第二幕 (後半)

ヴェーデキント 「地霊」


第四場

(シュヴァルツ 前と同じ場所)

シュヴァルツ (絵筆を手に持って, 下手のカーテンの下で) 一体どうしたんだい?

ルル (シェーンに) さぁ, お話ししてよ。

シュヴァルツ 一体どうしたの?

ルル いいえ, あなたに関係は...

シェーン (素早く) 静かに!

ルル 私に飽き飽きしたのよ。

シュヴァルツ (ルルを下手の方に連れていく)

シェーン (机の上にあった本のページをめくる) 話さなくちゃいけない。 ついに両手を自由にしなくちゃ。

シュヴァルツ (戻ってくる) 一種の冗談なのか?

シェーン (椅子を指し示して) どうぞ。

シュヴァルツ 何だい?

シェーン どうぞ。

シュヴァルツ (座る) で?

シェーン (座る) お前は五十万と結婚したんだ...

シュヴァルツ 無くなったとでも? (ist sie weg?)

シェーン 1 ペニヒたりとも無くなってはいない。

シュヴァルツ 妙な出来事を僕に説明してくれないか。

シェーン お前は五十万と結婚したんだ...

シュヴァルツ だからって何の罪も犯してはいないぜ。

シェーン お前は名を成した。 煩わされずに仕事ができる。 どんな望みも断念する必要が無い...

シュヴァルツ じゃぁ二人とも僕に何か文句でもあるのか?

シェーン 六ヶ月の間天国をたっぷり楽しんだ。 お前は世間がお前を羨み一人の尊敬できる夫に値することを優先する妻を持ったんだ... (du hast eine Frau, um deren Vorzüge die Welt dich beneidet und die enen Mann verdient, den sie achten kann...)

シュヴァルツ 僕を尊敬してないって?

シェーン そうなんだ (尊敬してないんだよ)。

シュヴァルツ 胸が苦しい - 僕は世間のわびしい奥底から出て来たんだ。 彼女は上からこっちに来た。 同じ身分になるという厚い望みなんて持ってないさ。 (シェーンに手を差し出して) 君に感謝するよ。

(半分当惑して手を握り締める) どうか, どうか。

シュヴァルツ (決心して) 話してくれ!

シェーン 彼女をもっと監視したまえ。

シュヴァルツ 僕が - 彼女を?

シェーン 我々はもう子供じゃないんだ! のらくら暮らしているんではない。 生活してるんだ。 彼女は真面目に受け入れるよう求めているんだ (Sie fordert ernst genommen zu werden)。 全く当然のことだがそれが彼女に値打ちを与えているんだ (Ihr Wert gibt ihr das volle Recht dazu)。

シュヴァルツ 彼女がどうしたんだ?

シェーン お前は五十万と結婚したんだって!

シュヴァルツ (立ち上がって, 我を忘れて) 彼女が...

シェーン (肩をつかんで) いや, そういうことじゃない! (das ist der Weg nicht!) (無理に座らせる) ここで真面目にお互いに話し合わなければいけない。

シュヴァルツ 彼女は何をしているんだ?!

シェーン 計算し直すんだ, 先ず正確に指で, 彼女に何を負っているかを, それから...

シュヴァルツ 彼女は何をしているんだ - おいっ!! (Mensch!!)

シェーン それから自分にお前の過ち (欠点) の責任をとらせるんだ, 他の誰かじゃなくて...

シュヴァルツ 誰と? 誰とだ?

シェーン もしも我々が決闘しなければならないとして...

シュヴァルツ 一体いつから?!

シェーン (質問をかわして) 僕はここにスキャンダルを作りに来たんじゃない。 スキャンダルからお前を逃がすために来たんだ。

シュヴァルツ (頭を振って) 君は彼女を誤解しているんだ。

シェーン (当惑して) それは僕の役に立たない。 僕は君が気付かないままに今後も生きていくことだって出来たんだ (Ich kann dich in deiner Blindheit nicht so weterleben sehen)。 少女がまともな (anständige) 女性 (妻) になるのは当然だ。 僕が彼女を知ってから, 彼女はどんどん立派に成長したんだ。

シュヴァルツ 彼女を知ってからだって? - 一体いつから彼女を知ってるんだ?

