様子が見て取れると思う。(上下から近付いていくのは, 正弦函数の Taylor 展開が +, - と順番だからであって, 符号が一定であるような Taylor 展開 --- 例えば指数函数 --- は上下から近付いていくわけではない)

[y = sin x の近似]


さて,  Taylor 展開はどんな x でも成り立つのかって言うと, そんなことはなくって, よく読むと「a - r < c < a + r なる c に関して一様に limn → ∞ (f(n)(c)/n!)(x - a)n = 0 であるとすれば」なんてことが書いてある。細かいことは参考文献で調べてもらうとして, 上記の三つの函数に関しては x は何でもいい。言い換えると収束半径が無限大である。このような函数は比較的珍しいのであるが, まぁとにかく指数, 正弦, 余弦函数は非常に性質の良い関数であるといえる。

Euler の公式の左辺は eπi という形をしているので, 必然的に, Taylor 展開の x のところに πi を代入することになる。そんなことをしていいのか ? という気に一寸だけなるが (笑), 先ず, 解析函数には一致の定理というのがあって, 実数上の或区間上で解析函数が決まっているだけで, (少しずつ step を経ていかなければならないかもしれないが) 実は全複素数上でもう総ての値が決まってしまっている。これは無限回微分可能というだけの性質からは成立しない解析函数だけの良い性質である。この性質を使って, 実数上で決まっている函数を複素数にまで定義域を伸ばしていくやり方を解析接続 (又は解析的延長 analytic prolongation, analytic continuation) という。


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