シェーン およそ十二の時からだ。

シュヴァルツ (当惑して) そんなこと彼女は僕に言わなかった。

シェーン 彼女はアルハンブラ・カフェの前で花を売っていた。 毎晩十二時から二時までの間客の間を裸足で押し通していたんだ。

シュヴァルツ そんなこと彼女は僕に言わなかった。

シェーン そうするのが当然さ。僕がそれをお前に言って, それによって不道徳をなすべきではないということをお前が認めるんだ (Ich sage es dir, damit du siehst, daß du es nicht mit moralischer Verworfenheit zu tun hast.)。 少女がその反対に珍しく良い性格なんだから。

シュヴァルツ 彼女はおばさんの所で成長したと言っていた。

シェーン それは僕が彼女を引き渡した女のことだ。 彼女は最良の女生徒だったよ。 母親は子供のお手本となるもんだ。 責任感があったよ。 唯一で全てのお前の失敗だな, もしもお前が今迄怠っていたら, 彼女は彼女の最良の時を過ごしていただろう。

シュヴァルツ (すすり泣く) ああ神よ...!

シェーン (力を込めて) 「ああ神よ」 はやめろ! 幸運に頼っても, お前に起こったことは少しも変わらない。 起こったことは起こったことだ。 誓って (gegen besseres Wissen) お前は自分自身を買い被っている, もしも失うと思い込んでいるならば。 勝ち取ればいいんだ (Es gilt zu gewinnen)。 「ああ神よ」 という嘆きでは手に入れられない。 大きな友情に溢れた行為を僕はお前にまだ証明しようとしてはいない。 僕は隠し立てせずに話して, お前に救いを差し伸べたのだ。 お前が品位を落とさないことを証明してくれ!

シュヴァルツ (今からずっと一層くずおれて) 僕が初めて彼女を知ったとき, 彼女は僕に言ったんだ, まだ人を愛したことがないって。

シェーン 未亡人がそれを言ったとしたら! それは彼にとって名誉となったろう, 彼女に夫として選ばれるということは。 同一の要求をお前につきつけるんだ, そうすればお前の幸運は傷のないものであるだろう。

シュヴァルツ 彼は彼女に短い服を着せていた。

シェーン 彼は彼女と結婚していたんだ! - それは彼の主人としての悪戯さ。 彼女がどのように彼にそうさせたかは僕には理解できないがね。 お前もそれを今は知るべきだ。 お前も彼女の駆け引きの成果を楽しむべきだ。

シュヴァルツ じゃぁゴル博士は何処から彼女を知ったんだ?

シェーン 僕を通じてさ! - 僕の妻が死んだあとだったよ, 今の婚約者と最初の関係をつけたのは。 彼女はその間に立とうとしたんだ。 彼女は私の妻になろうと思い込んだんだ。

シュヴァルツ (恐ろしい予感に襲われて) それじゃぁ夫が死んだときには?

シェーン - お前は五十万と結婚したんだよ!

シュヴァルツ (嘆く) 俺は一体どうしたらいいのだ! (Wär’ ich geblieben, wo ich war!) 飢え死にしそうだ!

シェーン (優越して) じゃぁお前は俺が譲歩しなかったと思うのか? 誰が譲歩しないでいられよう? お前は五十万と結婚したんだ。 お前は今日第一級の芸術家だ。 かねなくてはそうはなれない。 お前は彼女を裁判にかけるようなそんな奴じゃない。 ミニョンの様な素性なのだから, 市民社会の理解で計ろうったってお前には出来ない。

シュヴァルツ (混乱して) 誰のことを言ってるんだ?

シェーン 彼女の父親のことさ。 お前は芸術家だと俺は言った。 賃金労働者のとは違う領域にお前の理想はあるんだ。

シュヴァルツ 一言も言っていることが分からない。

シェーン 人間に値しない状態 (関係, menschenunwürdigen Verhältnissen) のことだよ, そこからその少女が彼の導きによってそのように成長した, それが彼女だ!

シュヴァルツ で, 誰のことなんだ?

シェーン 誰かって? - 君の妻さ。

シュヴァルツ エーファ?

シェーン 俺はミニョンと呼んでいた。

シュヴァルツ 彼女はネッリというんだと思っていたが?

シェーン ゴル博士はそう呼んでいた。

僕は彼女をエーファと呼んでいる...

シェーン 彼女が本当は何ていうのか, 私も知らないね。

シュヴァルツ (放心して) 彼女はもしかすると知っているかも。

シェーン 彼女の父親のようなものの元では, 彼女は何かの間違いの驚くべき奇跡だ (Bei enem Vater, wie sie ihnhat, sit sie ja bei allen Fahlern das helle Wuneder)。 俺はお前が理解できないね...

シュヴァルツ 彼は精神病院で死んだ...?

シェーン 彼はついさっきここにいたよ!

シュヴァルツ 誰がだって?

シェーン 彼女の父親さ。

シュヴァルツ 僕のそばのここに?

シェーン こそこそ逃げ出したよ, 私が来たら。 そこにまだグラスがある。

シュヴァルツ 彼女は父親が精神病院で死んだと言ったんだ。

シェーン (励まして) 彼女に権威を与えるんだ! 無条件の服従をすることを最早彼女は求めちゃいない。 ゴル博士によって彼女は天国にいるかのようだった。 そしてそれは冗談じゃないのだ。

(頭を振って) 彼女は言ったんだ, まだ人を愛したことはないと...

シェーン おまえ自身で始めなきゃいけないんだ。 力を奮い起こすんだ。

シュヴァルツ 彼女は誓ったんだ!

シェーン 自分自身の仕事を知らない前には, 義務を感じることが必要じゃないんだ。

シュヴァルツ 彼女の母親の墓に!

シェーン 彼女は母親を知らないよ。 ましてや墓なんか。 - 母親には墓がないんだ。

シュヴァルツ (絶望して) 俺は社交界 (社会) には馴染めない。

シェーン どうしたんだ?

シュヴァルツ 恐ろしいほどの苦悩 (痛み) だ。

シェーン (立ち上がって, 後ろに下がり, 少し間を置いて) 彼女をお前の下に置いておくんだ, お前のものなんだから。 - この瞬間が大事なんだ。 明日にはいなくなってしまうかもしれない。

シュヴァルツ (胸を指し示して) ここだ, ここなんだ。

シェーン お前は五十... (良く考えて) お前がこの瞬間を逃すと, 彼女は失われてしまうぞ!

シュヴァルツ 泣くことが出来たら! - ああ, 泣きわめくことが出来たら!

シェーン (肩に手を置いて) 惨めにも... (Dir ist elend...)

シュヴァルツ (立ち上がって, 見かけ上静かに) 君は正しい, 全く正しい...

シェーン (手を握って) 何処に行こうというのだね?

シュヴァルツ 彼女と話すんだ。

シェーン それがいい。 (彼を伴って下手の扉へ)

第五場


ぼやき

Du überschätzest dich gegen besseres Wissen, wenn du dir einredest, zu verlieren. どういう構文なんだ? back


第五場

(シェーン そのあとすぐルル)

シェーン (帰ってきて) 一仕事だったよ。 (一呼吸置いたあと下手を見て) 彼は彼女を前にアトリエに連れてきたことがあった...?

上手から恐ろしいうめき声

シェーン (急いで下手のドアに行き, 鍵がかかっているのを発見する) 開けろ! 開けろ!

ルル (下手のカーテンから出て来て) 一体... (Was ist?)

シェーン 開けろ!

ルル (段を降りてきて) 恐いわ。

シェーン 台所に手斧はないか?

ルル すぐに開けると思うけど...

シェーン 彼女を入れたくない。 (Ich mag sie nicht eintreten)

ルル 思う存分泣いていてくれれば。 (Wenn er sich ausgeweint hat.)

シェーン (扉を足でどんどん蹴って) 開けろ! (ルルに) 手斧を取ってきてくれ。

ルル 医者を呼びにやるわ。

シェーン 頭がおかしくなっている。

ルル いい気味だわ。

廊下で鐘が鳴る。 シェーンとルルは互いに見つめ合う。

シェーン (おずおずと後ろに下がり, 扉の所で立ち止まる) まだここで見つかるわけにはいかない。

ルル もしかすると美術商かもしれないわ。

鐘が鳴る

シェーン でも答えないでいると...

ルル (ゆっくりと扉の方に近付く)

シェーン (彼女を押しとどめて) 待って (Bleib)。 すぐそこにいるとは限らない。 (つま先立ちで出ていく)

ルル (鍵のかかった扉の所に戻って来て, 聞き耳を立てる)


第六場

(アルヴァ・シェーン 前と同じ場所。 あとでヘンリエッテ)

シェーン (アルヴァを導き入れながら) 静かにしてくれ。

アルヴァ (非常に興奮して) パリで革命が勃発した。

シェーン 静かにして。

アルヴァ (ルルに) あなたは死人のように真っ青だ。

シェーン (扉を揺り動かして) ヴァルター! - ヴァルター! (あえぎ声が聞える)

ルル 神よ, 哀れみを...

シェーン 手斧を取りに行ってくれないか?

ルル 確か一つあったと (Wenn eines da ist)... (ためらいつつ上手後ろへ退場)

アルヴァ 彼は我々を煙に巻こうとしてるんだ。

シェーン パリで革命が起こったって?

アルヴァ 編集局では走り回って頭を壁にぶつけてるんです (Auf der Redaktion renne sie sich den Kopf gegen die Wand)。 誰も何を書いていいか分からないんです。

廊下で鐘が鳴る

シェーン (扉をどんどん蹴って) ヴァルター!

アルヴァ 突き破りましょうか?

シェーン 私もやろう。 誰が来るか分からない (Wer da noch kommen mag)! (天を仰いで (sich emporrichtend)) 人生を楽しみ他のことに責任を負え (Das freut sich des Lebens und läßt es andere verantworten)!

ルル (台所用の手斧を持って戻ってくる) ヘンリエッテが家の方に向かっているわ。

シェーン 君の後ろのドアを閉めなさい。

アルヴァ 寄越してくれ。(手斧を取って支柱と扉の鍵の間に突き刺す)

シェーン もっと力を込めてはめるんだ。

アルヴァ すぐに壊れるさ。(扉が鍵からはじけ飛ぶ Die Tür springt aus dem Schloß. 手斧を取り落としてよろめいて戻ってくる -- 沈黙 Pause)

ルル (扉を指し示して, シェーンに) あなたの後で。

シェーン (たじろいで)

ルル めまいでも - するの? (Ihnen wird - schwindelig...?)

シェーン (額の汗をぬぐって入っていく)

アルヴァ (長椅子の上で) 恐ろしい!

ルル (扉の支柱に寄りかかって身を支え, 指を口の所に持ち上げて, 突然叫び声を上げる) おお! - おお! (急いでアルヴァに) 私はここにはいられないわ。

アルヴァ 恐ろしい!

ルル (彼の腕をつかんで) 来て。

アルヴァ 何処へ?

ルル 一人ではいられないわ。 (アルヴァと共に下手に退場)

シェーン (上手に戻って, 鍵束を手にしている; 手が血を示している; 扉が後ろで閉まり, 鍵を開けて二つの手紙 (Billett) を書く)

アルヴァ (下手に行って) 彼女は着替えている。

シェーン 彼女は行ってしまったのか?

アルヴァ 部屋にいるよ。 着替えているよ。

シェーン (呼び鈴を鳴らす)

ヘンリエッテ (入ってくる)

シェーン バーンシュタイン先生は何処に住んでいるか知ってるかい?

ヘンリエッテ 存じております, 先生。 丁度お隣です。

シェーン (彼女に書き付けを一枚渡して) これを持って行ってくれ。

ヘンリエッテ 先生がご在宅でない場合はどういたしましょう?

シェーン 家にいるさ。 (もう一枚の書き付けを渡す) それからこれを警察本部に持って行ってくれ。 辻馬車に乗ってお行き。

ヘンリエッテ (退場)

シェーン 準備は上々だ (Ich bin gerichtet)。

アルヴァ 血が凍りついたよ。

シェーン (上手に向かって) 馬鹿者が!

アルヴァ やっと分かったのかい?

シェーン 奴は自分自身に関わり合い過ぎる。

ルル (ダスターコートStaubmantel ととんがり帽 Spitzenhut をかぶって下手の段の上にいる)

アルヴァ じゃぁ今は何処に行こうとしてるんだい?

ルル 表へよ。 どの壁にもそれがあるんですもの (Ich sehe es an allen Wänden)。

シェーン 彼は書類 (旅券? Papiere) をどこにやったんだ?

ルル 書き物机の中よ。

シェーン (書き物机の所へ行く) 何処?

ルル 右手の下よ。 (書き物机の前にひざまずき, 抽斗の一つを開き床 Boden の上に書類をぶちまける) ほら。恐れることなんかないわ。 秘密なんか何にもないもの。

シェーン じゃぁ僕は世界から手を引こう (Jetzt kann ich mich von der Welt zurückziehen)。

ルル (ひざまずいて) 文芸欄 (Reuilleton) を書いてよ。 彼をミケランジェロと呼んで。

シェーン 何の役に立つというのだ - (右の方を指し示して) あそこには私の婚約が (Da liegt meine Verlobung)!

アルヴァ あなたの戯れの呪い (Fluch deines Spiels) だ!

シェーン 道で叫べばいいだろう!

アルヴァ (ルルの方を指し示して) 母が死んだときに, 少女に関係することはまことに当然のことなんですね (Hättest du, als meine Mutter starb, an dem Mädchen gehandelt, wie es recht und billig gewesen wäre) !

シェーン (上手の方へ) あそこで私の婚約が出血多量で死んでいこうとしているのだ!

ルル (立ち上がって) ここには長くはいられないわ。

シェーン 一時間のうちに号外が売られるだろう。 道に出るべきではないな。

ルル 何をしようっていうの (Was können denn Sie dafür)?

シェーン それだからだ (deshalb gerade)! その為に私に石を投げて殺すがいい (mich steinigt man dafür)!

アルヴァ 旅行に出かけた方がいい。

シェーン スキャンダルを自由の野に解き放つためにか!

ルル (長椅子で) 十分前にはまだ彼はここに寝そべっていたのね。

シェーン それが俺が彼にしてやったことに対する感謝なのか! 一秒のうちに俺の命を瓦礫の山の中に投げこみおって!

アルヴァ 程々に願いますよ!

ルル (長椅子の上で) ここにいるのは私達だけよ (Wir sind unter uns)。

アルヴァ どういう風に (Und wie)!

シェーン (ルルに) 警察にはなんて言うつもりなんだい?

ルル 何も (Nichts)。

アルヴァ 彼は彼の運命にしっぺ返しをしようとしたのだ (Er wollte seinem Geschick nichts schuldig bleiben)。

ルル 彼はいつも自殺念慮を抱いていたのよ (Er hatte immer gleich Mordgedanken)。

シェーン 彼は人が唯夢想するだけのことを抱いていたのか (Er hatte, was sich ein Mensch nur erträumen kann) !

ルル 彼はその報いを受けたのよ (それに高い報酬を払ったのよ Er hat es teuer bezahlt)。

アルヴァ 彼は我々が持たないものを持っていたのだ!

シェーン (不意に怒り出して) 理由が全く分からん (Ich kenne keine Gründe)。 私にはお前にかまっている何の理由もないんだ! お前に並ぶ兄弟姉妹を作らせないために, お前が何もかも揺さぶろうってんなら (Wenn du alles in Bewegung setzt, um keine Geschwister neben dir zu haben), 俺には他の子を育てる理由があるというわけだ (so ist das für mich ein Grund mehr, mir andere Kinder zu erziehen)。

アルヴァ あなたは良くない人情に通じた人 (ein schlechter Menschenkenner) だ。

ルル 自分で号外を出すのよ。

シェーン (凄まじく憤激した調子で) 彼には道徳的良心というものがないのか! (丁度その時彼は突然落ち着きを取り戻して) パリで革命だって -?

アルヴァ 我々の編集者は腰を抜かしましたよ (wie fom Schlag getroffen)。 何もかも停滞しています。

シェーン それで助かるに違いない! -- 警察が来さえすれば! 時間は金で買えない (Die Minuten sind nicht mit Gold zu bezahlen)。

廊下で鐘が鳴る。

アルヴァ ほらおいでなすった (Da sind sie)...

シェーン (扉の方へ行こうとする)

ルル (飛び上がって) お待ちになって, 血が付いてるわ。

シェーン 何処に...?

ルル お待ちになって, 私が拭いてあげるから。 (ハンカチにヘリオトロープをかけ, 手でシェーンの血を拭う。)

シェーン それはお前の夫の血だ。

ルル これで染みにならないわ (Es läßt keine Flecken)。

シェーン 恐ろしい!

ルル でも私と結婚するわね。

廊下で鐘が鳴る。

ルル 只堪えなさい (Nur Geduld, Kinder)。

シェーン (下手より退場)


第七場

エシェリッヒ. 前と同じ場所。

エシェリッヒ (シェーンに導かれて入場, 息切れしている) 失礼ですが, 自己 - 自己紹介を, させて, させていただきます... (Erlauben Sie, daß ich - daß ich mich Ihnen - Ihnen vorstelle)

シェーン 走ってきたのか?

エシェリッヒ (名刺を手渡して) 警察本部からこっちへ。 自殺だって, 聞いたんですが。

シェーン (読む) フリッツ・エシェリッヒ, クライネン新聞社 (Kleinen Neuigkeiten) 特派員。 - こちらへ。

エシェリッヒ 一寸お待ちを。 (メモ帳と鉛筆を取り出し, 客間を見回し, 少し言葉を書く。 ルルにお辞儀をして, 又書く。こ じ開けられた扉の方を向いて又書く。) 料理用手斧... (取り上げようとする)

シェーン (引き留める) どうか。

エシェリッヒ (書く) 扉は料理用手斧出こじ開けられた。 (鍵を調べる)

シェーン (扉に手をかけて) どうぞ。

エシェリッヒ 扉を開けていただきありがとうございます (Wenn Sie jetzt die Liebenswürdigkeit haben wollen, die Tür zu öffnen)。

シェーン (扉を開ける。)

エシェリッヒ (メモ帳と鉛筆を取り落とし, 髪に手を突っ込んで (fährt sich in die Haare)) ああ, 何ということだ (O du barmherziger Himmel noch mal)...

シェーン とくとご覧なさい (Sehen Sie sich alles genau an)!

エシェリッヒ 目も向けられない (Ich kann nicht hinsehen)。

シェーン (あざけって叱りつけて) 一体何の為にやって来たんだ君は!

エシェリッヒ か - カミソリで - く - 首を切り離して...

シェーン とくとご覧になったかな?

エシェリッヒ どんな気持ちで (Das muß ein Gefühl sein!)

シェーン (扉を閉め, 机の方に歩いていく) お座りなさい。 紙と羽ペンだ。 お書きなさい。

エシェリッヒ (機械的に座って der mechanische Platz genommen) 書けない...

シェーン (椅子の後ろに立って) 書くんだ! – 被害妄想 (Verfolgunguswahn) が...

エシェリッヒ (書く) 被-害-妄-想-が...

廊下で鐘が鳴る。


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